※R-18。監禁陵辱(っぽい)。





















視界を塞がれて。
両手を縛られ自由を奪われて。
塗り込められた薬で敏感になった感覚を持て余しながら、臨也はそれでも自分の現在置かれた状況を探ろうと足掻いていた。
ここがどこなのか。何故自分がここにいるのか。ズキズキと鈍く痛む後頭部が意味するものは何なのか。
纏まらない思考を立て直そうを勤めつつ、ぐっと体を捻ろうとした矢先、するりと足を撫で上げられる感覚にビクリと震える。
「ひっ」
薬――たぶん催淫剤の類だ――のせいで鋭くなった感覚は、それを快楽と捕らえた。

「や、だっ」

ゆるゆると首を振ると、鉄の音。動きに合わせて肌を滑る冷たい感触に、それが自分を繋ぐ鎖であると知る。
「っ…どこの、だれか知らないけどッ…こんなことしてただですむと、思うなよ」
無事に逃げられたならどんな手段を使ってでも報復してやると誓いながらの言葉に、それでも相手は応えない。
それが余計に臨也の焦燥を煽っていた。
「あっ、ぁあ」
くちゅ、と音を立てて、相手の指が体内に侵入する。
すでに何度も暴かれたそこは、すんなりと侵入者のそれを受け入れて、刺激に反応して締め付ける。
足を伝う生ぬるい液体の感触が気持ち悪くて呻く臨也の頬を撫でて。
指を抜いた相手はその体を抱えあげて。
そしてそのまま――

「ひ、ぅ…ぁ、ああッ」

臨也の中に相手の性器が穿たれた。
ぐちゅぐちゅといやらしい水音をさせて後ろから突き上げられて。
朦朧とした意識を必死で保とうとするが、与えられる刺激の前に陥落寸前だった。
「ヤダっ…も、イキた…」
ぐりぐりと自身の性器の先端を爪で抉られて、ヒクリと体が痙攣する。
だが、その根元は何か紐のようなもので括られていて、達することは許されていない。

「や……はッ…あぁ」
もう嫌だ、と心の中で弱音を吐く。
薬で限界まで感度を高められた中で続けられる拷問のような陵辱は、臨也の精神を酷く弱らせていた。
腕さえ縛られていなかったらとか。目さえ塞がれていなければとか。埒も明かないことを考えていられたのは意識を取り戻してからのほんの十数分だけだった。
なんでこんな状況になったのか。意識を失う寸前の記憶が酷く曖昧で、今の臨也には分からない。分かるのはただ、捕らえられてもうどれくらい経ったか分からないほど犯されているということだけだった。
腕の拘束はきつ過ぎて解けない。ならばと視界を奪う布だけでもはずそうともがけば、その度に肌を擦れる鎖に身悶える羽目になる。
「っん、ん…ッ」
弄られ過ぎて過敏になった胸を鎖が掠めて、ビクッと竦んだ拍子に深く埋め込まれたままの相手の性器を締め付けてしまい、その感覚にぞくりと背筋が震えた。

――はは、サイアク。

望んでもいない相手に手酷く強姦されてもキモチイイなんて、最悪だ。
そう自分を嘲笑うが、それが臨也の限界だった。
熱い。一時戻ってきていた理性も、熱が脳を支配するのと同時にどろりととろけ始める。
抗えないほど、気持ちよかった。
「ふ…ぅ…んんっ」
相手が誰であろうとお構いなしの節操のない体が恨めしい。
今更のようにそう思いながら、臨也は途切れ途切れに熱い息を吐き出した。
熱くてたまらない。
どろどろに溶け出した思考は、もはや快楽以外の現実を拒否しているとしか思えなかった。
誰のものかも分からない手が体を撫で上げ、這いずり回り、臨也の性感を煽り続ける。縛られた性器を弄り回されると、無意識に甘い声が漏れる。
くっと、低く。背後の男が笑う声が聞こえたが、今の臨也にはその吐息ですらただ性感を刺激するだけのものだった。

