あるいは一つの可能性
※memoログ。猛獣シズイザと津軽×サイケな小ネタ連載。
まだ続きます…。









◆あるいはひとつの可能性 25


「派手にやってるなぁ」

本当に真正面から入ったらしい静雄が暴れる音に、臨也は大きく溜息をついた。
それを隠蔽するのが自分であることを考えるとそれも仕方ないというものである。

「しかし、こんなに簡単に侵入できると拍子抜けだね。まあ、できれば俺は派手に動きたくないからいいけど」

呟きつつ棚を漁っていた臨也は、これかな、と言って中から書類の束を引っ張り出した。
内容を読みながら記憶と照合する。

「ん、間違いないね」

予定通り目的の物は手に入れた。
あとは二度と手出しできないように脅すなりなんなりすればいい。

「誰だ!?」
「あ、見つかったか」

しかし、

「いきなり拳銃は物騒すぎないかな?」

一応ここ日本だよ?と両手を挙げて言う臨也に、相手は自身の優位を確信した笑みを浮かべて問う。

「下の野郎の仲間か?」
「さあ。そうだな…強いて言うなら、今の俺は回収屋さんってとこかなッ」
「!」

まさか相手も銃を持った人間に突進してくる馬鹿がいるとは思わなかったのだろう。
床を蹴って直進した臨也に一瞬対応が遅れる。そして、臨也にはそれだけの隙があれば充分だった。

「甘いなぁ君。油断大敵ってやつだ。世の中何が起きるかわからないんだから、殺せる時に殺すべきだよ?」

喉元に押し当てられたナイフに。
男は何が起きたのかわからないながらも動けば危ないことだけは理解したらしい。
青ざめた顔に笑って、臨也は相手の手首を握る指に力を込めた。

「ひ、」
「叫ばないでよ、煩いから」

静雄のように骨を折るほどの力はないが、臨也も決して非力なわけではない。
ちゃんと狙った場所に力をかけさえすればいいのだ。
ごり、と骨がずれた音。

「――ッ」
「煩い」

泣き叫ぶ寸前に、手刀で気絶させる。
ぐらりと傾いで沈んだ身体を受け止めて。
ごとりと落ちた拳銃を眺め、臨也はさてどうするかな、と考えた。



※裏でこそこそする臨也さん。
















◆あるいはひとつの可能性 26


「ここどこかなぁ…」
「出口に近づいている気はしないな」

見つかっては逃げてを繰り返しているうちに、どうやら奥の方へきてしまったらしい。
そう思うがまったく窓のない廊下ではどちらへ向かえばいいのかわからなかった。

「つがる、どっちへ行けばいいと思う?」
「…そうだな」

津軽は答えようとして――微かに聞こえた音にサイケと顔を見合わせた。

「ね、これってもしかして」
「静雄、だな」

自分たち以外にこの建物で暴れ回る人間など、他に思い浮かばない。

「…臨也くんもいるのかな?」
「少なくともこの建物にはいるはずだな」
「だよね。だったら、とりあえずシズちゃんと合流しよっか」
「ああ」

そうするか、と津軽が頷いて。
二人は破壊音のする方へ進むことにした。















◆あるいはひとつの可能性 27


「クソッ…どこにいやがるんだあいつら」

イライラが収まらず壁を殴った静雄は、蹴散らした男をまたいで先に進む。
廊下の角を曲がろうとして、人の気配に気付き身構えて。

「っと、サイケ?」
「シズちゃん!」

ナイフを持って臨戦態勢で現れた相手に目を瞬かせた。
相手の臨也のものよりも赤の薄い瞳が見開かれて、次いでじわりとその目に涙が浮かぶ。

「シズちゃん!やっと会えた!!」

勢いよく抱きついてくるのを支えて、静雄はサイケの後ろにいた津軽に声をかけた。

「ケガ、してねぇか?」
「大丈夫だ」
「そうか、なら良かったけどよ」

こくりと頷く自分と同じ顔に静雄も頷き返して。
そういえば、と思う。

「臨也にやつには会ってないのか?」
「…いや、まだだ。やはり来ているのか?」
「おう。…ってあの野郎、どこで油売ってやがるんだ。やっぱあとで殴っとくか」
「…それよりシズちゃん、はやく脱出しようよ」
「ん、ああ。そうだな」

