超短文7題 8
※memoログ。8−1〜8−7まで。









超短文7題8−1 花


「…なに?」
「いや、」
「言いたいことがあるならはっきり言ったら?」
「……あー」

微妙な表情のまま視線を泳がせる静雄に、臨也は思いっきり眉間に皺を寄せる。

「一応言っておくけど、別に俺の趣味じゃないからその辺誤解しないでよ。ああ、腹立つなぁ」
「…それ、どうしたんだ?」
「貰ったの」
「誰に」
「この前仕事請けた相手。今日終わったから報告に言ったんだけどさ。結構古い知り合いだけど、いつもいつも厭味ったらしいんだよまったく」

一抱えもあるきれいにラッピングされたかすみ草だけの花束に埋もれて臨也が唸るように言った。
その花の花言葉を知らず首を傾げた静雄だが、なんとなく、臨也とその花が似合わないことだけはわかった。



※かすみ草の花言葉:感謝、切なる喜び、清い心。清い心(笑)
8はちと難しいのばかりなので↑みたいな小ネタ以下のになりそうです…
















超短文7題8−2 雪


チラチラと落ちてくるそれに臨也は手を伸ばす。
白い小さな氷の結晶は、触れたそばからあっという間に溶けてなくなった。

「…寒くねぇのか手前は」

開けた窓から身を乗り出しての行為に、静雄が眉間に皺を寄せて言う。
振り返って「寒いよ」と答える臨也は、だが何が面白いのか空から降る白に手を伸ばすのをやめない。

「こっち来いこの馬鹿が」
「うわっ」

ぐいっと引き寄せられて、倒れこんだ身体を静雄が支えた。
掴んだ手首の、ひんやりした肌の感触に溜息を落とす。

「冷えてんじゃねぇか、風邪引くぞ」

んーと生返事をしてぴとりとくっついてくる臨也に苦笑する。
窓を閉めるために伸ばした手にも文句は出なかったので寒かったらしい。

「…積もるかなぁ雪」
「ガキみてぇなこと言ってんじゃねぇよ」



※ある冬の日の一幕。















超短文7題8−3 風


そよそよと頬を擽る風に目を細め、臨也は窓の方に視線を向けた。

「シズちゃん、もう少し窓開けて」

そう言えば軽い応えが返り、がらりと窓が開けられる。
暑くもなく寒くもない陽気に、柔らかい風。
窓辺では静雄がのんびりと外に視線を向けながら煙草をふかしていて。
悪くない、と臨也は思う。
平穏を好む性質ではないが、こういう時間も嫌いではなかった。

「…仕事、片付いたのかよ」
「ん、まだだけどそろそろ休憩するよ」

構って欲しそうなわんこも居ることだしね。と口にすれば、理解したらしい静雄がなんとも言えない顔をする。
その渋面にくすくす笑って、最後に一通メールを送って。
また緩やかな風が吹いてきて静雄の髪を揺らすのを目の端に捉えながら、臨也はパソコンの電源を落とした。



※この一文字お題、自分の脳みそには難しいです…。がくり。















超短文7題8−4 焔


それはチリチリと静かに燃える火のようなものだった。
まだ、劫火には程遠く。
でも、たしかにこの胸に存在していた。

「臨也」
「なに?」

呼べば当たり前に返る声。
何度聞いても、まだ足りなくて繰り返す。

「臨也」
「…だから、なに?」
「臨也」
「……シズちゃん大丈夫?壊れた?」

伸ばしてくる手は昔よりは大きくなったが、それでも細く頼りない。
見上げる特徴的な色の瞳。

「臨也、好きだ」
「?…俺も好きだよ?」

含まれる意図は気付かれないと分かっているから抱きしめて告げる。
どうしたのシズちゃん。と不思議そうに問う相手は、存外鈍く出来ていて。
無防備な幼馴染を腕に閉じ込めたまま、まだ早いと暴走しそうな感情を押し止めた。
チリ、と胸を焦がす小さな火種が。
そう遠くないうちに周囲を巻き込むような火事を起こす予感は、あった。



