あるいは一つの可能性
※memoログ。猛獣シズイザと津軽×サイケな小ネタ連載。










愛とか、恋とか。
そんな難しいことは、サイケには理解できなかった。
ただ、ただ、サイケは津軽が好きだった。
だから、

「どうして好きだけじゃだめなのかな」

そう疑問に思う。
好きであれば、それだけでいいのではないのか。
そう思うのに。

「つがる」

名前を口にするだけで、あったかい気持ちになる。
臨也とも静雄とも違う、自分にとってたったひとりのひと。

「…つがるは、おれの、」

何なのか、と問われれば、同じ存在だと答えるしかない。
この世でおそらく唯一の同種。
同じ、造られた、人工の生命体。
でも、それよりも何よりも。
サイケにとって重要なのは、

「おれは、つがるが好きなだけなのに」

ただ、それだけだった。



※好きなのだけは確かなのに。
サイケの情緒未発達加減は来神時代の臨也さん以上です。

















――じゃあ、まずは君がどういう風にどれくらい津軽を好きなのか試そうか?
楽しげにそう言った臨也に、サイケは頷くしかなかった。
具体的にどうすれば自分の悩みに答えが出るのか、まるで思いつかなかったからだ。



「今日で、みっかめ…」

すでに臨也の言葉に乗ったことを後悔し始めていた。
臨也が提案したのは、どれくらいの間、津軽と必要最低限の接触と会話だけでいられるかというもので。

「臨也くんは…シズちゃんと一緒じゃなくてもへいき、なのかな?」

おれはつがるといられなくてこんなに寂しいのに、と呟く。
臨也も静雄もそれぞれの仕事を持った大人だ。すれ違う生活が続くこともないわけではない。なのに、臨也は決してそのことで不平や不満を漏らしたりしないのだ。それがサイケには理解できない。否、理解できないことに、今気が付いた。

「だって、おれはつがるといたいもん」

側にいたい。いっぱい話したい。ぎゅっと抱き締めてもらうと胸がほわりと暖かくなる。
臨也と話して思ったのは、ただサイケにとって津軽がただ一人の存在だということだ。同列はなく、代えもきかないたった一人。
愛とか、恋とか。
そんなものは理解できない。

「でも、やっぱりおれはつがるが好き」

だから――。

「臨也くん、おれ――」

サイケは早々にギブアップすることにしたのだった。






「思ったより遅かったかな」
「…え?」
「サイケのことだから、1日もあれば耐えられなくなるかと思ったんだけど」
「酷いよ臨也くん!おれ本気でがんばってがまんしたのに!」
「あはは、ごめんごめん」
「うう〜…」

ぷうっと頬を膨らませて怒るサイケに、臨也はごめんねと頭を撫でてきた。
怒っているアピールを続けたままでいると、悪かったよ、と言ってさらにも一度頭を撫でて。
臨也はサイケの目を覗き込んでくる。
独特の色の瞳で何かを探るようにしばらく凝視して。それから、彼はうんと頷いた。

「サイケ、これからいくつか質問するから、分からなくてもゆっくり考えて正直に答えてくれるかい?」

何かを企む時のそれと似た、だがそれよりも遥かに穏やかで優しい眼差しに。
サイケはこくりと頷くことで応えた。















自室でサイケはひとりぼんやりと先程の臨也との会話を思い出していた。
――好きの形なんて人の数だけあるんだから。
そう、臨也は言った。
その上で、臨也はサイケにたくさんの質問をした。
途中何度も答えに詰まって。それでも答えきったサイケに、臨也は目を細めて楽しそうに笑った。

「おれは、つがるが好き」

本当に君は津軽が好きなんだね、と笑った彼は。
サイケの頭を撫でて、言った。

「おれの好きにすればいいって…どうすればいいんだろ」

臨也はサイケに結論を出してはくれなかった。
ただ、君の中にもう答えはあるよ、と言っただけで。
でも、サイケにはその答えが分からない。

「しずちゃんにも、聞いてみようかな…」

臨也を好きだと臆面もなく言える彼なら、サイケの欲しい答えをくれるかもしれない。
そう思って。
サイケは静雄がいるはずのリビングに向かうべく立ち上がった。





「あー…じゃあそれでサイケのやつ、津軽を避けてたのか」
「うん、そう」
「…手前な。津軽がどれだけ落ち込んでたか知ってるのか?」
「知ってるよ」
「………」

にんまりと笑った臨也の顔に、静雄は渋面をつくる。
最低最悪な性格はこんな時も健在だ。大方、サイケと津軽が悩んでいるの傍観者の位置で楽しんでいたのだろう。

「あはは、そんな顔しないでよ。さすがに俺もそろそろ何とかしてあげた方がいいかな、とは思ってるんだからさ」
「何とかって…何する気だ?」
「ふふ、秘密。でも、俺と違ってサイケはきっかけがあればちゃんと自覚するだろうからね。だから、そのきっかけを作ろうと思ってるとだけ言っておくよ」
「…拗れさせるなよ?」
「サイケは俺よりずっとずっと素直だから、たぶんそれは大丈夫だって」
「………」
「っと、サイケが来るよシズちゃん」

くすくすと笑う臨也が一体何を企んでいるのか。
何となくろくでもないことのような気がして、静雄は頭が痛ぇな、と呟いた。