超短文7題 6
※memoログ。6−1〜6−7まで。今回は続き物で修学旅行編。









超短文7題6−1 出発


「…臨也は?」
「まだ見てないが…」
「早くしないと置いてかれちゃうかもしれないのに。…まさか臨也に限って集合時間間違えたとかないよねえ」
「…そう言えば静雄も来てないな」
「そういえばそうだね」
「「あ」」

慌しく走ってくる二人に、新羅と門田はほっとした表情を浮かべる。が、それもすぐに呆れたものに変わった。

「シズちゃんが悪いんだよ!起きろって言ってるのにいつまでも起きないから!!」
「手前のせいで二度寝しちまったんだろうが!!」

どうやら昨日はどちらかの家に泊まったらしい。仲の良いことだ。
挨拶もそこそこにまだ言い合っている二人は煩いことこの上ない。
門田は大げさに溜息をつき、新羅は(自分はこれから数日セルティに会えないというのにこのバカップルどもは!)と腹を立てる。

「いいから二人共とりあえずこっち来てよ!もうすぐ出発だから!!」
「おう新羅…わりぃな」
「ほら行くぞ臨也」
「分かってるよドタチンってば。俺子供じゃないよ」

出発前からこの騒ぎ。
修学旅行はこの段階で既に波乱の予感を感じさせた。



※お付き合いしてる設定で来神時代。修学旅行編。
お題の趣旨(3分以内に書ける短い文章)から反れますが続きます。
















超短文7題6−2 徒歩


「あ、シズちゃんシズちゃん、あれなんだろ?」
「どれだ?」
「あれあれ」

自由行動中。
臨也は絶好調にフリーダムだ。すぐにふらふらと何処かへ行ってしまう臨也について歩く静雄は気が気でない様子で。
グループ行動なので他2名も行動を共にしているが、すでに溜息をつく気力すらない。

「臨也ってなんであんなに元気なんだろうねえ(本当は分かるけど口にしたくない)」
「………さあな(なんとなく不快なので分かるが口にしたくない)」

静雄の隣をうきうきと歩く臨也はご機嫌そのもの。
安上がりで良いというべきか、単純すぎると嘆くべきか。
修学旅行を新婚旅行と勘違いしてるんじゃないかと言いたくなる彼に。
やれやれと二人は首を振った。



※修学旅行編2。続きます。















超短文7題6−3 対価


「っ、シズちゃんの馬鹿!大っ嫌いだ!!」

ばしんと派手な音を立てた静雄の頬に、うわ、と新羅が呟く。
痛そうだと顔を顰めた門田が走り去った臨也を視線で追い、溜息をつく。
それから新羅に視線を向けると頷かれた。

「俺はこっちで事情を聞くからさ、君は臨也をよろしく」

ああと応えを返し、門田は臨也の後を追って走り出し。
それを見送った新羅はやれやれと首を振って、静雄に近づいた。

「大丈夫?」
「ああ。別に」
「そっちじゃなくて、こっち」

とん、と胸を指で突かれて、静雄は困ったような顔をする。

「何があったの?」
「あ…いや、ちょっとな…」

ますます困ったようなしょげた犬のような顔になった。
(どうせ大したことではないのだろうけど)
そう思うが、些細なことから拗れてどうしようもなくなるのがこの二人だと新羅はよく知っている。
彼らが付き合い始めるまでの騒動は正直思い出したくもない。

「とにかく、拗れたら嫌だろう?話してみなよ」

少し迷った後こくりと頷く相手を見ながら、新羅は(さて、この対価はやはり臨也に払ってもらうべきかな)と考えた。



※修学旅行編3。この二人なので喧嘩は付き物。続きます。















超短文7題6−4 秘密 @


「俺だって分かってるんだ。シズちゃんにそんなつもりなかったってことぐらい…」
「………」
「シズちゃんが人の好意に慣れてないのも分かってるし、優しいからなかなか断れないのだって分かってる」
「………」

無言で頭を撫でられて、臨也は少し困ったように笑った。
その顔を見るたびに別れてしまえと言う門田に、臨也はいつも絶対に嫌だと答える。
今回も既にその会話はされた後で、門田は小さく溜息をつきつつ甘やかすだけだ。



