ガラス越しkiss
※ス////////ネタ。
















スタバでコーヒーを飲んでいた静雄は、コンコンとガラスを叩く音に視線を上げた。

「…あ゛?」

そしてそれが目に入った瞬間に、ぱきりと手の中のカップに罅が入る。
目の前、ガラスの向こう側にいたのはニコニコと笑う高校以来の天敵の姿で。
ひらひらと手を振られて、びきりと米神に青筋が浮かんだ。

「手前、なんでここにいやがる」

ガラス越しであるため多少聞こえづらいだろうが、通じたらしい。
にこりと笑って何か言っている天敵――臨也に、静雄は聞こえねぇと唸った。
とりあえず店を壊さぬように外に出ようと立ち上がろうとした時、臨也がコートのポケットから携帯を取り出して指差す。
何だ?と思う間もなく、自分の携帯が鳴った。
目の前の相手は耳元に押し当てた携帯を空いた手で指差している。
意図が見えないが、仕方なしに出ると。

『やあシズちゃん。今日はスタバなんだ。珍しいね』
「うるせぇ。って言うか、何で電話…」
『あはは、ガラス越しだとやっぱり聞こえ難いからさぁ』
「…で?」
『ああ、さっきの質問?今日はこっちで仕事なんだよ。だから見逃して?』

そう言って小首を傾げてみせる男を睨み付けたまま、静雄は低く唸るような声を出した。
「…俺に何の用だ」
そもそも静雄は臨也に気付いていなかったのだ。そのまま通り過ぎれば…多分だが、店を出るまでは気付かなかっただろう。それをわざわざ気付かせたということは、何かある。何を企んでると鋭い視線を向ける静雄に、臨也はふるふると首を振って、そして言った。

『んー…本当は通り過ぎようと思ったんだけどさ』
「何だ…?」
『ちょっとしてみたいことがあってさぁ』
「してみたいこと?」
『うん』

こくんと分かりやすく頷いて。

『シズちゃんってガラス越しありな人?』
「あ?」

そう訊いてくる相手は相変わらずのニヤニヤ笑いを浮かべている。
がらすごし?
意味が分からず怪訝そうな顔で首を傾げると、その笑みがさらに深くなった。

『あはは、やっぱり通じないか』
「……?」
『いやいや、ちょっとやってみたかったんだけど案外機会がなくてね』
「いや、意味分からねぇよ」
『ガラス越しにキスしようって意味だよ。ダメ?』
「…意味分からねぇ」

キスならガラス越しじゃなくても、人目さえなければしてやる。
天敵で恋人な男を見てそう思うのが伝わったのか、首が振られた。

『普通のキスはお預けだよシズちゃん。で?する?しない?』
「……意味分からねぇ」

三度目になる呟きに声を立てて笑って、臨也がガラスに顔を近づける。
ゆっくり近づいてくる唇を凝視して、その感触を思い出して。
静雄は困ったように視線を泳がせた。
人目のあるこんな場所でと思うし、ガラス越しでは意外に柔らかいあの感触を感じられないのだが、誘うようなそれは酷く魅力的に見えて。
「くそっ、もし変な噂が立ったらフォローしろよ」
そう口早に文句を言って、自身もガラスに顔を寄せる。
いつもなら感じる熱を感じることなく、だが間近に寄せられた顔。
睫毛長ぇな、とかそんな感想を抱きながら、目を閉じて、冷たいガラスに唇を押し当てて。
数秒で離す。

「…面白くねぇ」
『ははっ、物足りない?』

そう言う臨也の目にも、燻る熱を見えた気がした。

『ねぇシズちゃん』
「…ん?」
『俺今日夜は空いてるんだ』
「…そうかよ」

どうやら気のせいではなかったらしい。
臨也の素直でない誘いの言葉に、小さく頷く。
あんなキスで満足できるはずがなかった。

『じゃ、またね』

軽い挨拶を残して。
するりと雑踏に紛れた黒いコートの後姿。
それが消えた方をしばらく眺めてから、静雄は「早く夜にならねぇかな」と呟いた。












※スタドラのあれ(知らない人はすみません)。

お出かけ先のスタバでコーヒー飲んでた時にこのガラスなら例のアレ出来なくね?と思ったのが切欠。
電話してた時友人が、でもあれやるならガラス消毒してからがいいなと呟いてました。現実的にはその方が衛生的にいいのかもしれんがお前夢ねぇなとツッコミました。
それはそうと周りの人たちの反応が気になる…。たぶん全力スルー?