※『猛獣』設定。来神時代。まだ恋人になる前。















超短文7題8−5 赤


独特な色彩を持つ瞳。
静雄はそれを常々きれいだと思っていた。

「…えーと…シズちゃん?とりあえず退いてくれないかなぁ?」

重いし邪魔だしと訴える臨也を無視して、顔を固定する。
そのまま何をされるのか分からず見上げてくる無防備な顔に唇を寄せて――

「ッ」

息を呑んだ相手が反射で目を閉じる。
それを無理やり舌で抉じ開けて、その赤を舐めた。

「…ッ…ゃ…め」

鍛えようのない場所を押さえられている臨也は抵抗も身動ぎもできず、ただ引き攣った声を漏らす。
つるりとした感触と溢れてきた塩味を静雄はしばらく舌先で味わう。
どれくらいそうしていたか――たぶん実際はほんの僅かな時間だろうが。
ふるふると小刻みに震える指先が懇願するようにシャツを掴んで僅かに引くのに気付いて、静雄は顔を離し臨也を開放した。
満ち足りた表情で目を細める静雄を赤い瞳が唖然と見上げている。

「…何考えてんのさ」
「いや、何となくおいしそうだと思ってな」
「…俺の目を何だと思ってるのかな君は」

何度か瞬いて顔を顰めて、臨也は追求するのも馬鹿らしいという顔をして深い溜息を吐いた。

「…だからって、普通舐める…?」

潤んだ涙目のまま、まだ沁みるとぼやく臨也を抱き締めて。
静雄は満足げな吐息を零した。



※ふと触れてみたくなってとりあえず舐めてみた動物的感性のひとの話。















超短文7題8−6 夢


「シズちゃん、寝た…?」

そう言ってごそりと動いた臨也に。
静雄が眠そうに目を開ける。

「…眠くねぇのかよ」

時計に目をやれば、短針は数字の1をさしている。
離していた身体に手を伸ばして抱き寄せれば、抵抗なく収まった。

「眠いけど、最近寝ると、へんな夢見るから」
「変な夢?」
「んー…よく覚えてないんだけど、怖い、のかな?あと、すごく寒い」
「どんな夢だそりゃ?」
「知らないよ。覚えてない」
「ふうん」

なんだか知らないが、とりあえずは。

「明日、新羅のとこ行くか」
「えー…俺、薬好きじゃないんだけど」
「うるせぇ。ごそごそされると落ち着かねぇんだよ」
「…わかった」
「今日はこうしててやるから、寒くはねぇだろ、たぶん」
「ははっ…夢の話で実際寒いわけじゃないんだけど?」

くすくす笑うくせに、臨也はぴたりとくっついたまま離れる気配はない。
素直じゃねぇな、まったく。と思ったが、指摘するのも面倒だと静雄は思考を放棄する。今はとにかく寝たかった。
目を閉じればすぐに意識が薄れ始める。

「…ありがと、シズちゃん」

小さな呟きに相手の頭を撫でてやって。
静雄は腕の中の温もりを抱く力を少しだけ強めて、眠気に身を委ねた。



※夢の内容には追求してはいけません(考えてないから)















超短文7題8−7 夜


「さて、夜ですね」
「そうだな」
「シズちゃん」
「…なんだ」
「じゃんけんしよう」
「………」

真剣な顔で言う幼馴染に。
静雄は呆れた眼差しを注いだ。

「…手前な、俺は言ったよな?」
「でもシズちゃん、君、もう一ヶ月もさせてくれてないじゃないか」
「…あー…気のせいじゃねぇのか」
「目を反らす時点でアウトって分かってる?」
「………」
「ねえシズちゃん、俺だって男なんだからたまには抱きたいんだよ」
「…………」
「シズちゃんってば」
「……………」
「シズちゃん?」
「…っ、うるせぇうぜぇ黙れ!」
「ちょ、逆切れ?逆切れなわけ!?っていうかどさくさに紛れて何してんだよこのっ」

暗転。



※『猛獣』設定。なんか、方向性そのものを間違えた気がします…。