「や、あッ…あ、あ……ッ…やめっ」

ずんっと深く突き上げられて、ひゅっと息を飲み込む。膝裏に手がかけられ両足を持ち上げられて。
体重を支えるものをなくして自重で深く相手の性器を銜え込んで、臨也は目隠しの下で大きく目を見開いた。
声も出ない。それほどの衝撃だった。
太くて硬くて熱いものが、腹の奥深くまで捻じ込まれる苦痛。
カタカタと震える体は止めようもなく。
臨也は屠殺される家畜のように憐れなほどの痙攣を繰り返す。
「ッ」
片足が下ろされて、代わりに苦痛にも萎えなかった性器を扱かれて。
臨也はひっと息を漏らした。
耳朶を舐める舌の生み出す濡れた音にまで犯されて、声さえ上げられない痛みを味わったはずの体は弱まる気配のない薬のせいか、また快楽に染まりだす。
だが、それは決して臨也にとって幸いなことではなかった。むしろ、それは更なる絶望にしかなりえない。
「や、やだっ」
まだこの拷問が続くのだと示すそれに先程とは違う意味で体が震えた。
苦痛も辛いが、過ぎる快楽もそれに等しい。
本当にもう、臨也の精神は限界にきていた。
やだ、やめて、ゆるして、と懇願の言葉が口から零れる。
だが、
「んぅ…っ」
相手はそんな臨也などまるで無視して、口内に指を押し込み舌をつまんで嬲ってくる。上顎の喉に程近い柔らかな部分を指先で撫で、えずく臨也などお構いなしに頬の裏側をくすぐるように爪で掻く。
意識が戻ったばかりの頃なら相手の指を噛んで抵抗する気力もあっただろうが、もう無理だった。諦めて大人しく蹂躙される自分の姿は、相手の目にどのように映っているのだろうか。微かに残る理性でそう思うが、それさえすぐに霧散して。
「んっ、ん……ぅ」
生理的なものだけでない涙が零れて目隠しの布を湿らせていく。
状況も分からず、逃げ出すことも出来ず。誰とも知れない相手に玩具のように扱われて――そして、壊される。

「ッ」

嫌だ、と臨也は小さく喘いだ。
そんなのは嫌だ。理性を蝕む快楽の中で、それでも、それだけは嫌だと強く感じた。
「っ、やだっ」
誰かも分からない男に壊されるなど。それだけは、我慢できなかった。
「や、やだ…っ、しず、ちゃ」
助けて、とは口にしなかったが。壊されるなら彼がいいと。そう、臨也は気付いてしまった。
彼以外の誰かに壊されるのは嫌だった。
それが、臨也の欠片程度にしか残っていなかった理性を呼び覚ます。
「は、なせっ…やだっ、やっ」
ぐりっと暴れて抜けかけた体内のものが捻り込むように打ち付けられて。
臨也は何度も嫌だと首を振った。
「やだ、やだよっ…い、やだッ」
急な臨也の抵抗に苛立ったのか、腰を掴まれて何度も奥深くまで打ち付けられる熱。
それに意思とは関係なしに反応する体が気持ち悪くて、臨也はもうやだ、と涙声で呟いた。
「し、ずちゃ…たすけ…」
今なら殺されてあげるから、だからここから開放してよ。
そんな奇跡ありえないと知りながらの呟きは、空気に溶けて消える前に相手の口内に浚われた。
臨也は唐突な相手の行動に戸惑い、僅かに冷静さを取り戻す。
苦い口付け。微かに漂う匂い。
囚われてから今まで一度も与えられなかった口付けは、よく知った香りをさせていて。

「………しず、ちゃん?」

そんなわけないと思いながらの呟きに、相手はビクリと大げさに震えた。
その動きに体の中のものが動いて、ひっと声を上げてしまう。
「く…っ、ふ、ぅ…」
は、と息を吐き出して。臨也は体の力をゆるゆると抜く。
そして、固まったまま動かない相手に声をかけた。
「シズちゃん、だよね?」
問いかけに返事はない。
だが、臨也はすでに確信していた。
染み着いて消えることのない煙の匂い。銘柄まで知り尽くしたそれは、間違いようもなくて。己の肌を好き勝手に蹂躙した手のひらは、命がけの喧嘩で追いつめられた時に知ったものと同じような大きさで。

「シズちゃん、なんで」
「…臨也」

低く耳障りの良い声に名を呼ばれて、臨也はうんと頷く。
「目隠し、外して?」
「…ああ」
臨也の求めに応じて、目隠しが外される。
ぼやけた視界に何度か瞬いて、臨也は自分を抱いている男を見た。後ろから抱かれているため真っ直ぐは見ることは出来なかったが、サングラス越しではない色素の薄い目が息を詰めて自分を窺っているのは分かった。

