やきもち
















俺は、自分はずっと淡白な性格なんだと思ってた。
なのに。

「おいノミ蟲、黙ってないで何か言えよ」

不満そうな顔を隠さないシズちゃんに溜息を付く。
普段は喋るなって言うくせに喋らなくなると落ち着かないとか、どんなわがままだよ。

「………」

こくりと一口コーヒーを飲んで、俺は黙ったままシズちゃんに視線を向けた。凝視、と言っていいほどだけど、でも喋ってはやらない。
困惑したような視線を浴びながら、また一口コーヒーを啜る。

「臨也?」

不安そうな声を出すシズちゃんとか、普通じゃあり得ないよね。俺が黙ってるのがそんなに不安?別に何も企んじゃいないよ?ただ、君が昨日言ったことを実行してあげてるだけじゃないか。

「…なあ、俺なにかしたのか?」

小首を傾げて問う彼は、どうやら自分が言ったことを覚えていないらしい。…ムカつくなぁ。

「無視すんな、なんか言えよ」

嫌だよ。絶対やだ。

「いーざーや」

知らない。

「…手前、ノミ蟲の分際でいい度胸じゃねぇか」
「っ」

唐突に、手首を掴まれてそのまま押し倒された。
短気なシズちゃんらしい行動に溜息が漏れる。

「ぜってぇ喋らせてやる」

何その宣言。馬鹿じゃないの?
そう思って呆れた視線を投げかけた俺に、シズちゃんは眉間に皺を寄せたまま噛みつくようなキスを仕掛けてきた。

「っ…ん、ん」

ぴちゃ、と水音が響くくらいねちっこく舌を絡まされて。
一瞬流されそうになった気を引き締める。
まさかシズちゃんがこういう手段に訴えるとは思ってなかったから、少し新鮮な気分だ。でも正直昔の純情なシズちゃんが懐かしいよ…まあ、こうなったのはたぶん俺のせいだけどさ。

「ずいぶん頑張るじゃねぇか臨也くんよぉ」

そりゃあね。昨日のあれはさすがにムカついたしさ、俺だって意地にもなりますよ?
でもさ、俺も自分がこんなに嫉妬深いとは思ってなかったよ。これまでずっと嫉妬なんてしたことなかったしさ。新しい発見だね。いや、これだから人間は面白い。でも、恋人である俺と弟くんを比べるのは間違ってない?しかも幽を見習ってもう少し静かな人間になれとか、どういうこと?それって俺の性格とか全否定した発言だよね?…そりゃ、シズちゃんが弟くん大好きなのは知ってるけどさ。

「…臨也、いい加減にしろよ」

だんまりを続けていた俺に痺れを切らしたらしく、シズちゃんがものすごく不満そうな声を出す。なのに目は不安そうで。いつもと違う俺だと不安とか、本当にわがまますぎだよシズちゃん。
だけど、こうやってシズちゃんの視線を自分に向けさせ続けてる俺も、そうとうわがままだなとは思う。
ねえシズちゃん。俺は自分は淡泊な人間だと思っていたけど、全然そうじゃなかったらしいよ。
機嫌直せよ、とかなんとか言って顔中にキスの雨を降らせてご機嫌をとろうとするシズちゃんに苦笑する。らしくない態度をとってでも俺の機嫌を直そうとするシズちゃんが嬉しいとか、我ながら馬鹿みたいだ。

「臨也、なんか言えよ」

目元に落とされるキス。そっと壊れものでも扱うみたいに触れる手。
たまにはこういうのも悪くないなぁとか、たちが悪いことを考える。
好きだよシズちゃん。だからもう少し俺のわがままにつき合ってよ。


…ああもう、ホント。自分がこんなに独占欲強いなんて知らなかったなぁ。












※比較されて幽に嫉妬する臨也さんの話。