好奇心は怪我のもと
















臨也は、偶然道に落ちていた手帳を拾った。
誰の物かは分からないし、普段なら拾いもしないようなあまりにも小さくチャチなものだ。
絶対どこかでタダで配ってるやつだね。そう思いつつ、ページを捲る。
もちろん持ち主を特定するためなどではなく、単なる好奇心からの行動だ。

「…………」

ぱたん。
両手で閉じて、臨也は何とも言えない複雑な表情をする。
見るんじゃなかった。っていうか、拾うんじゃなかった。
中を見たことを思う存分後悔してから、臨也はこの手帳をどうするか本気で悩む。
手帳の内容からもう一度道端に戻すのは却下だ。あり得ない。
だが、持って帰って処分するのも嫌だった。

「…どうしよう」

こんなちっぽけな手帳一つに今までの人生でそうないほどの危機感を覚えるとは。
臨也は視線を彷徨かせ、何とかできないものかと考え続ける。

「持ち主に返す…のは…うんダメだ。嫌だ。今は特に絶対会いたくない」

むしろ持ち主ごと永久に存在を抹消してしまいたい。
二度とめくりたくもない手帳を片手に途方に暮れる臨也だったが。
こういう時、運はとことん彼に味方してくれないらしかった。

「手前、ノミ蟲。なんで池袋にいやがる」

背後から聞こえた声に。
思わずビクリと過剰反応してしまったのは仕方がない。
何故なら、この手帳の持ち主は――

「あ゛?手前!?なんでそれ持ってやがる!?」
「…あははは、さあ…ホント、何でだろうね…」

拾わなければ、今頃静雄に見つかることなく新宿に帰れていただろうに。そして、何より、こんな気持ち悪い事実を知らなくてよかっただろうに。

「ねぇ、シズちゃん」
「…お、おう」
「これ、君のなんだよね?」
「………」

シズちゃん。沈黙は肯定だって知ってるかい?
そう言いたいが、臨也はもう、そう突っ込むことすらしたくなかった。

「と、とにかく…そいつを返せっ」
「嫌だよ。これは絶対廃棄する」
「ッ!…んなことさせるか!返せ!!」

叫ばれたって知るものか。
臨也は自分が喫煙者でなかったことを少し後悔しながら――なにしろライターさえあればすぐ片が付いたのだから――。
静雄に負けないくらいの大声で叫んだ。



「誰がこんなストーカー日記返すか!ありえないだろコレ!?」












※ストーカーな静雄さんの手帳でした…。

たぶん中身は臨也のことばかりねちっこく書いてあるものと思います。
あ、シズ→イザです(言わなくても分かるよ)