「シズちゃん、なんでこんなことしたのさ」
「…………」
「ねぇ、シズちゃん」

呼びかけに応じない男に焦れて眉を寄せて糾弾すべく口を開こうとした臨也に。
男――静雄は、ぐっと腰を揺らした。
「ひっ、ぅあッ」
ぐりぐりと中の感じる場所を抉られて、臨也は堪らずに喘ぐ。
「あ、あぁ、あ……っ」
指先で性器の先端を弄られて、頭の芯がじんと痺れる。
もともと薬で高められていた体だ。一時静まっても僅かな刺激ですぐに快楽に落ちてしまう。
腕はまだ縛られたままで、逃れることも縋りつくことも叶わなくて。
臨也は、激しい動きがもたらす息苦しさに仰け反りながら、ひゅっと息を吸う。苦しい。痛い。でも、気持ちいい。
相手が分かった途端に先程までは僅かなりとも残っていた理性が蕩けて消えていく。

「んっ、や……あ、あぁっ」
「臨也」
「し、ずちゃん…ッ」
「好きだ」
「ッ…ぁ…な、に」
「手前が、俺以外を見るのが許せなかった」
「…ッ…あ、ん」
「だから、手前を閉じ込めることにした」

内壁を掻き回されて敏感な場所を抉られて、意識が朦朧とする。
「や、だッ」
「もう逃がさねぇ」
「や、あぁ…あ」
なにそれ冗談じゃないと返すはずの口から漏れるのは悲鳴じみた嬌声だけで。
臨也はぼろぼろと涙を零しながら静雄に揺す振られるしかなかった。
「しずちゃ、しずちゃんッ」
「ッ」
「も、イキた…いッ」
「ああ…分かった」
だからそんなに泣くんじゃねぇよ。
そう耳元で囁くように言われて、臨也はふるりと身を震わせて体内の静雄を締め付ける。
「くっ…ッ」
「ッ、あ、あ――――……っ!」
ぷつんと臨也の性器を戒めていた紐が千切られて。
一際強く感じる場所を突き上げられて、臨也は甲高い声を上げて静雄の手の中に精を吐き出した。
我慢させられ続けての放出に、臨也の頭の中は真っ白に染まる。
「ん、んッ」
静雄が息を詰めて体の奥深くに熱を注ぎ込むのを感じながら、臨也は小さく体を震えさせた。
それまでだって散々出されていたのに、相手が静雄だと分かった途端に本当に現金な反応をする自分に呆れて口の端を歪めて。
臨也は荒い息を整えようと努めた。
薬の効果はまだ消えそうにない。静雄が僅かに身じろぐだけでぞくりと背筋が粟立つ感覚に、必死に流されそうになる理性を立て直す。
このまま静雄の言葉通り監禁されてやる気など、臨也にはないのだ。

「しずちゃん」
「…なんだ?」
「閉じ込めるなんて本気で言ってるの?」
「ああ」

こくりと頷いて、それからずるりと性器を引き抜かれて。
臨也は唇を噛んでその感触に耐える。
「こんなふうに俺を全裸で鎖に繋いで腕も縛って?」
「…ああ」
問いながら塞ぐものを失ってどろりと溢れ出した液体が肌を伝うのに鳥肌を立てる臨也に、静雄は少し返答を躊躇ってから頷いて、それからティッシュで零れる白濁を拭い取ってくれた。そのことに内心安堵して、臨也は言葉を続ける。

「俺が、そんなこと許すと思うの?」
「手前の意見なんか関係」
「なくないよ。だって俺が大人しく監禁なんてされてやるわけないだろ?」
「…………」
「そもそも君に俺を監禁し続けられるわけない」
「…何が言いたい」
「君には無理だよ。経済的にも、精神的にもね」
「そんなことは」
「あるよ。絶対無理」
「…決め付けるなよノミ蟲。現に手前は俺にとっ捕まってるんだぜ?」

するりと背を撫でられて、零れそうになった喘ぎを堪える。

「無理さ。君は絶対に後悔する」
「しねぇ」
「するよ。俺に心の底から嫌われて憎まれて、そんな俺を力ずくで犯して。そんなことを繰り返してれば、君はいつか自分のしたことを本気で後悔する」

あえて断言する。後悔するのだと静雄の脳に刷り込む。
静雄が後悔するのかどうかなど、臨也には分かりはしない。だが、そう断言して誘導できなければ、自分は間違いなく静雄にここで飼い殺されるのだ。
静雄のことは好きだと気が付いたが、それでも監禁は遠慮したかった。

