アニマルセラピー side:S
※来神時代。付き合ってないけどたぶんシズイザ。
















シズちゃんまたふられたの?
ぎゅうぎゅうと背後から抱き締める静雄に、臨也は困ったように笑って言った。
女子と付き合ってふられる度に、静雄は臨也のところに行く。
決して柔らかくない体を思う存分抱き締めて、悲しさが払拭されるまで開放しない。
臨也がつい先程まで飲んでいたジュースのパックは、静雄に抱きつかれた時の衝撃で地面に転がっていた。
あーあもったいないなぁとぼやくのを無視して、首筋に顔を埋める。

「くすぐったいよシズちゃん」

こういう時、臨也は決して静雄を突き放さない。
馬鹿みたいだね化け物がまともな恋愛なんて出来るわけないじゃん、とかムカつくことを言いながら。
それでも、決して突き放さないで大人しく腕の中に納まってくれるのだ。

「こういうの、誰かに見られたら誤解されちゃうよ?実は天敵の折原臨也とデキてるなんて噂になったら、困るのはシズちゃんだよー?まあ、俺だって迷惑だからそんな噂流させないけどさぁ」

流れるように紡がれる、意味のない音を聞きながら。
静雄はゆっくり目を閉じて臨也の匂いを深く、深く吸い込む。
これが、自分だけのものになればいい。
そう思い始めたのはどれくらい経った頃だったか。
最初は、ふられた悲しさを紛らわせるためにその原因の一端を作った臨也を殴ってやろうと思った。でも、あの時の自分がしたのは、昂ぶった感情の波が落ち着くまでただ臨也を抱き締めることだった。「手前のせいだ」と恨み言を呟く静雄をどう思ったのか、臨也はただ大人しく沈黙を守っていた。
これが、自分だけのものになればいい。
叶わない願いだと知りながら、いつしかふられたことを触れる口実にしている自分がいた。
もちろん、自分の暴力が理由でふられたことで心が荒れているのも嘘ではないが。
静雄を化け物と呼び否定しながら、そのくせ離れて行こうとしないこの男に。
いつの間にか恋焦がれる自分がいた。
不本意だが、何故かこの相手の体温が一番心地良いと感じていた。

「ねぇ、前から思ってたけど…君って何でわざわざ俺のところに来るわけ?俺って君とは仲悪いものだと思ってるんだけどね?」

ふいに問われて、いつか訊かれるだろうと思っていた言葉に、予め用意してあった言い訳を唱える。
それに言い訳といっても、別に嘘ではない。

「あれだ、ええと何だったか…アニマル、セラピーだったか?」
「………」

沈黙が落ちる。
たっぷり十秒は間を置いて。
臨也は重い重い溜息をついた。

「シズちゃん、俺のどこが犬や猫に見えるのかな?」
「だってお前、中身猫そっくりじゃねぇか」

外見も似てるし、と言えば。
腕の中の臨也は脱力したのか、完全に力を抜いて凭れかかってくる。

「…本物の猫をかまえばいいだろ」
「あんな小せぇもん、潰しそうで怖いだろうが」
「…俺は潰してもいいわけね」

酷いなぁと呟く臨也に、抱き締める腕に力を込めた。
痛いと呻くのを無視してそのままでいると、『腕の中の猫』は諦めたのか小さく息を吐いた。

「しょうがないなぁシズちゃんは」

そう言って伸びてきた手が頭をやさしく撫でて。
静雄は、不本意ながら確実にささくれ立った心を癒すそれに身を委ねた。












※シズ(⇔)イザでまだ付き合ってない二人。後編の臨也サイドは現代です。