恋する怪物 3
※シズ→イザ。2010年ハロウィンネタの続編。









二人に言われ、静雄はそこでようやく自分の腹の音に気が付いたらしい。
あ、という顔をして、それから頬をかく。

「あー…忘れてた、か?」

ぐう、とまた鳴る腹。緊張感はその音だけでもはや完全に失われてしまっていた。

「…普通忘れないよね」
「うん」

信じられないと溜息をついてから臨也は「丁度いいから新羅のとこに寄ってもらっていけばいいよ」と口にして。
そして自身はさっさと出て行くべくエレベーターのボタンを押す。

「おい、臨也」
「ちょっと待ってよ臨也。静雄と一緒に帰ってよ」
「はあ?なんで俺がシズちゃんと一緒に帰んなきゃいけないのさ?」

冗談だろうと唸る臨也に、新羅はにっこりと笑っていった。

「俺はさっき忘れ物は持て帰ってねって言ったよね?」
















新羅が血液パックを出してくる間。
臨也と静雄は気まずい沈黙を強いられていた。

「…なぁ、臨也」
「なに」

耐え切れなくなったのか、痺れを切らしたのか。
静雄が声をかけるが、臨也は一瞥もせずに平坦な声を返すだけで。
静雄は苛立ちを覚える。

「手前がよぉ、俺の告白を迷惑に思ってることは知ってんだよ。本当に、俺は別に手前に付き合えなんて言わねぇし、付き合えるとも思ってねぇ。そもそも手前性格最悪だしな」

サングラス越しに臨也を見つめながら言えば、臨也は小さく溜息をついた。

「ねぇ、シズちゃん」
「なんだよ」
「シズちゃんは、結局のところどうしたいわけ?」
「あ?」

何のことだと首を傾げる静雄。
それにイラついたのか、臨也はギロリと睨みつけてくる。

「だから、君は俺とどうなりたいのかって訊いてるんだよ。君がわざわざ俺に告白したのはどういうわけなの?ただ言っておきたかったとか、正直すごく迷惑。まだどうして欲しいのかはっきりしてくれたほうがこっちも対応しやすいんだけど?」
「………」

そんなの、問われるまでもない。
静雄は臨也が好きだと自覚して、臨也を欲しいと思ったのだ。
それは偽ることのできない欲求だが、それを臨也に押し付けようと思わなかったから、伝えられるだけでもいいと告白するだけで我慢したというのに。

「なら、手前は俺が手前と付き合いたいって言ったらどうする気なんだよ」

低く、唸るよな声で問いかける。
それに対して、臨也はにやりと口の端を吊り上げて、笑って言った。

「考えてあげるよ」
















正直な話。
臨也は別に静雄と付き合いたいなどと思っていなかった。
臨也は静雄の告白後も相変わらず静雄が嫌いであったし、殺したいとも思っていた。
自分の思い通りには絶対にならない唯一の存在。しかも人間ではなく、自分と同じ怪物だ。最初こそ好奇心と打算で近づいたが、これは無理だとすぐ諦めて潰すことに決めた。もっとも、未だに潰すことには成功していないのだが。
それでも、考えてやるといったのは、ただ。

「そこまで付き合う気はないって言われると、なんかムカつくなぁ…」

小さく相手に聞こえぬように呟く。
不愉快だった。理由は分からない。ただ、酷く不愉快だった。

「ねぇ、シズちゃん。君は俺と付き合いたいのかい?」

赤い瞳でまっすぐ静雄を睨みつけて。
臨也は今後の行動を決めるために答えを求めた。