happy!















…あーダリぃな。
朝、そんなことを考えながら事務所に向かうべく歩いていた俺は、ふと嫌なにおいを感じた気がして足を止めた。
予想通りすぐに、

「しーずちゃん!」

と後ろから声をかけられる。
最悪だ。なんで朝っぱらからノミ蟲の顔なんざ見なきゃなんねぇんだ。
振り返り予想外に至近距離にいたヤツの胸倉を掴んで凄む。

「…ノミ蟲、手前は何度言ったら」
「ストップ!」
「あ"?」

ビッと指を目の前に突きつけられて、何だと唸れば臨也はニコニコと笑ったまま「下ろしてよ」とのたまった。
ムカつくのでこのまま殴ってやろうと決めて拳を握る。

「待ってよシズちゃん。今日は喧嘩しに来たんじゃないから」
「あぁ?どうせろくでもねぇこと企んでるだけだろうが」
「酷いなぁ。それじゃ俺がただの悪人みたいじゃない」
「そうだろうが」
「…まあ、半分くらいは否定できないか…。で、下ろしてよホント」

なんだか気が削がれた。
ちっと舌打ちして下ろしてやれば、ノミ蟲野郎は平然とよれた胸元を直す。

「ああ、そうそう。今日来たのはこれを渡すためなんだけどね」

はい、と差し出されたのは小さな箱だ。
きれいにラッピングしてあるそれに首を傾げる。
なにを企んでいるんだと睨めば、可笑しそうに笑われた。…ムカつく。
やっぱり殴ってやろうと拳を握り直す。が、

「ハッピーバースデイ、シズちゃん!これでまた一歩死に近づいたね!でも寿命まで生きられるなんて思わないでよ?その前に俺がシズちゃんを殺すんだからさあ!」

そう言ってにこにこ笑うクソ野郎の顔を、動きを止めてついまじまじと見つめてしまう。
だって、なあ?これって、どうみてもよ。

「…手前でも照れるんだな」
「ッッッ!!!」

思ったことを口にした途端、笑顔が盛大に引き攣った。
瞬時に真っ赤になった臨也の反応に、ちょっと面白いと思う。
なんと言うか、少し可愛いとか思っちまった自分に反吐が出そうではあるが。

「わざわざ朝一番で祝ってくれるなんてよお、ずいぶん可愛いことしてくれんじゃねぇか?なあ?」

形勢逆転。
にやにや笑って顔を覗き込んでやれば、声も出ないのか見開いた赤い瞳が瞬きもせず俺を見ている。
ガキみてえだなと思えば、伝わったのだろう。ぎろりと睨まれた。

「ま、貰っといてやるよ」

そう言って差し出されたままのそれを取り上げる。
中身が何かは知らないし、食べ物なら毒入りの可能性もあったがまあいい。
めずらしく臨也をからかえたことで気分がいいから多少のことは許してやろう。

「じゃ、俺は仕事に行くからな。わざわざありがとよ」

そう言ってやって踵を返そうとした俺の背に、臨也が怒鳴った。


「べ、別にシズちゃんのためにわざわざ買ってきたわけじゃないからね!」


なあ、臨也。それって逆に肯定してるのと同じだぞ。
そう言ってやっても良かったが、あまり追い詰めると後のお楽しみを却下されかねないのでやめておく。
とりあえず仕事が終わったら速攻臨也のところに押しかけてやろうと考えて。
俺は振り返らずに手だけ振って、鼻歌交じりに歩き出した。












※シズちゃんハピバSSひとつめ。…たぶんまだ書く。デレ比率の高いツンデレ臨也さんを書こうとして挫折しました。