サイケの言葉に確かにそうだなと思って元来た道を戻ろうとした時――。



銃声が響いた。



※多分本当ならサイレンサーついてると思うとか気にしない方向。















◆あるいはひとつの可能性 28


「ちっ」

床に当たったそれに舌打ちして、静雄は身を翻しそちらを見た。
男が二人。雑魚といって差し支えない相手だが、銃を持っているというのがいただけない。

「…鉛中毒はやべぇよな」

上司の言葉を素直に信じているあたりが彼らしい。が、そのことに突っ込んでくれる人間は不在だった。

「シズちゃん」
「少し下がってろ、何とかする――」
「シズ…ちゃん、どうしよう」

動揺したサイケの声に、静雄が訝しげな表情をする。

「静雄、落ち着いて聞いてくれ」
「津軽までどうした?」

なんだ?と問うが、その時点ですでに酷く嫌な予感がした。
サイケが今にも泣きそうな顔で静雄の腕を引いて、津軽も蒼白な顔のまま銃を向ける敵に向かって身構える。

「さっきの銃声は二つだった」

だが、静雄たちの足元を穿ったのは一発だけ。
なら、ほとんど重なるように聞こえた銃声は――

「臨也が撃たれた」















◆あるいはひとつの可能性 29


瞬間、脇腹を灼いた痛みに臨也はおや、と首を傾げた。

「これは、油断したなぁ」

ズキリと痛むそこを見下ろして、ついでに先程気絶させた男を床に放って。
それから銃を構えた男に視線をやる。

「警告なしで撃つのはいい線行ってたかな?君、ひょっとして人を殺したことでもあるのかな」
「っ…く、来るなっ」
「ははっ…うん、それが正しい反応だよねぇ。普通、銃で撃たれた人間が平然と歩いてるとかないだろうしさ。残念だったね。俺は、シズちゃんほどじゃないけどちょっと普通じゃないんだよ」
「ヒッ」

もう一度引き金を引こうとした男が最後に見たのは、たぶん振り下ろされるナイフの切っ先だったろう。
接触寸前でくるりと回して柄で殴って気絶させて。
臨也は動くたびに鉄錆の匂いのする体液を零す傷口を面倒そうに見下ろした。

「…止血しないと、これはマズイかもな」

痛みに鈍い身体で良かったなどと思いつつ、適当に気絶した男の上着を破って傷口付近を拭う。
出血量が多いが、動けなくなるまでにはまだ時間がありそうだった。

「ん…まあ仕方ないね」

ポケットから携帯を取り出し、かける。

「あ、どうも。折原です。いつもお世話になっています。ああ、はい。その件なんですけど、少しお願いがあるんですよ――」

電話越しに響く相手の嫌悪を隠さない声を聞きながら。
臨也は楽しげに楽しげに、心底楽しげににんまりと笑みを浮かべた。


――じゃあ、仕上げといこうか。



※撃たれたけど今のとこまだピンピンしてます。















◆あるいはひとつの可能性 30


――臨也が撃たれた。
その津軽の言葉に静雄は一瞬目を見開いて。

「…っ、あの馬鹿」

低く唸るような声を出した。

「ちっ、じゃあさっさとこいつら片付けてノミ蟲のとこ行かねぇとなぁ」
「静雄…?」
「つうわけでよ、俺は急がなきゃなんなくなったからよぉ」
「しずちゃん?」
「とりあえず、手前らまとめて死んどけ!!」

