嘘つき
※エイプリルフールネタ。ボツったものリサイクル1。ぐだぐだです。

















――あの折原臨也と平和島静雄が付き合い始めた。

そんな噂が流れたのは、日付が4月1日に変わって少し経った頃のことだった。
当然、何処の馬鹿が流した嘘だよありえねぇだろ、とか。つくにしてももう少しましな嘘にしろよ、とか。そんな野次が飛ばされるくらいに、彼らを多少なりとも知る大概の人間は信じやしなかった。
だが、この日。その噂の二人は池袋に姿を現すことはなく、決定的な否定要素もまた、生まれはしなかったのだった。





そんな4月1日の夜のこと。

『――いや、ついに君たちが腹を括って付き合い始めたのかと思ったよ』
「…あのさぁ、新羅。俺とシズちゃんでそれはありえないでしょ?」
『いやいや、案外そうでもないかもよ?ほら、昔から言うよね?喧嘩するほど――』
「新羅、それ以上言ったら怒るよ?」

そんな会話のあと、臨也は携帯をポケットに仕舞い込み、くすくすと笑った。
先程から背中に感じている視線は痛いほどで。
それがより臨也を愉快な気持ちにさせている。

「新羅も案外勘がいいよねぇ」
ねぇ?と振り返って問う。
「君もそう思わないかい?」
「…かもな」

それよりさっさと来い、と言わんばかりの視線。
それに応えて、臨也は視線の主の下へと舞い戻った。

「不機嫌だねぇ。まさか新羅にやきもちとか言わないでよ?」
「………。今日は、一日俺の好きにさせるって約束だっただろうが」
「…ん。まあね」
「電話も出るなって言ったよな?」
「はいはい。君って案外独占欲強いよね」

腕を引かれて抱き寄せられて、苦笑する。
それが気に入らなかったのか相手――静雄は不愉快そうに眉を寄せて、睨みつけてきた。

「でもさぁ、ホント、結構ばれないもんだよね」
「…ばれねぇようにしてるからだろ」
「ははっ、シズちゃんにしては頑張ってるもんね」
「うるせぇ」

黙れとがぶりと噛みつくようなキス。
それを受けながら、臨也は僅かに目を眇めた。
静雄も臨也も敵が多い。それを考えれば、実は付き合っているなど知られないに越したことはないのだ。
だけど、今日の始まりに悪戯心で書き込んだ嘘がここまで否定されると、少し面白くない。

「別に、全てが嘘とは限らないのにねぇ?」

そう言って笑って。
臨也はさらに額やら頬やらに唇を押し当てる男を上目遣いに見上げた。
ちゅっと音を立てて離れた唇を追って、自身からもキスを送って。
臨也は満足げに目を細める。

「いつか、嘘だってばらそうか?」

くすくす笑いに零される溜息は軽い。
呆れながらも、彼は臨也の他愛もない嘘を咎める気はないらしい。

「…どっちの嘘だ?」
「新羅の方だよ。街に流した方は、どうせ誰も信じてないと思うし、知られない方がいいんだよ」
「――それもそうだな」

くっと笑って、臨也を腕に囲った男――静雄は、しかし手前は何がしてぇんだと呟く。
濁され、さも真実でないように語られる言葉。
嘘のフリをした真実も、真実のフリをした嘘も。
戯れに過ぎないとはいえ、あまりにも無意味過ぎる気がした。
確かにお互い敵の多い身だからこの関係は隠し通そうと決めたが、なら、あえてこの一連の嘘をついた意味が分からなかった。

「何って…シズちゃんの独占、かな」
「あ?」
「なんでもないよ」

くくっと笑って、目を細めて。
今日一日、静雄を独占できた臨也は満足そうに息を吐く。
例え無意味な――誰にとっても嘘だと思えるそれであっても、今日一日、静雄も臨也も池袋に姿を現さなかったのだ。妙な憶測が何処かの誰かの頭の中に浮かぶかもしれない。
それでいいのだ。曖昧なまま、でもひょっとしたら…なんて可能性をほんの少し持たせられれば、それでいい。
なにより、この嘘に付き合って静雄は今日一日を自分とこの部屋で過ごしてくれたのだ。

――うん。満足だ。

そう心の中で呟いて、目の前の男の首に手を回して引き寄せた臨也は、柔らかな声で今日最後の嘘を口にする。

「大っ嫌いだよシズちゃん」
「…俺も、手前なんざ嫌いだ」

甘い睦言のように口にし合って。
彼らは柔らかな微笑を浮かべて、そっと唇を重ね合わせた。












※誰にも内緒で付き合ってる二人のはなし。