「…俺は、後悔しても――ッ!?」

まだ監禁続行の意思を捨てない静雄に、臨也は体を捻って静雄を正面から睨みつけて。それから、がつんと静雄の額に自分の額を打ち付ける。
痛みと衝撃にぐらぐらと世界が揺れる。しまった。静雄の体の頑丈さを忘れていた。
自分の行動に後悔しながら、臨也はふるふると首を振ってから、静雄を睨む。

「…大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。シズちゃんは責任をとるべきだ」
「は?…せき、にんってなんだ?」
「俺にこんな酷いことした責任だよ」
「…いや、今のは手前が勝手にやったんだろうが」
「そっちじゃなくて!」
臨也が怒鳴れば静雄も何のことか分かったらしく、ああそっちかと呟く。
「………そっちは謝らねぇぞ」
「謝ってくれなんて言ってないよ。ただ、責任とって俺と付き合ってっていってるの」
「―――は?」
唐突な科白に静雄が目を見開くのも臨也にとってみれば予定のうちだ。さあ混乱しろとばかりに臨也は畳み掛ける。
「だから!君のせいで俺の体が変になっちゃったんだから、ちゃんと責任取ってって言ってるんだよ!」
「変って…」
「俺別に今までMじゃなかったんだよ?なのにシズちゃんが酷いこといっぱいしたのに感じるとか、どう考えてもシズちゃんのせいじゃないか」
「いや、あのな臨也」
「う、る、さ、い。とにかく、責任とって俺と付き合え」
「…………」
付いていけずに沈黙した静雄に、臨也は敢て拗ねたような顔を作って彼の肩に額を預けて、言った。

「俺と付き合って、毎日俺のこと考えて、俺とデートとかして、それで俺のこと抱いて。他の奴としたりしたら絶対許さないから」
「…お、おい?それなんか変じゃねぇか?それじゃまるで」
「そうだよ。だから俺と交際しろって言ってんの!」

論法が変だとかそんなことはどうでもいいのだ。監禁されずに静雄から逃げ出せて、なおかつ静雄を自分のものにする。そのためならば、臨也は多少の矛盾は押し通して誤魔化してやると考えていた。
「…いいのか?許してくれんのかよ酷ぇことしたのに?」
信じられないと目を見開いて。
自分と合意でお付き合い――たぶん静雄の中では恋人=1番大事な相手なのだろう――できるとは思っていなかったのだろう。静雄は恐る恐るといった感じで問うてくる。かかった、と心中でにんまりと笑って、臨也は拗ねた顔のまま静雄を上目遣いに見上げた。

「いい。許す。痛かったけど気持ち良かったし。でももう少し優しくしてると嬉しい」
「…分かった」

こくりと頷いて。本当にいいのだろうかといった風情でおずおず抱き締めてくる腕に、臨也は柔らかく微笑んでやった。
薬の抜けきらない体が疼くが、それは後で静雄に責任を取って何とかしてもらおう。
「腕のやつもとってよ。俺もシズちゃんに触りたい」
「お、おう。悪ぃ、忘れてた」
「ん」
慌てて臨也の腕の拘束具をとる静雄に。
臨也はうまくいったとくすりと笑う。
シズちゃんはやっぱり単純だ、などと失礼な感想を抱きつつ、体を反転させて向き合って。開放された手を静雄の首に回して、こつりと額を合わせる。
「キス、していいか?」
「うん。しよ?」
強姦した男を許した心の広い被害者の立場を手に入れることに成功した臨也は、甚く満足そうに笑んで静雄の唇を受け入れた。
だが、その内心ではまだ手酷い陵辱を受けたことを怒っていて。
だから、臨也は当分好きだとは言ってやらないと思っていた。
こちらはあんな扱いを受けて、気付かずにすんだはずの感情にまで気付かされのだ。
当分、本当に当分、言ってなどやらない。
そう決めて。
臨也は気付かれぬようにふんと鼻を鳴らすのだった。












※この後監禁グッズの出所を問い質した臨也さんにシズちゃんがトムさんから借りたAVにそういうのがあって〜という話をして本気で説教されます。
なんか(たぶん)拍手かなんかで「こんな話書きませんかー?」と言われた(気がする)ので書いてみた話…だったと思います。一ヶ月くらい前なのでその方が見てくれてるかは分からないのですが…。