超短文7題 7
※memoログ。7−1〜7−7まで。









超短文7題7−1 もういいよ


「ねえねえ新羅」
「………なんだい臨也くん」
「…なんで君付けなのか気になるけど、まあいいや。それよりさ」
「気にしようよ。っていうか、さっきから僕が言ってること聞いてたのかな君は?」
「気にしないし聞く気ない。それより、これなんだけどさ」

あくまでマイペースを貫く最悪の友人は、そう言って雑誌を見せてくる。
彼は朝一番に新羅の家にやって来て居座った挙句、静雄の誕生日プレゼントを何にするべきかなどという、新羅にとってみればどうでもいいことを延々訊いてくるのだ。
途中までは仲のいい友人へのプレゼントと聞いて自ら協力を名乗り出たセルティと話し合っていたのだが、その彼女が仕事に出かけてしまってからはずっとこの調子で新羅に話しかけている。

「臨也、君はそれを僕に相談してどうする気だい?」
「だってさ、俺シズちゃんにプレゼントとか毎年してるしさぁ、たまにはいつもと違うもの送りたいんだよ。今日は仕事ないんでしょ?暇なんだから、一緒に考えてよ」

そう言い切った顔は微塵も新羅の迷惑など考えていない。

「……。…ねえ臨也。もう一度だけ言うからよく聞いてくれ」
「えー…聞いてもいいけどさ、それに従う義理って俺にはないよね?」
「……………もういいよ」

臨也を言うこと聞かせようと思った俺が馬鹿だったよ。
そう言った新羅の表情は呆れと疲れが如実に表れていた。



※たぶん『猛獣』設定。シズちゃんへの誕生日プレゼントで悩むうざやさん、に振り回される新羅。
















超短文7題7−2 ありえねぇ…
※オリキャラ注意。


「お前一度死ねばいいよホント!」

電話越しの相手に本気で怒鳴る。
そんな臨也を嗤うように、ひどく軽い言葉が返った。

『いいじゃないですか。彼氏に可愛がってもらえば』
「死ねっ、マジ死ね!クソ餓鬼!!餓鬼の悪戯で済むレベルじゃねぇぞコレッ!」
『ははは、素に戻ってますよ折原さん』

怒鳴り散らす傍ら、別の携帯を操作し静雄の居所を把握する。
今帰って来られては拙い。本気で拙い。
とりあえずまだ仕事が終わっていないことを確認し一時の安堵を得た臨也に、電話相手はくくっと低く笑った。
明らかに楽しんでいる。

『じゃ……あ、そうそう』
「何?早く言わないと今すぐ殺しにいくよ!?」
『怖いなあ。その薬の効果、一週間ぐらい続くんでよろしく!』
「死ね!!っていうか殺す!!遺書でも書いとけッ!!」
『あははは〜、じゃあ俺今から旅に出ますんで〜』
「〜〜ッッ!!!」

声にならない。
最悪の悪戯を仕出かしてくれた旧知の薬屋に、脳内でありったけの呪いの言葉を叩きつける。
もはや電子音を発するだけの携帯を忌々しげに睨み、次いで大きく溜息をついた。
そして、改めて自分の姿を見下ろす。

「ありえねぇ…どうすんのさ、これ」

華奢になった身体と、申し訳程度に羽織ったシャツを押し上げる二つのふくらみ。
まさか『女体化』などというファンタジーを体験する羽目になるとは。と、嘆く。
幼馴染とこの姿で会うのはなんとも言えず危険な気がして、臨也は頭が痛いなと呻いた。



※『猛獣』設定で女体化。でもシズちゃんとは出会わせないで強制終了。















超短文7題7−3 だから言ったじゃん?


「シズちゃんと付き合うことになった」

そう報告してきた情報屋に、新羅はほんの一瞬だけ動きを止めて「そうかいおめでとう」と祝辞を述べた。

「…ちっともおめでたくないし最悪に迷惑なんですけど?」
「………。あれ?ひょっとして静雄から聞いたのかい?」
「ああ聞いたよ。君がそもそもの発端なんだってね」

にっこり笑った臨也だが、目は笑っていない。
コートのポケットに手を突っ込んだままなことに、新羅はあ、これはマズイかなと内心焦った。

「あ、いや、でもさ」
「なに?弁解したいっていうならとりあえず旧友の誼で10秒だけ待ってあげるからさっさと言ったら?」
「…はは、本気みたいだね…」
「当たり前だ。あと6秒」
「…うん、でもさ。俺、言ったよね?」
「なにが……ッ」

ぐっと後ろから引き寄せられて、臨也が言葉を詰まらせる。

「げ…なんで、シズちゃんがいるのさ!?」
「ああ?俺が居ちゃあ悪いのかよ?」
「そうじゃなくってッ…ッ!どこ触ってんだよッ」

背後の静雄に文句を言うが、静雄は気にした様子もなく臨也を抱き締めてそこかしこに触れていた。

「ひとの家でそういうことはしないで欲しいんだけどね…」
「じゃあこの馬鹿止めろよ!!」
「無理」

涙目で怒鳴る臨也にきっぱり言い切って。
新羅は何か飲むものでも入れるかとキッチンへ向かう。
後ろから臨也の悲鳴じみた罵声が上がるが、振り返る気はない。

「だから言ったのにね」

静雄は昔っから君に惚れてるんだから、下手なちょっかいはかけない方が良いよって。
そんな呟きを零して、新羅はやれやれと息を吐いた。
必死に静雄の腕から逃れようとしている臨也の耳には当然聞こえていなかった。