「…ドタチン、あのさ」
「なんだ」
「シズちゃんには秘密にして欲しいんだけど…」
「静雄に?」
「うん。…ドタチンになら話してもいいかな、って思ってさ」
「聞くだけだぞ」
「うん」

それで充分だよ。と言った臨也が重い溜息をついて下を向く。

「俺、中学の頃男と付き合ったことあるんだ」
「………」

これは意外だった。
静雄と付き合うまで臨也はどちらかというと恋愛沙汰には興味がないように見えただけに。

「ちょっと興味があって付き合ってみただけなんだけど……シズちゃん気にするかな…」

困ったなぁ。と呟く臨也は別に門田に相談しているわけではないのだろう。
ただ自分の中にあるものを整理したいだけで、聞き手に自分を選んだのは一番適任(誰にも話さず余計なことを言わないという意味で)だと判断したからだろう。
あるいはそのことで静雄と何かあったのかもしれないが、臨也が口にしない以上は見ていることしかできない。
そう結論付けて、門田は苦い思いで臨也を見る。
言いたいことはたくさん(主に過去の行状について)あった。だが、言ってもどうしようもないことも知っていた。
だから、いつもと同じことを言うだけだ。

「もし別れることになったら慰めるくらいはしてやるぞ」
「…別れないよ」

ぷう、と小さな子供のように頬を膨らませる臨也に笑って。
門田は、「ドタチンのばか」と文句を言う同級生の気が済むまで大人しく付き合ってやることにした。



※修学旅行編4。保護者なドタチンと。…続きます。















超短文7題6−4 秘密 A


しばらく静雄から事情を聞いて、新羅は「全面的にとは言わないけど、それって臨也が悪いんじゃないかなぁ」と感想を述べた。
ただの嫉妬だ。馬鹿らしい。そう結論付ける。
困ったように笑った静雄は、溜息をついた。

「なあ、新羅」
「なんだい?」
「臨也が中学の頃男と付き合ってたって話、知ってるか?」
「……あー…誰から聞いたのかは、まあなんとなく分かるけどね」

臨也には敵が多い。うまく立ち回るせいで表立った騒ぎこそ少ないが、たぶん恨んでいる人間は相当な数いるはずだ。
その中の誰かに臨也の過去を知る人間がいて、静雄に(どういう意図かは知らないが)話していても不思議はないだろう。

「臨也には聞いたの?」
「いや…聞いてない。俺が聞いたってこと」
「秘密にしておくよ」
「悪い」
「別にいいよ。君たちが下手にもめると大変なのは僕たちだからね」
「………」

答えを求める視線に、新羅は天を仰ぐ。
せっかくの快晴だというのに、なんでこんな重い話をしなければならないのか。

「臨也が中学の時に男と付き合ってたのは本当だよ。まあ興味本位だったみたいでどこまでの関係だったかは知らないけど」
「………そうか」
「…それとこの喧嘩、関係あるのかい?」
「…臨也が」
「?」
「触る時に妙に怖がってるみたいに感じる時があるんだよ。わかんねぇけど、こう…怯えるみたいな感じで」
「………」

…接触を怖がる、か。
新羅は臨也の過去に何かあったのかすら知らない。
だが、静雄がそう思うならたぶんなにかあるのだろうとは思った。

「僕は知らない。たぶん、本当のところは臨也以外知らないと思うよ」
「…だよな」
「で?」
「…最近、あまり俺からはあいつに触らないようにしてたんだけど」

納得がいった。つまり、臨也の嫉妬の大本の原因は欲求不満だ。
新羅は今はここにいない友人に呆れる。(そして、互いの家に泊まるほどなのに実は何の進展もなかったらしい二人にも呆れた。)

「まあ聞かれたことは秘密にしておくけどね?だけど、ちゃんとその辺も解決したほうがいいと思うよ?」
「…分かってる」

答えて重い溜息をついた静雄に、新羅もつられて溜息をついた。



※修学旅行編5。新羅とシズちゃん。まだ続きます。















超短文7題6−5 空耳


「…困ったねぇ」
「………ああ」

お互い意識しすぎているとしか言いようがない。
ちらちらと盗み見合って、目が合うたびに慌てて反らし目が合わないと落胆する。
そんなことを繰り返す静雄と臨也を見て、新羅と門田はいい加減にしろよと言いたくなった。だが、外野が何をどう言ったところで、結局当事者たちがどうにかするしかない。
それが分かっているから、二人とももう何度目かも分からない溜息をつくしかないのだった。





