超短文7題 10
※memoログ。10−1〜10−7まで。









超短文7題10−1 嫉妬


「…しずちゃんの、ばか…もうやだ、きらい」
「臨也、飲みすぎだ。もう止めとけ」
「やら…もっと飲むもん…うぅ…」

どうしたものか、と思いながら門田はまだ飲もうとする臨也から酒の入ったグラスを取り上げる。
自棄酒に付き合うのはこれが初めてではない。臨也の酒量はすでに把握していた。

「とにかくもう飲むな。これ以上飲むとまた記憶が飛ぶぞ」
「やら、もっと飲む」
「ダメだ、…と…おい、こっちだ」

店に入ってきた静雄の姿を見つけ、手を上げて呼ぶ。

「…門田、毎回毎回悪ぃ」
「いや、別にいいけどな。ほら、臨也」
「…んー?」
「静雄が来たからちゃんと話し合えよ」

門田の言葉に臨也が目を瞬かせ。
僅かに酔いが醒めたのか、不愉快そうに眉を寄せた。

「…なんで、しずちゃんがいるの」
「俺が呼んだ」
「どたちんのばか、うらぎりもの」
「あーわかったわかった。とにかく話し合え、いいな?」
「うー…」

静雄に席を譲って門田は立ち上がる。
後は任せるぞと言えば、静雄がわかってると頷いた。

「…しかし、毎回毎回お前も大変だな」

そう言えば、嫉妬深い恋人を持つ旧友は僅かに苦笑して。

「でもこれはこれで嫌じゃねぇんだよなぁ」

と応じたのだった。



※愚痴られたり惚気られたりするドタチンが災難。
















超短文7題10−2 殺意


ぐっと強く壁に押し付けられて、痛みに呻いた。
放せこの馬鹿力めと思ったが。
段々深く、激しくなる口付けに、言葉を紡ぐ隙は与えてもらえなかった。

「……ぅ…んっ」

合間に漏れ聞こえる湿った卑猥な水音に、耳を塞ぎたくなる。
顎を掴む容赦のない力。
逃れようにも逃れられない力の差が恨めしかった。
だが、どうにもならないのは分かっている。
一度きつく相手を睨んでから。
臨也は諦めて与えられる快楽を目を閉じて受け入れた。
暫くの間、貪るような口付けを交わす。
相性が良いと言うべきか。
性格は全く合わないにも関わらず、静雄が臨也に与えるキスは、いつも他の一切を忘れさせるような快楽を生む。
だからこそ、余計それが嫌いだった。

「…随分気持ち良さそうな顔だな?」

漸く解放されて、開口一番にそんな事を言われて。

「気分は最悪だけどね」

そう言って、臨也は殺意を込めて隠し持っていたナイフを振り上げた。



※シズイザというかシズ→イザというか。
とりあえず殺意は本物だと思います。















超短文7題10−3 疑問


「シズちゃん」
「なんだ」
「シズちゃんってさぁ、甘いもの好きだよね?」
「それがどうした」
「いや、なんとなく」

ころり、と頭が静雄に膝に移動してきた。

「おい、退けろ」
「いいじゃん別に」
「よくねぇ…」

そう言うが退かすのも大人気ない気がして、静雄は盛大に溜息をつくことで代わりとした。

「それでさ」
「あ?」
「だから、シズちゃんが甘いものが好きだって話」
「おう」
「この前、ケーキ食べたんだよね。自分で作ったやつ」
「………」
「それが我ながら結構いい出来だったんだけどさ、そう言えばシズちゃん甘いの好きだったっけって思い出したんだよね」
「手前は何が言いたい?」
「いや、特に何も」
「…………」

こいつムカつくなぁ。
意図せずとも自分を苛立たせる相手に。
静雄は一発殴ってもいいだろうか、と考えた。



※臨也は思ったことを口にしただけです。















超短文7題10−4 混迷


折原臨也という存在がいなければ、と思うことはよくある。
というか、実際問題いなければいいと思う。
そうすれば間違いなく、静雄の胸中は静かで平穏なものになるだろう。
だが、それが分かっていても。
折原臨也のいない世界を想像した時、静雄の胸に宿る感情は安堵ではないのだ。
確かに臨也がいなければ平和になるかもしれない。少なくとも、静雄の周りのいざこざは確実に減るはずだ。
それはとてもいいことだと理解している。
だが、それでも。
もし、臨也のいる世界といない世界を選べと言われたならば。
静雄は自分が臨也のいる争いにまみれた世界を選ぶ確信があった。
完治不能の病を患っている自分に、もはや笑うことしかできない。

「つくづくやっかいなもんだな、恋ってのは」

隣でセルティがPDAを取り落としたが。
静雄はそれに気づくことすらなくぼんやりと、本気で憎らしいのに何故か酷く愛しくもある想い人のことを考えた。



※恋は病なのです。















超短文7題10−5 執心


「…あいつらまたやってんのか」
「ほんとよく飽きないよね」

遠くの方から聞こえる臨也に向けられたのだろう罵声に。
門田と新羅は顔を見合わせ苦笑した。

「放っておくのが一番か」
「まあ誰も間に入れないし、入ってケガするのはイヤだしね」

くすくす笑って新羅はあと1時間くらいしたら見に行くかな、と考える。
それまでは誰も邪魔しようのない鬼ごっこを楽しめばいいのだ。

「まるで『二人だけの世界』だね」
「…面倒な奴らだ」

やれやれと首を振る門田に、新羅は「本当にね」と頷いた。















超短文7題10−6 我慢


「シズちゃん、ストップ」
「…」
「これ以上はダメ。認めない」
「…手前な」
「やだ」
「………」

はあ、と盛大に溜息をついて。
静雄は臨也から手を離す。
毛を逆立てた猫のような今の臨也に手を出せば、爪ならぬナイフを突き立てられて逃げられるのはわかりきっていた。

「…俺の忍耐だって限界はあるんだぞ」
「わかってる。でも、まだ無理」

すすすっとさりげなく(もないが)距離をとる臨也。
それを見て静雄はわかったわかった今日はしないと約束した。
彼が最後の一線を越えさせてもらえるのは、まだまだ先のようである。



※忍耐の日々を送る静雄さん。















超短文7題10−7 衝動


「このっ、放せ!」
「ダメだ、逃がさねぇ」
「ッ、性質悪いんだよ!この単細胞ッ」
「手前が煽るから悪ぃ」
「訳わかんない理屈を捏ねるなっていうかっ!ホント放せよこの強姦魔!!」

ぎゃんぎゃん喚く臨也を組み伏せて、静雄はふむと考えた。
どうやら臨也に煽った自覚はないらしいが、だからといっていまさら止まってやれそうにはなかった。
見下ろした先、怒りに染まった表情に衝動がまた沸き起こる。
だから。

「臨也」

耳朶を食みながら耳元で囁く。
ビクリと強張った身体は壊しそうなほど細かった。
沸き上がった凶暴な感情に任せて、首筋に噛み付くようなキスをひとつ。

「んっ…やっ、だ」
「あー…悪ぃ。我慢できねぇ」
「ちょっ、おい、ここどこだか分かってんの!?」
「気にすんな」
「するよ!やだやだやだ!俺は青姦なんて絶対やだからね!!」

ああうるせぇ。
そう思いながら、静雄はきっぱり言い切った。

「やめる気ねぇから諦めろ」



※衝動のまま襲ってみました。