psychedelic dreams -01
『psychedelic dreams -02』と同設定。シズ⇔イザとつがサイ。津軽とサイケは人型PC。注意。
















人型PCの開発者でありデザイナーの折原臨也とそのボディガードの平和島静雄は、よく喧嘩をする。
意見の衝突に始まり、時に暴力沙汰にも発展するのだから――ボディガードが護衛対象を傷つけてどうするんだという気もするが――、周りの人間はいつ喧嘩が始まるかとハラハラし通しな訳である。
だが。
仲がいいのか悪いのか。
そう問われれば、彼ら二人をよく知る人型PC――津軽は、「悪くはない。良くもないが」と答えるしかない。

「手前いい加減にしろよッ」
「嫌だね。大体プライベートの用事にまでくっついてくるとか迷惑なんだよ」
「俺は手前の護衛なんだよ!何かあってからじゃ遅いだろうが!」
「へー…命の危機以外では一切働かないくせに」
「…当たり前だろうがッ。俺は仕事じゃなかったら手前なんか絶対守らねぇよ!」
「はっ、そんなに嫌なら今すぐ辞めてもいいんだよ?君の代わりなんていくらでも居るんだから」
「ッ…辞めらんねぇんだよ、知ってるだろうが!」
「ああはいはい。君の大事な大事な先輩のお願いだもんね」
「〜〜〜ッ!!」

やれやれ、と自分と同じく臨也に作られた人型PCサイケ――サイケデリック01――と一緒に溜息をついて。
津軽はいい加減にしろと、そう思った。

「シズちゃんって…臨也くんのこと嫌いなのかなぁ」
「それはない」

津軽は人間の行動や心理を学ぶために静雄に預けられている。
そして、だからこそ静雄が臨也に抱いている気持ちを察することが出来た。

「静雄は臨也のことが好きだ」
「でも、シズちゃんいっつも臨也くんのこと苛めるし」
「………」

まあそれは確かにそう思う。
津軽もそれなりに長く行動を共にしているが、静雄がこんなふうな態度をとる人間は臨也だけだ。
気は短いしキレれば暴れはするが、こんなふうに心配しているのに素直になれないなど、他の人間には絶対見せない態度だった。
でも、だからこそ、静雄にとって臨也が特別なのは疑いようもない。

「…子供が好きな子を苛めるあれと同じかもしれないな」
「気を引きたくてってやつのこと?」
「ああ」

頷くと、サイケが不満そうにぷうっと頬を膨らませる。
「そんなのダメだよ。臨也くんがかわいそう」
可愛らしいサイケを抱き寄せて、津軽は苦笑した。
それも同意見だ。津軽も結局のところ、サイケに害がない限りは製作者でありマスターである臨也の味方なのだから。
さて、どのタイミングで口を挟むべきかと思案する二人をよそに、臨也と静雄の口論はまだ続いていた。

「とにかく無断で脱走なんかするんじゃねぇ!」
「どうしてさ。今日の仕事はもう終わったのに?俺には自由に出歩く権利もないって言うのか?」
「そうじゃねぇ!護衛なしに出掛けるなって言ってんだよッ」

人型PC開発以外にも臨也が関わっているものは多い。
その関係で浚われる可能性があるため臨也には護衛が必要なのだが、本人はそれが甚くお気に召さないらしく、度々無断外出を繰り返していた。
今回もうまく出し抜かれた。そして、それに気付いた静雄が慌てて探しに行こうとした矢先に臨也が戻ってきたため、その場で口喧嘩になってしまったのだ。

「臨也、お前自分の立場が分かってるのか?」
「ああ分かってる。ついでにあんなものに手を出さなきゃ良かったって後悔してるよ」
「だったらッ」

まだまだ続きそうな口論の気配に。
ついに痺れを切らしたのか、サイケが声を上げる。

「シズちゃんもういいでしょ!これ以上臨也くんを苛めるなら許さないから!」

いや、別に今回は苛めていたわけじゃないだろう。そう思ったが、製作者である臨也至上主義のサイケに言っても通じるわけがない。よって津軽はサイケの機嫌を損ねないように、とりあえず静雄に注意を促すことにした。

「静雄、それぐらいにしておけ」
「だけどな、津軽――」

こちらにまで文句を言う静雄にやれやれと思いながら、時計を指差す。

「そろそろ寝ないと、明日はラボに行くんだろう?」
つられて視線を移した二人が同時にあ、という顔をする。
「やべえ…おい、明日何時に行くんだった?」
「7時だよ。約束があるから早めに顔を出しておきたいんだけど…もう起きれる自信ないな」
「今すぐ寝るぞ」
「まだシャワーも浴びてないんだけど」
「んなの一日くらい浴びなくても死なねぇよ!」
「やだ」

ぷいっと顔を逸らしてシャワーを浴びると駄々を捏ねる臨也に静雄は眉を吊り上げた。
「手前ぇ」
低く唸るような声を出す静雄。
それを見ながら、俺はまた静雄に食って掛かろうとしたサイケの口を手で塞いで引き寄せる。
馬鹿馬鹿しいというのが、津軽の本音だった。
この二人は結局お互いを想い合っていて、そして素直になれないだけなのだ。
それなのにそんな二人にサイケとの時間を削られていることが、不満だった。

「もういいだろ!俺のことは放っておいてよ!」
「馬鹿か手前は!手前みたいな危なっかしいの一人で放っておけるか!」

は?と間抜けな声を上げて、きょとんと見上げた臨也に。
静雄もどうやら自分が何を言ったか気付いたらしい。
視線を彷徨わせて、うううと唸って。
それから、臨也に向かってびしりと指を突きつけて捨て台詞(?)を吐いた。

「とにかく手前は今すぐ寝ろ!」

そう言ってずんずんと歩いていってしまうのを臨也が文句を言いながら追いかける。
それを見送って、津軽ははあと息を吐いてサイケの口から手を離した。

「ちょっと津軽!邪魔しないでよ!」
「いいだろうが。もう大丈夫だろ、今は」
「でもッ」

臨也くんが!と訴えるような目をして言うサイケに。
津軽は少しは俺のことも考えてくれないだろうかと溜息をつく。
確かにマスターである臨也のことは心配だ。できれば幸せになって欲しい。
だが、それでも津軽としてはサイケには自分のことを一番に考えていて欲しいのだ。

――もうどっちからでもいいからさっさと告白してしまってくれないだろうか。

そう切実に願いながら、津軽は騒ぐサイケを黙らせるためにその可愛らしい唇にキスすべく身を屈めるのだった。












※友人のサイトの3周年記念に贈ったSSでした。