超短文7題 5
※memoログ。5−1〜5−7まで。超短文7題5−1 祈り
「シズちゃん、それ取って」
「ほらよ」
「ありがと」
「おう」
仲が良くてなによりだね。
人目も憚らず他人の家でいちゃつく(新羅にはそうとしか見えない)静雄と臨也に、イラっとする。
何があってそうなったのか知らないが、犬猿の仲であるはずの二人がビール片手に連れ立って新羅のマンションを訪れたのは数時間前。
これまた何でそうなったのか知らないが、ソファで隣に座り合った二人は喧嘩するでもなく始終穏やかに会話を続けている。
向かいでそれを見る新羅は最愛の妖精の不在を嘆き、ついでに軽く二人に殺意を覚えた。
「君たち、もう帰ってよ。どっちかの家にでも行って、それで好きなだけいちゃつけばいい」
「…なに言ってんの新羅。俺とシズちゃんがいちゃつくとかキモイこと言わないでよ。なに?ついに沸いたの?」
「まったくだな。こんなノミ蟲といちゃつくなんざ絶対ありえねぇ」
本気で言っているんだから手に負えない。
額に手をやり溜息をつくが、すでに新羅から意識の反れた二人はまた二人の世界に突入している。
――ああもうこの天然バカップルどもさっさと帰れ!っていうかもういっそくたばってしまえ!
新羅は医者にあるまじきことを心の中で結構本気で願った。
※祈りじゃなくて願望ですね。バカップルとか言われてますがこの二人は付き合ってません。
シズちゃんと臨也が係わってお題が祈りとか…シリアスにしかならないんだよ。小ネタじゃできない。
超短文7題5−2 喧嘩
「手前、本気でムカつく野郎だよなあ」
「俺も同感だよ」
「うるせぇ黙れ虫唾が走る!!」
「君こそ黙れよ。いやそれよりいい加減その顔見てるの嫌だから今すぐ死ね」
「「………」」
睨み合う二人。どちらも引く気はないらしい。
「だから俺は犬派だ!!」
「俺だって犬派なんだよ!でもシズちゃんと一緒とか我慢ならないから君が猫派になれば万事解決だろ!!」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!!」
「ああ俺だってなに言ってんのかもう自分でも分からないね!」
ぎゃあぎゃあとどうでも言いことをお互い叫ぶ。しかもどう考えても臨也の方はムキになっているとしか思えない。
「…君たちふたりとも実は猫系だよね。しかもノラ猫」(※元ノラ猫は警戒心が強くて最初は全然懐きませんが飼い主には犬並みにべったりになりやすいです。経験則ですが)
『何の話だ?』
「気にしなくていいよセルティ。あの二人って仲いいよねってそれだけだから」
『…仲、いいのか?』
PDAにそう打ち込んだセルティの前では、静雄と臨也が各々凶器を振りかざす場面が展開されていた。
※とりあえず喧嘩は外でやりなさい。
超短文7題5−3 仲直り
「…悪かったよ、ごめんね」
「…………」
「シズちゃん、ホント俺が悪かったからこっち向いてよ」
「…………」
「ねえ、許してよ。もうしない…とは言えないけどしないように努力はするからさ」
「…………」
困ったなあと臨也は天を仰ぐ。目に映るのは白い天井だ。
もう一度、下に視線を下ろす。
そこには、ようやく小学校高学年になろうという年齢の子供がいて臨也を無言で睨んでいる。
「だからさ、あれは浮気じゃないんだよ本当に。あの人はただの依頼人。分かるシズちゃん?」
「…ガキ扱いすんな」
やっと聞けた声は不満を如実に表している。
何をとち狂ったのか臨也を好きだと公言して憚らないこの小学生――平和島静雄、9歳。
彼は目下臨也の最大の頭痛の種であり、最愛の『恋人』でもある。
「だってシズちゃんはまだ子供じゃん」
「………」
恨めしそうな視線。
困ったなともう一度心の中で呟いて、臨也はまた謝罪の言葉を口にした。
「ごめんね。大好きだよシズちゃん」
「…次、やったら潰す」
何を?とは訊けず、臨也は冷や汗を垂らして神妙に頷いた。
※年下の彼氏(犯罪ですよ!)このふたりで仲直りとか、どっちかが相当年下じゃないと無理っぽい。
超短文7題5−4 信頼
「シズちゃんシズちゃん」
「あ?」
「目瞑って」
「?…おう」
ちゅ。
「「………」」
その光景を見ていた新羅と門田が唖然とする。