「ドタチン待ってよ」

重苦しい沈黙に耐えかねて離れた場所へ移動した門田を追って、臨也が声をかけてくる。
それを見て、門田は大きく息を吐き出して咎める口調で名を呼んだ。

「臨也」
「…分かってるよ」
「ならいいけどな」
「ごめん」

困ったな。分かってるんだけどね。と口にする臨也は、どうやら相当参っているらしい。
はふ、と息を吐いて眉を下げて俯いた。

「なんか、」
「?」
「シズちゃん不足で死にそう」
「…そうかよ」
「…どう言えばいいかなぁ。謝るのはともかくさ、シズちゃん最近俺のこと――」

「おい、臨也」

臨也の言葉を遮るように、彼の後ろから声がかけられた。
その声に口を開いたまま動きを止めていた臨也が、ゆるゆると力を抜いて首を振る。

「…ドタチン、俺、ついに幻聴が聞こえるようになっちゃったみたいだ」
「あー…いや、幻聴じゃないと思うぞ?」

ほら、と後ろを示されて、臨也は恐る恐る振り返る。
そこには、気になって仕方なかった静雄の姿があった。



※修学旅行編6。まだ続きます。















超短文7題6−6 体温


「…ッ」
「臨也」
「ちょ、ドタチンッ!?」

一気に緊張した背中を押して、門田は「ちゃんと話し合えよ」と言い残して去っていく。
焦って呼びかけても振り返りもせず手を振られただけだった。

「………」
「………」
「…あ、あのさ」

とにかく何か話さねばという強迫観念の下、臨也が口を開く。

「ええと、あの…さ…俺、」
「悪かった」
「え…?」

ぎゅうっと抱き締められて、臨也はその温もりに戸惑う。

「お前を不安にさせた」
「あ、や…勝手に嫉妬して怒った俺も、悪いし」

静雄の腕の中は暖かくて。
その体温の心地よさに、臨也は戸惑いながらも抱き返す。

「あのね、シズちゃん、俺ね…シズちゃんに話したいことがあるんだ」

意を決して、告げた。
そうか。と静雄が呟いて、抱き締める腕に力が込められる。

「俺も、手前に聞きたいことがある」
「うん」
「話したくねぇなら話さなくてもいいって言ってやりたいけど、無理だ」
「…シズちゃん?」
「なあ臨也。俺はお前のことが知りたい。だから、教えてくれ」

懇願の響きが耳を打って。
臨也はうんと小さく頷いた。



※修学旅行編7。あといっこで終わります。















超短文7題6−7 帰路


「あれ?静かだと思ったら寝てるんだ?」
「そうみたいだな」

ふと、静かになったことを不思議に思って見れば、静雄と臨也はお互いに凭れて眠っていた。
帰りの飛行機の中、隣に座っていちゃいちゃする(新羅にはそう見えた)二人に呆れて放置して。
そのほんの十数分後のことだった。

「あの後はずっとはしゃいでいたからな」
「…確かに疲れててもおかしくはないか」

二人の間でどんな話し合いをしたのかはわからない。
ただ、すっかり落ち着いて普段のペースに戻った臨也を連れてきた静雄に「ありがとな」と礼を言われて。
以降の日程は滞りなく…かどうかは微妙だが概ねなんの問題もなく終了した。

「何とかなったみたいで良かったねぇ」
「…そうだな」
「何かな?門田くんとしては複雑?」

お父さんも大変だねぇ。
と笑う新羅に、門田は眉間に皺を寄せたまますごく嫌そうな顔をした。

「…これで少しは落ち着けばいいがな」
「どうだろうね、あの二人だし。……結局、静雄は訊いたのかな」
「さあな。わだかまりはなくなったみたいだから別にどうでもいいだろうよ」

視線の先の二人は手を繋いだままで。
その恋人繋ぎにますます門田の眉間の皺が寄る。
それを見てくすりと笑ってから、新羅は愛しの妖精に再会できる喜びと期待に浸ることにした。



※修学旅行編8。これでお終い。