真夜中の電話
















携帯の着信音に、臨也はもそりと頭を起こした。
確認した時刻は深夜2時。
誰だこんな時間に、とそもそも就業時間をもたない情報屋は不愉快さを隠すことなく眉を寄せる。
のろのろと手を伸ばし、サイドボードの上の携帯を取ってディスプレイを確認し…ぱたり、と携帯ごと腕を投げ出した。
そのまま黙って待つこと数秒。着信を告げる電子音が途切れる。
臨也はだるそうに欠伸を一つして、もう一度眠ろうと寝返りを打とうとして。

「…うるさいなぁ」

また鳴り出した携帯を睨んだ。
一応――仕事だと困るので――確認して、溜息をつく。
普段ならこの時間は寝ているはずの相手からのそれがラブコールだと思うほど臨也はふやけた思考をしていなかった。
だから、面倒だと無視を決め込もうとするが…しつこい。切れては鳴る着信音に、ついに諦めて通話ボタンを押す。

「なにかなシズちゃん」
『起きてるならさっさと出ろノミ蟲』
「…一応言っておくけど寝てたよ」
『起きた後無視しただろうが。手前が起きないはずないからなぁ?』

そこまで知っているならば、こんな非常識な時間にかけないで欲しいものだ。溜息一つついて、臨也はのそりと身を起こした。

「それで何の用なのかな?」

これでくだらない理由だったらただじゃおかない。
そう決めての問いかけに、静雄が電話越しに低く笑ったのがわかった。
不愉快だ。

『手前のところに忘れ物してねぇかと思ってよ』
「なに?」
『ライター。幽に貰ったやつ』
「んー…どうだろ…?…とりあえず朝起きたら探すんじゃだダメかな?」
『いますぐ探せ。もし手前のとこじゃなかったら探しに行かなきゃならねぇからな』
「横暴反対」
『知るか。さっさと探せ』
「………」

はあと息を吐きだ出して、臨也は仕方ないとベッドから降りた。
もしこれで探さなかったら、間違いなく静雄は押し掛けてくる。そんな面倒なことになるくらいなら自分で探した方がマシだった。

「ホント、君って幽くんのことになると別人みたいだよねぇ」
『うるせぇ』

少しはその優しさを自分にも向けて欲しいものだ。仮にも恋人なのだから――と思って、臨也はいや、優しい静雄など気味が悪いなと首を振る。

「んー…どこかな…?っていうか、あるのか?」

部屋を出て、静雄の指定席であるソファの前に設置されたテーブルの上を確認。ないことは一目瞭然だったので、次はソファの上を探す。

「ん…っ、と…ない、なぁ…」
『………』
「下に落ちてるとか…?」
『………』
「…っていうか、…っ、ぁ…っい、た」
『………』

手、切ったかも。そう呟いて指先を口に含む。
うっすらと血の味が口内に広がる。

「…ん、ぅ……あ、これ、かな」

指を銜えながらも手探りでソファの下を探っていると、かつんと硬い感触が指に当たった。
引き出してみる。

「ああ、あったよシズちゃん」

良かったねぇ、これで俺もやっと寝られる。そう思って安堵の息を吐いた臨也に、静雄が電話越しに盛大な溜息をついた。

「…なに?シズちゃん?」
『今から手前んち行くから起きて待ってろ』
「は?明日…まあ今日だけど、一度寝てからでいいでしょ?俺もう眠いし、シズちゃんだって眠いんじゃないの?」
『あー…いや眠くはねぇな』
「へぇ…でも俺は眠いから、明日でいいよね」
『いや、行く』

一体何なのだ。きっぱりと言い切った静雄に怪訝そうな顔をした臨也だったが、

『つーか、手前が悪い』
「はい?」

急に意味不明な非難を受けて、なんのことだと首を傾げる。

『手前がエロいのが悪い。電話であんな声出すな』
「―――は?」

じゃあな、行くから寝るなよ。と言う静雄。そして、一方的に通話は終了した。

「………いや、悪いのは君の頭だよシズちゃん」

あんなのでサカるとか、思春期のガキかよ。
そう呆れた声で呟いて。
臨也は逃げないとやばいよなぁと名残惜しげに寝室に視線をやるのだった。












※いっそ着信拒否にしてやればいいんじゃないかと思わないでもない話。
万年発情期なシズちゃんと振り回されてる臨也さん。