見慣れているといえば見慣れているが唐突にやられればそうなるのも仕方ない…と言いたいが、唖然とした原因はそんなものではない。
「もういいよー」
「いいのか?」
「ん。満足した」
「そうか」
抱き寄せるために伸ばされた手に自分から飛び込む臨也。
それを抱きとめ、静雄は満足そうな顔で今度は自分からもキスする。
「あー…静雄って毎度毎度懲りないよねぇ」
「…知らぬが仏、か?」
手先の器用な――というかもう神業の域だ――臨也の手で静雄の髪にちょこんと居座るピンクの髪留め。
それに静雄が気付くのはいつのことか。
せっかく信頼されているのにそれを台無しにする臨也の行動に、残る二人は盛大に溜息をついた。
※『猛獣』設定で来神時代。
そんな悪戯ばかりしてるから数年後には必ずワンアクションごと一度は警戒されるはめになるんですよ、という話。
超短文7題5−5 合鍵
「ねぇシズちゃん」
「あァ?」
「…頼むからいちいち玄関のドア壊すの止めてくれないかな」
「なぁんで俺が手前の言うこと聞かなきゃいけねぇんだ?」
「…だよねぇ。まあそういうとは思ってたんだけどさ。でも俺もいちいち業者に頼むのさすがに馬鹿馬鹿しくなってくるんだよね。今月これで何回目だと思ってんの?っていうかさ、常識的に考えて人様の家に勝手に不法侵入ってのも問題だと思わないの?馬鹿なの?…ああ、馬鹿だったね忘れてたわけじゃないけど」
「うぜぇ黙れ」
「いや、俺は君に人として当たり前の常識を説こうとしているんだよ。あ、君は人間じゃないか」
「よし殺す」
殴る気なのかその辺のものを投げる気なのかは知らないが、静雄の殺意は本物のようなので臨也はやれやれと首を振る。
正論を並べて怒られる筋合いはない。
「と・に・か・く!今度からは用がある時は玄関は壊さずこれで入ってくるように!」
ずいっと目の前に突き出されたものに、静雄は目を瞬かせた。
出鼻を挫かれ殺気も霧散している。
「…これ、貰っていいのか」
「あげるって言ってるんだよ。言っておくけど、これ以上ドアを壊されないためであってそれ以外の意味なんてないからね。誤解しないように」
「………」
「いらないの?」
「…貰う」
ぎろりと睨む臨也に、静雄は困惑したままそれでも鈍い銀色に光るそれを受け取った。
※ツンデレ…?
超短文7題5−6 おせっかい
「ねえドタチン」
「なんだ」
「これってどういう状況?」
「静雄に伸された昔馴染みを回収して介抱中、だな」
「ああ、そう」
ワゴン車の中に転がされたまま、ぼんやりとした目で臨也は門田を見上げる。
「…シズちゃんは?」
「俺が預かるって言ったら渋々だが引き下がったぞ」
「そっか」
ふうんと呟いて、それから臨也はにやりと笑った。
「おせっかいだって思われたかもねぇドタチン」
「構わねえよ。俺は俺のしたいようにしただけだ」
「ん。ありがとねドタチン」
打って変わった無防備な笑顔に、本当に仕方ない奴だと門田は小さく笑って答えた。
※notドタイザ。ドタチンは本気でサンクチュアリだと思う。
超短文7題5−7 飢える
「ねえ、臨也」
「なに?」
「…これさあ、さすがにやばいと思うよ」
これ、と指された傷に、臨也は苦笑するだけだ。
「とは言ってもねえ」
「…僕から静雄に言おうか?」
「いいよ別に」
でも、と声を上げようとして、結局新羅は何も言わずに手当てに戻った。
「…痛くないの?」
「痛いよ?痛覚は正常だからね」
「………」
無言で黙々と手当てをする新羅の葛藤を感じて、臨也は困ったように笑った。
別に大したことじゃないんだよ、新羅。
そう言ってもよかったが、言えば余計に苛つかせるだけだろう。
だから、臨也は何も言わずに黙るしかないのだ。
新羅のマンションから出て少し歩く。
しばらく行くと、見知った人影が臨也の行く手を遮るように現れた。
「やあ、シズちゃん」
今朝ぶりだねと挨拶すれば、静雄は目を細め手を伸ばした。
腕を掴まれ引き寄せられて、白い包帯に覆われた首の、その更に上――喉に歯を立てられる。
すぐに鉄臭さが鼻をつく。
――また新羅に怒られるなぁ。
飢えた獣さながらのそれに苦笑して、臨也は目を閉じた。
※書いてた話からもれたのでここで。