煙草
※シズイザだけど臨也のみ。意味不明。
















染み付いた煙草の匂いがする。
静雄の部屋、静雄のベッドの上。
裸のままシーツの海に沈みこんで、臨也はぼんやりとしていた。
部屋の主はとうの昔に仕事に出掛けていない。彼が鍵を置いていかなかったのをいいことに、臨也はこのまま居座る気でいた。
包み込むような匂いを吸い込んで、甘えるように鼻を鳴らして。
小さく伸びをして、そのあとくたりと力を抜く。
煙草の匂いに混じって静雄の匂いもする。
悪くないなと考えて目を閉じて、ただまどろむ。
窓から入ってくる光の傾き具合から判断すると、時間は15時近くといったところだろう。
静雄が帰ってくるまではまだ時間があった。
動く気になれず、とろりと蕩けた思考は形を成すこともなく流れていく。
眠いようなそうでもないような。そんな感覚に身を任せてだらだらと過ごすことしばし。
僅かに身じろいだその指先にこつりと何かが当たって、臨也はそちらに顔を向けた。

「…たばこ?」

正確にはその箱だ。
身体を少しだけ動かして手にとって箱の中身を確認する。
煙草が一本と、ライターだ。
忘れていったのか?と首を傾げて、ふうんと小さく呟いて。
臨也は中から煙草を摘んで取り出した。
いつも静雄が銜えているそれ。部屋に染み付く匂いの源。
しばらくの間、指先に摘んだまま眺めていた臨也だったが、ふと思いついてライターも取り出す。
煙草はあまり好まない臨也だが、静雄がさせている香りだということに奇妙な欲求を覚えていた。
煙草に火をつけて、吸い込む。
滅多に吸わないそれは到底おいしいとは思えないが、独特の煙の苦味が染み込むように舌を撫でて、フルと身体を震わせた。
静雄のキスと同じ味だ。

「ん、っ」

慣れない煙草のせいだろうか。酷く頭がくらくらする。
眩暈に似た感覚に倦怠感が合わさって、臨也はきつく奥歯を食い締めた。
吸い込む紫煙が肺腑を満たすたび、ぞくりと背筋が震えるのを止められない。
飢えに似た感覚が生まれ次第に強くなっていくのを感じながら、臨也は唇から煙草を離して、手を伸ばして床に押し付けた。
フローリングの床に焦げ目がついたのを見ながら、は、と息を吐き出して。
ああシズちゃんに怒られるな、と一人ごちる。
それから昨夜から床に転がったままの携帯を取り上げ、時間を確認した。
15時39分。
静雄の今日の仕事は順調に行けば確か5時頃で終わりだったはずだ。
そう考えて、携帯を操作してメールを送信する。

さて、もう一眠りしよう。
律儀な彼は何だかんだ言いつつメールを無視したりはしないだろうから、次に目が覚める時には恋人の仏頂面が拝めることだろう。
食材の入ったビニール袋を下げて文句を言いつつ、でも夕食をつくってもらえるという期待から手は出してこない。
その姿を想像して、一頻りくつくつと笑ってから。
臨也は煙草の匂いが染み付いたシーツに包まりゆっくりと目を閉じた。












※シズちゃんちのベッドで寝煙草する臨也。行儀悪いし危ないので真似しちゃダメですよ!