※シズ→(←?)イザ+新羅。
















「やあ、臨也。悪いんだけど、これ持ってさっさと帰ってくれるかな?」

開口一番、そう言われて。
臨也は顔をしかめた。

「なに?お客が来てるの?」
「…うん、まあ…そんなところかな?」
「……?」

言葉を濁す新羅に、怪訝そうな顔をして。
それから、気付く。
見覚えのある靴が、玄関にきちんと揃えてあった。

「なんだ、シズちゃんか」
「そうなんだよ!だから――」

新羅の言葉を遮って、臨也は笑う。

「新羅、何隠してるの?」
「…………」

視線を逸らす新羅。
どうやら臨也の勘は当たったらしい。
これだけ話していても部屋にいるだろう静雄が臨也に気付かないなど、普段ならばあり得ないのだ。

「ねぇ、新羅?」
「…とにかく、今はちょっかい出さないでやってよ…。ここのところ寝てなかったらしくて、今やっと寝付いたところなんだ」
「…シズちゃんが?寝不足?」

なんだそれは。
あの単純な男に寝不足になるような悩みがあるというのか。
そう失礼なことを考えつつ、臨也は首を捻った。

「ふぅん…シズちゃん寝てるのかぁ」
「臨也、何考えてるのか知らないけど余計なことはしないでよ」
「しないよー?ちょーっと、シズちゃんの寝顔を拝もうかなと思っただけだって」
「いや、上がらないで帰ってよ」
「いやいや、ここはもう見ないで帰るって選択肢は俺にはないよ」
「………」
「………」

はあ、と溜息をついて。
新羅は「分かったよ」と頷く。

「でも、余計なことはしないこと。見るだけだよ」
「写メは」
「ダメ」

ちっと舌打ちする臨也にもう一度溜息をついて、新羅はさっさと帰ってくれと思ったのだった。

***

「あ、ホントに寝てるんだ」

勝手知ったる他人の家、と入り込んだリビングで。
静雄はソファから足をはみ出させて窮屈そうに寝ていた。

「…何かムカつく」
別に俺だってちっちゃくないけど、と言いながら臨也はスタスタと静雄の側による。
だが、それでも静雄は目を覚まさない。

「へぇ、ホントに疲れてるんだ…」

面白そうな声に新羅が「君のせいなんだけどね」と言うが、臨也は言われた意味が分からず首を傾げるだけだ。

「俺のせいって、俺ここのところシズちゃんにちょっかい出してないんだけど?」
「うん。分からないなら分からないでもいいよ。…分かってくれたほうが池袋は平和になりそうだけどさ」
「?」

お茶を煎れてくるね、と行ってしまった新羅を何となく視線で追って。
臨也は「俺のせいってなんだよ」と唸る。
静雄を精神的に疲弊させたところで臨也にメリットなどない。…いや、嫌がらせにはなるのだから多少はあるかもしれないが、微々たるものだ。

「…ま、いいか」

考えても心当たりなどない。なら考えるだけ無駄だと、臨也は思考を切り替えた。
無駄なことに使う時間が惜しい。
さしあたって今すべきなのは、静雄の寝顔を見ることだ。もし間抜けな顔をしていたら、あとでからかうネタになる。

「どれどれ、寝顔をはいけーん」

そう言ってひょいと覗き込んだ顔に。
臨也は、ぴたりと動きを止めた。

「…………」

まじまじと相手の顔を見つめる。
あの凶悪さが嘘のようなあどけない寝顔だ。むしろ、可愛いかも…とまで思って臨也はその感想に疑問を持つ。
――いや、シズちゃんが可愛いって…。
と、もぞりと動いた静雄が、小さく「いざや」と自分の名を呼んで。
「…………」
すっと立ち上がった臨也は無言のまま玄関へ向かう。
「あれ?帰るのかい?」という新羅の声も今の臨也には聞こえていなかった。



――いやいやいや!なんだよこれ、なんなんだよ!?いやもうありえないでしょ?アレは化け物!俺の大好きな人間じゃないんだよ!?あああ、もう落ち着け心臓!どこにそんなに動揺する要素があったっていうんだ!?そもそもあいつは男!男だよ!落ち着け冷静になれ折原臨也!







シズちゃんが可愛いとかありえないから!!













※天敵をかわいいとか思っちゃった自分に狼狽える話。