ポップキャンディー
※とりあえず短いです。けっこう甘い、かも?
















顔を近づけるとふわりと香るいちごの匂い。
甘ったるい中にさわやかな酸味のあるそれを吸い込んで、静雄は僅かに目を眇めた。
腕の中に囲った黒ずくめの男は、うるさいと先ほど口に放り込んだ棒付きキャンディーにご執心らしく、静雄のそんな表情に気づく気配はない。
カラコロと口の中で転がす度、口から出ている白い棒も揺れる。
それを見ているうち、次第にまったく自分に向けられない目に不満を覚えだしていて、静雄はそんな自分のわがままさに呆れた。
だが、躊躇も反省も自重もしない。
する理由などないと思っているからだ。

「臨也」

声をかけて、なんだと振り返った相手の口――先ほどまでは意識すら――を占領するキャンディーの棒を摘む。
意図を察したのだろう臨也の口内からあっさりとそれを奪い去って、代わりに口付ける。

「ん」

甘酸っぱい味を感じて。
静雄は不愉快さを増した感情のまま、臨也の口の中からその味が完全に消え去るまで口付けを続けた。

「…っ」

息苦しいと訴える手が次第に力を失って、細身の体がぐったりと体重を預けるまで。
心行くまで臨也を堪能して、静雄はようやく満足する。
すっかりいちごの味は消えていた。

「は……も、…なんなのさ」
「あー…」

恨みがましく睨み付ける臨也に。
まさかキャンディーに嫉妬しましたとは言えず、静雄は言葉を濁す。
だが、相手が相手だ。
しばらくじっとりと静雄を睨み付けた後、臨也は呆れた、と溜息をついて、静雄の嫉妬をあっさりと見抜いてみせた。

「シズちゃん、自分であげたアメに嫉妬とか、さすがにいい年した大人がどうかと思うよ?」
「……うるせぇ」

図星なのでつい目を逸らし、静雄は手に持ったままだったとけかけの棒付きキャンディーを見る。
もう一度口に突っ込んでやれば臨也は静かになるだろうが、もうする気はなかった。
ついつい元凶のそれを睨んでいると、臨也はもう一度呆れた、と呟く。
手を取られて、持ったままのキャンディーは止めるまもなく臨也の口に再び放り込まれる。

「おい…」

今更だと不満さを隠さず唸り声を上げれば、臨也はおかしそうにクスクスと笑った。
それから、静雄の口元を指でなぞって、誘う。

「シズちゃん、もう一回キスしよ?」

パキンと口の中でキャンディーが砕ける音がする。
誘われるまま棒だけになったそれを取り上げて。
静雄は臨也の中から気に入らないいちご味を消すべく、その唇に己のそれを重ね合わせた。












※恋は人を愚かにするという話。