超短文7題 2
※memoログ。2−1〜2−7まで。









超短文7題2−1 料理


「意外と言えば意外だよね」
「…なにが言いたい」
「べーつにー」
「…死にたいらしいなぁ臨也くんよぉ?」
「わかったよ素直に言うからおたま振りかぶるのやめて。それ当たったら痛いじゃすまないから」

手を振って静止を呼びかけるとシズちゃんはイライラした様子を隠さず、
「…………で?」
と問う。
シズちゃんのそういう素直なとこ嫌いじゃないよ。
だから、たまには焦らさず答えてあげようか。

「シズちゃんの作ったご飯はかなり美味しい」
「最初から素直にそう言え」
「素直な俺って気持ち悪くない?」
「………とりあえず腹立つな」
「ひっどいなぁ。でも、」
「?」
「ホントに美味しいよ、シズちゃん」
「……おう」

照れたシズちゃんは俺でも素直にかわいいと思うよ。



※何このバカップル。















超短文7題2−2 看病


「…う、ん…?」
「起きたかノミ蟲」
「…なんで、シズちゃんがここいるの…」
「新羅から電話が来て手前が熱出してぶっ倒れてるから薬持ってけって言われたんだよ」
「あー…それはどうも?」
「俺はとどめを刺しに来ただけだ」
「だと思ったー…。シズちゃんがおみまいとか、死亡フラグの予感しかしないしねぇ」
「…熱かなり高ぇから大人しく寝てろ。あと、ソファーじゃなくてベッドで寝ろ」
「んー…もううごくのめんどくさい…」
「ったく、この馬鹿が」
「うー…」
「粥食えそうか?」
「…わかんない」
「とりあえず作るから寝てろ。いいか起きてフラフラしてたらぶっ殺すぞ」

そう言って返事も待たず、大きな足音を立てて静雄は行ってしまう。

「けっきょく、看病するんだ…シズちゃんってやさしいねー…」

キッチンで動く人の気配に、臨也はぼんやりとしたまま小さく笑った。



※風邪ひき臨也。殺るなら今。















超短文7題2−3 お昼寝


「しずちゃん、ねむい」
「あ?」

静雄がいつものように池袋で臨也を見かけて追いかけて。
追いついた先での第一声がそれだった。

「今、俺すっごく眠いんだ」
「…そうかよ」
「だから、シズちゃんちで昼寝してってもいい?」
「いいわけあるか」
「えー…どうせ今日は夜までお仕事でしょ?いいじゃん別に」
「良くねぇ!」
「しずちゃんのけちー…」
「あ、おい寝るな!」
「うう…もう限界…」
「だああぁぁ!せめて家に着くまで待て!おい臨也!?」

傾いだ身体を支えて叫ぶが、もう臨也は聞いていなかった。



※昼寝じゃない…















超短文7題2−4 すれ違い


「あれ?どうしたの?」
「あー…ノミ蟲見なかったか?」
「僕は見てないよ。門田くんは見たかい?」
「ああ…たしか保健室に行くって言ってたはずだ。朝来て直ぐに」
「朝から見なかったのってただのサボりだったんだ」
「そういうことだ」
「…ちっ。新羅も門田も、ありがとな」

ばたばたと慌しくとって返す静雄を見送って。
偶然屋上で出会って昼食をとっていた二人は顔を見合わせる。

「臨也って時々何しに学校に来てるのかわからないよね」
「それは言えてるな」





「あれ?シズちゃん見なかった?」
「さっき来たよ。君のことが探してたから保健室だって教えたんだけど」
「すれ違いかぁ…ま、いいや。ここで待つよ」
「…追いかけなくていいのか?」
「追いかけないよ。だって追いかけるのはシズちゃんの役目でしょ?」
「平和島の健気さが哀れだな」
「シズちゃんは健気なんかじゃないよ、ドタチン。俺がいつもどれだけ酷い目にあってると思ってるのさ」
「それは自業自得って言うんじゃないの?」
「新羅うるさい」
「あ、そうだ臨也」
「なに?」
「さっき門田くんと話してたんだけど、君って今日何しに学校に来たの?ずっと保健室で昼寝してたんだよね?」

新羅のその問いに、臨也は不思議そうに首を傾げた。

「なにって…シズちゃんに会いに来たに決まってるじゃん」

それ以外何があるっていうのさと心底理解できないとばかりに口にする相手に。
新羅と門田は、ならなんで絶対に自分からは会いに行かないんだと思った。



※いろんな意味ですれ違い。かみ合わないんですよという話。『猛獣』設定かもしれない。















超短文7題2−5 説教


「臨也、僕はいつも言ってるよね」
「…はい」
「静雄も、いい加減理解してもらえないかな?」
「……」
「ここは僕とセルティの愛の巣であって、君たち専用の病院じゃないんだよ?」
「「………」」
「ねえ君たちの蝸角之争で僕がどれだけ迷惑してるか本当に理解しているのかい?」
「…わりぃ」
「まあ、静雄はいいよ。いちおう反省はしてくれてるみたいだし」