静雄の咆哮とほぼ同時。
ごしゃっとそれはもう嫌な音を立てて、拳銃を持った男たちは壁の下敷きになった。
壁は別に何かの比喩ではない。文字通り壁を引っぺがしての攻撃など誰が予測できただろうか。(それでも誰も死んでいない辺りが静雄らしいかもしれない。)
…………。

「シズちゃんってすごいね、つがる」
「あの臨也を負かせる人間だけのことはあるな」

ふーと大きく息を吐いて。
静雄は剣呑な眼差しのまま歩き出す。

「行くぞ」
「うん」
「ああ。…だが静雄、臨也の居場所はわかるのか?」
「あ?んなの決まってるだろうが」
「「?」」

まさかわかると言われるとは思っていなかったサイケと津軽が目を丸くして静雄を見る。

「悪役と臨也は高いところにいるって相場が決まってんだよ」

どんな理屈だ。
そう突っ込みたいが突っ込んでいいものか悩むほど静雄は自信満々だ。

「とりあえず上行くぞ。あの馬鹿ノミ蟲は痛覚が鈍いせいで無茶ばかりしやがるからな。さっさと捕獲しねぇとその辺で野垂れ死ぬかもしれねぇ」

ずんずんと迷いなく歩いていってしまう後姿に、二人は顔を見合わせる。

「……臨也くん上にいると思う?」
「静雄がいるって言うんだから、たぶんいるんじゃないか」

とりあえず静雄の発言が野生の勘によるものであることを祈るしかないな、と津軽は嘆息して。
行くぞとサイケの手を握って静雄の後を追いかけた。















◆あるいはひとつの可能性 31


静雄が臨也のいる場所へ迷うことなく進みだした頃。
臨也は撃たれた場所から少し離れた廊下に居た。
足早に、でも周囲を警戒しながら歩く男の後ろ姿を見つけにやりと笑う。

「ああ、やっと見つけましたよ」

臨也が出した声に、その男はビクリと身を竦ませた。
恐る恐るという風情で振り返った顔は真っ青で、くつくつ笑う臨也に怪物を見るような目を向けている。
その原因を知っているから、やはり笑うしかない。

「ホント馬鹿なことをしましたよねぇ。ネブラ製薬はともかく、粟楠会を出し抜けると思ってたんですか?貴方が持ち出すよう指示したもののせいであちらは酷くご立腹のようでしたよ?」

臨也は一旦言葉を切って、表情から笑いと呼べるものを消し去った。

「まあ、一番馬鹿なのは、仮にも裏社会にどっぷり浸かりきった人間が、俺の契約対象に手を出したことでしょうけどね」

知らなかったわけではないだろうと問いかける声は、死刑宣告にしか聞こえなかっただろう。
ヒッと悲鳴を上げ逃げようと走り出す相手を追うでもなく、臨也ははあ、と溜息をついた。
生憎、逃走する人間を追えるような体調ではなかった。止血はしたものの撃たれたことにかわりはない。
貫通していない銃弾はいまだ体内に留まっていて、とてもではないが激しい運動ができる状態ではなかったのだ。

「あー…ちょっと、くらくらする、かも」

ずるずるとそのまま座り込んで、誰も来ないといいなぁなどとのんきに考える。
が、日ごろの行いが悪い彼の願いが叶うはずもなく。

「あーあ、やっぱりこうなるか」

やってきたのは明らかに警備の人間ではなさそうだが、敵にかわりはない。
臨也を見つけ慌てて駆け出す相手に、次の敵の来訪を予想して溜息をつく。
と。

どごっ。

そんな音をさせて、通路を曲がろうとした相手が吹っ飛んで壁に当たった。
当然そんなことができる人間などそうそういない。可哀想に、と思ってもいないことを口にして。
臨也は鈍痛を押し殺し小さな笑みを作って、現れた相手に手を振った。

「やあ、シズちゃん」

元気そうでなによりだよ。そう血の気の失せた顔で笑う臨也に、静雄が青筋を浮かべるのが見えた。

「…このノミ蟲が、こんな時までへらへら笑ってんじゃねぇ!」



※やっと合流。