※シズ→イザ。相談されてアドバイスしちゃった新羅とおかげで追い回されて付き合う羽目になった臨也さん。















超短文7題7−4 もう降参
※ある種の吸血鬼パロ。


「シズちゃんおなか減った」

そう言って後ろから抱きついてくる生き物に、俺は溜息をついた。

「手前、一昨日も食っただろうが」
「だって昨日働いたもん。ちゃーんとシズちゃんのお仕事手伝ったのにご褒美くれないとか酷くない?」

背中に懐いたままむくれる臨也は、とても昨日『仕事』で片付けた生き物と同種とは思えない。
だが、曲がりなりにもこれは人の生血を啜って生きる怪物なのだ。元人間であっても発症した以上は自分の殺すべき対象なのだ。
それが分かっているのにいまだに手元に置いて監視するだけでいる理由など、たぶん臨也はとうに理解している。

「ねーシズちゃんってば」
「煩ぇうぜぇ黙れ」
「ひっどいなぁ」

くすくすと笑って首筋にそっと舌を這わして催促された。
耳元でちょうだいとねだる声は甘い。

――ああ、クソッ!!

苛立ち混じりに艶やかな黒髪を無造作に引っ張って引き寄せて。
痛いと文句を言う唇に噛み付いて。
それから、「少しは我慢を覚えろ」と文句を言いつつ許可を与えた。



※狩人と獲物の奇妙な共存。
前に長編で書こうと思ってラストまで考えたのに結局書かなかった話の断片。















超短文7題7−5 これってある意味崖っぷち?


「その手を離せ」

深く、低い、酷く響く声だった。
視線の先――シズちゃんが怒りを隠さぬ瞳でこちらを睨みつけている。
平均的より薄い色素で色づけられたブラウンの瞳。なぜか、それを鮮烈な赤だと錯覚した。
それほどに強い眼光だった。

「もう一度だけ言う」

いつもの怒鳴り散らす声ではなく、いっそ静かですらあるのに、他者を圧する声。

「その手を離せ」

俺の視界から消え失せろ、いますぐに。じゃねぇと――
一歩も動くことなく、淡々と紡がれる言葉。
強大な牙を持つ獣が、今まさに飛び掛らんとするような威圧感。
初めて見る種の怒り方をするシズちゃんに、俺まで完全に動きを封じられていた。
当然、彼に一切耐性のない男は耐え切れるはずもなく、俺の手を離して慌ててアクセルを踏み込んだ。
車が遠ざかっていく。
連日の過密スケジュールで酷使した身体は疲れ切っていたから、正直ほっとした。
でも、これで終わりじゃない。ある意味では、これからの状況の方が危険度は高い。
覚悟を決めて、息を吐き出しながら改めてシズちゃんに視線を向けた。
予想通り、鋭く冷たい視線が俺を真っ直ぐ睨みつけている。

「…えっと…あのね、シズちゃん」

無言の圧力に押されつつ絞り出すように言葉を発すれば、視線だけで応じてきた。
促すそれに、言葉を続ける。

「あれは、その、俺の取引相手の一人でね…ええ、と…」

引き攣りそうになりながらも辛うじて笑顔で対応してみたが、彼の視線の温度は変わらない。
そりゃまあ、あからさまな浮気現場だったもんね。俺も動揺しまくりだし、誤魔化すのは無理か…。
困ったなと視線を逸らそうとしたら、大股で近づいてきたシズちゃんにぐいっと腕を掴まれた。

「言い訳は後でたっぷりさせてやるが、まずは――」

耳元で囁かれた物騒な台詞に、一気に青くなった。
が、逃げようにもがっちりと押さえられた腕はすでにミシミシと嫌な音を立てている。下手を打てばこのままボキリ、だろう。
ついて来いと促す声に抗えぬまま、俺は引き摺られるようにして歩き出すしかなかった。



※浮気現場を見られちゃったよ、な小ネタ。















超短文7題7−6 この手を取って


その姿を目にした瞬間に、他の一切がどうでも良くなった。
艶やかな漆黒の髪、きれいに整った顔立ち。
何よりも鮮やかに記憶に残る、赤の強い特徴的な色の瞳。
一目見ただけで分かる。
新羅の隣の人物は、ずっとずっと焦がれてやまなかった相手だった。

「久しぶり、シズちゃん」

そいつが、目を細めて嬉しそうに笑う。
心臓が、どくりと高く鼓動を刻む。

「…いざや、か?」

確信しているのに問いかけたのは、これが夢だったらという僅かな恐怖から。

「うん。ただいま、シズちゃん」

そう言って差し出された手に。
俺は震える手を伸ばした。



※『猛獣』設定。高校にて再会した時のこと。















超短文7題7−7 ありがとう


ずっとずっと、焦がれてやまなかった存在がようやく俺の存在に気がついた。
顔を上げて、俺を見て。
見開いた、その色素の薄い茶色の目が俺を映す。
彼が俺を視界に映しているという事実に、不覚にも胸が詰まった。

「久しぶり、シズちゃん」

ああ泣きそうだ。
そう思いながら目を細めて笑う。

「…いざや、か?」

微かに震える声で問われて、その低くなった声を知る。

「うん。ただいま、シズちゃん」

差し出した手はみっともなく震えていて、でもその手に触れたシズちゃんのそれも同じくらい震えていた。

ようやく会えた。
そして、ちゃんと待っていてくれた。

当然だと思うその傍らで、同じくらい彼に“待っていてくれてありがとう”と伝えたかった。



※『猛獣』設定。昨日の小ネタの臨也視点。
ぐだぐだですが雰囲気だけでも感じていただければ幸い。