でも、と新羅は臨也を見る。

「君は欠片も反省していないようだね、臨也」
「今回は俺は悪くない」
「そういう問題じゃないんだけど?」
「だいたいシズちゃんが悪い」
「あぁ?また蒸し返す気かよ?」
「当たり前だろ。俺はあんなこと――」
「ああもう君たち!実は全然言ったことわかってないんだね!?」

新羅の叫びが空しくこだましたが、いがみ合う二人は当然聞いてなどいなかった。



※説教するひととされるひと。されるほうに反省はないようです。















超短文7題2−6 キス


「ん…う?」

ちゅっと、唇に落とされる触れるだけのキス。
幾度も繰り返されて臨也は首を傾げた。

「シズちゃん?」

呼びかけるが応答はなし。
聞こえるのは、ちゅ、ちゅ、と小さく響くリップ音だけだ。

「し、ずちゃん?なに?」
「…別に、何だっていいだろうが」
「……シズちゃん。甘えたいんなら素直に言ってよ」
「違ぇ」
「…じゃあ何なのさ」

またキスされて、ため息をつく。

――ああ、まったく仕方がない。

臨也はパソコンの画面に向き直るのを諦めて、幼馴染の首に腕を回して抱き締めた。



※『猛獣』設定。たまにはそういう気分の時もあります。















超短文7題2−7 記憶喪失


>折原臨也が平和島静雄を忘れた場合

「ええと…君、誰?」
「…手前なに企んでやがる」
「え?ええと…ねぇ、新羅、この人誰?とりあえず良くわからないけど俺と知り合いなんだよね?」
「…ああ、うん。知り合い…だね。一応。静雄、ちょっとこっち来て。あ、臨也はまだ大人しくしててよ」
「えー…俺もう帰りたいんだけど?」
「い・い・か・ら!待っててよ?」
「…はーい」

ぶつぶつ文句を言う臨也を尻目に、新羅は静雄に状況を説明する。
非常に頭が痛いが、何しろ(一応は)臨也の恋人である。説明しないわけにはいかなかった。

「あ?記憶喪失?本気でか?」
「本気も本気。少なくとも君に関することは何もかも綺麗さっぱり忘れてるんだよね。…困ったよねぇ」
「…あの野郎、殺す」
「いやいやいや!相手は一応怪我人でしかも君のこと覚えてないから!!」
「ちっ…原因は?」
「その辺の記憶も曖昧らしくてさ。昨日は君と臨也会ってないんだよね?」
「…ああ」

――ああ困った。静雄はピリピリしてるし臨也は静雄の記憶がなくても臨也だし。

途方にくれた新羅は、とりあえずセルティに慰められる妄想で自分を慰めることをした。



※こんな感じで。1ジャンルにつき必ず一度はやりたいと思う記憶喪失ですが、まずやらないのも記憶喪失なのでここで。
次はシズちゃんが臨也を忘れた場合。















超短文7題2−7 記憶喪失A


>平和島静雄が折原臨也を忘れた場合

「あ?折原臨也?誰だそれ?」
「ああうん。知らないならいいんだ」
「…気になる言い方すんじゃねぇよ」
「ごめんごめん。たいしたことじゃないんだよホント」
「…まあ別にいいけどよ…」





『シズちゃんが記憶喪失?』

新羅の言葉を聞いた途端、電話越しに聞こえる声は妙に楽しそうに弾んだ。

「うん。そうみたいなんだけど、君のことだけ忘れてるみたいでさ、何か心当たりある?」
『いや、しらないよ。…へえ、俺のことだけ、ね』
「…臨也、無駄だと思うけど釘を刺させてもらってもいいかな」
『無駄だと思うなら意味ないと思うけどね。まあそれで君が満足するなら勝手にどうぞ?』
「今の静雄は君のことを覚えてない。つまり君の悪行の数々も覚えてないってことだ」
『そうだね』
「もし君がそれを利用して何かしようって言うのなら」
『なに?友人として止める?いつの間にかずいぶん友情に厚くなったんだね新羅』

からかう調子の声はまるでこの事態を重く受け止めていないらしい。
急に馬鹿らしくなった新羅は続けようと思っていた言葉を口にするのはやめた。

「じゃあその友情に厚い友人として一応忠告しておくけど、静雄の記憶が戻った時に痛い目を見るのは君だからね?」
『あはは、気をつけるよ。じゃあね』

ぷつりと切れた携帯。
臨也の心底楽しげな笑い声がまだ耳に残っている気がして、新羅は大きくため息をついた。



※あれ?シズちゃんと臨也が出会わずに終わった…?