超短文7題 9
※memoログ。9−1〜9−7まで。









超短文7題9−1 寝言


不機嫌そうな声が、臨也を呼び止めた。

「…おいノミ蟲」
「あれシズちゃん?どうしたの?」
「なんで手前がここにいる」
「いやあのさ、ここ新宿だし。池袋じゃないし」
「うるせぇ黙れ。そもそも手前が大人しく事務所にいれば探し回らずに済んだんだよ。…ああクソッ、ムカつくからその分殴らせろ」
「うわ横暴。どんな理屈なのさそれ」

すでに臨戦態勢の静雄に、臨也はくっと低く笑う。

「っていうかさぁ、わざわざ探し回るとか、それは何かな?俺がいないと寂しいよーってこと?」

にやにや笑う情報屋に、静雄はこめかみの青筋を増やして一言。

「寝言は寝て言え」



※…お題の寝言と意味が違うけどもう気にしない方向で。
ちょっとネタが尽きてきた…。
















超短文7題9−2 否定


どれほど暴力をふるって痛めつけても、臨也は決して怯まない。
静雄に対して怯えたりしない。
すぐに離れていくと思っていた存在は、いまだに側にあって。
静雄は小さく苦笑交じりの溜息をついた。

あんなに鮮やかに自分の攻撃を避ける人間を、静雄は他に知らない。
その動きに静雄の心臓は壊れそうな音を立てた。
ぞくりと震えがきた。
惚れた、というのが一番正しい表現だった。

「…言えねぇだろ、いまさら」

最初が悪かった。
今では徹底的に嫌われてる。

静雄は、あの猫のようなしなやかさで動く手足が好きで。
憎しみを込めて自分を睨む目が好きだった。

だから、もっと見ていたくて。
「俺は臨也が嫌いだ」と、そう言い続けるのだ。



※否定の理由。















超短文7題9−3 肯定


折原臨也は平和島静雄が嫌いだ。
何がそんなに嫌いなのだと問われても、もう理由も思い出せないほどに。
それはもう、この世から痕跡すら残さず抹消したいほどに嫌いだった。

圧倒的な破壊の力を持ちながら中身はごく普通の一般人。
愛することに怯え、愛されないと嘆く愚かな人間。
そう。人間なのだ。ムカつくことに。

「化け物のくせに」

あれを臨也の愛する人間という種に分類するなど、許せるはずもない。
ありえない。あんなものを人間だと認める気はない。
苛立ち混じりに澱んだ空を睨みつけ、臨也はもう一度吐き捨てる。

「化け物のくせに」

臨也は、あの理不尽な存在が嫌いだ。
理屈の通じない相手は、嫌いなのだ。

だから、その存在を消し去りたくて。
臨也は己の殺意を肯定する。



※9−2「否定」の臨也サイド。
完全なシズ→イザですが、歪んだ解釈をすればある種の両想いかも?















超短文7題9−4 屁理屈


「だって、それが俺だもん」

文句を言った静雄に、臨也は一瞬の間を置いてそう口にした。

臨也はいつだって屁理屈をこねて静雄を煙に巻く。
本心を悟らせようとしない。
それが静雄を余計イラつかせると知っていて。
それでも改めようとしないのだ。

「だってさぁ、シズちゃん。想像してみなよ?素直な俺って気持ち悪くない?」
「…あー…」

考えて、その薄気味悪さに鳥肌が立つ。

「…キモイな」
「…失礼だね君。まあ俺もそう思うんだけどさ」

だからね。と臨也が言う。

「俺はこれで良いんだよ。今更素直ないい子ちゃんになったってだぁれも信じちゃくれないだろうしね!」

くるりと意味もなく回って見せた彼に。
静雄はこれも屁理屈なんじゃねぇのかと思ったが、もう何も言わなかった。



※少なくとも素直さとは無縁です。















超短文7題9−5 違和感


「?」

なんだかよく分からないが、静雄は首を傾げ隣に座る臨也を見た。
なにかが変だ。そう思うのに、何が変かわからない。

「…?」

じっと、相手を見る。
頭の先から、足の先までじっくりと視線で辿って。

「…手前、それなんだ?」
「あれ?今頃気付いたんだ?」

鈍いねぇと笑う臨也の足。
そこにちょこんと居座るそれ。

「…うさぎはねぇだろ」

呟いた静雄に、臨也は楽しげに笑っただけだった。



※今更ながらの8巻スリッパネタ。
このお題ならもっといいネタがあっただろとか思わないでもない。















超短文7題9−6 追跡


「ちっ、あの野郎ッ」

ひょいひょいと障害物の存在など物ともせず、むしろそれさえも道として逃げていく背中に。
静雄は恨みを込めに込めて唸る。

「待ちやがれッ」
「ヤダね!今日はシズちゃんと追いかけっこの気分じゃないし、ここでお別れだよ!」
「あ?」

どういうことだ?と首を捻る間さえなく、臨也はビルの屋上から飛び降りた。

「ッ!?」

視界から消えた黒に、ざっと血の気が引いた。
急いで手すりまで駆け寄って下を見る。
その視界に、ひょいと手を上げて余裕を見せる臨也が映った。
二階下の外階段に無事着地したらしい彼はにやりとたちの悪い笑みを浮かべて。

「なあにシズちゃん?まさかこの俺がヘマして死んだりするとでも思ったの?ばっかだねぇ、賢い臨也さんは君みたいな単細胞と違ってちゃんとビルの構造くらい把握してるんだからさぁ」

ぶちん、とどこかで何かが切れた音がした。

「っ…こ、のッ…ノミ蟲があぁァァ」
「わお、これはやばいかな。じゃあね!シズちゃん!!」

手すりを掴んで自身も飛び降りて。
静雄は臨也を追って走り出した。



※本気で追いかけっこする大人が二人。















超短文7題9−7 進歩


「ねぇシズちゃん?」
「なんだ?」
「この手、なんなの?」
「さあな」
「さあなじゃないよ?どう考えてもこれなんか変なんだけど」
「そうか?」

問えば、自信はなかったのだろう。
臨也は困ったような顔をして首を捻った。

「…たぶん」

鈍いなりにようやく少しだけ何か変だと思い始めたらしい幼馴染に、静雄は小さく苦笑する。
それでもまだ。
臨也は静雄が慎重に自分を手に入れるタイミングを計っていることに気付いていなかった。



※『猛獣』設定。付き合う前。
ようやく静雄の行動に違和感を覚え始めた頃。