※けもみみパラレル。発情期ネタ。














熱い。

「ん…」

はふ、と臨也は溜息に似たと息を吐き出す。
身体が異様に熱くて、だるかった。

「かぜ、かな…」

ぽつりと漏らして、身を起こす。
だるい。眠い。なのに、酷く身体が熱くて、ぞくぞくと何かが這い上がってくるような感じに、ふるりと震える。

「臨也?大丈夫?」

心配そうな声に目を向けると、よく知った顔があった。
いつの間にか授業は終わっていたらしい。

「新羅、俺、変かも」
「変って、どう変なの?」
「身体、だるくて熱くて、風邪みたいなのに、なんか…」

その言葉に新羅はふむ、と考える仕草をして。
ふいに手を伸ばしてきた。
わずかに指が接触する。

「んっ…ぅ」

ぞくりと悪寒が臨也の背を走った。

「しん、ら…なに、したのさ」
「いや、触っただけだけどね」

これは困ったなぁ、と新羅が呟くのが聞こえるが。
その声さえ今の臨也には遠く感じられる。
感覚が鈍くなっているのかそれても鋭敏になっているのか、酷く曖昧な感覚が気持ち悪い。

「しんら、これ、なに?」

吐き出す息の熱さに、自分でも異常だというのはわかっている。
だが、風邪とは微妙に違う感じがしているのが気がかりだった。

「…発情期だね」
「はつじょうき?」
「…君、ひょっとして発情期になったことないのかい?」
「ない」
「…うーん…まあ、君の場合普通と違うし、そういうこともあるのかなぁ?」
「これ、治るの?」
「治すというか、酷い場合は薬で抑えるのが普通なんだけどね。でも発情前にしか効果がないから君の場合は薬じゃ治せないよ」

とりあえず、このまま教室にいるとまずいから移動しようか。
そう言われて、素直に頷く。
くたりと力の抜けた身体を新羅に支えられながら、臨也は教室から離れることになった。





――保健室。

そこのパイプベッドに身を横たえて、臨也は次第に強くなっていく感覚に怯えていた。
この感覚は、まるでつい最近静雄に教えられて知ったばかりの感覚をのようで、怖かった。
ピクリピクリと震える耳と尻尾。
その尻尾を捕まえて、新羅は柔らかな毛並みを撫で上げる。

「ひっ…う、んっ」
「ああ、本格的に発情期には入っちゃってるかなこれは」
「やっ…しんら、離してっ」
「ごめんごめん」

悪いとは思っていない口調で謝る新羅を睨みつけたが。
潤みきった瞳では効果はないに等しかった。

「臨也の場合、静雄としちゃったのが引き金かなぁ」
「う、るさっ」
「一応教えておくけど、猫族の発情期は特に決まってないからこれからは気をつけるようにね」
「それくらい、知ってるっ」

初等教育の範囲だろうそれは!と叫びたかったが、力が入らない。
臨也は自分の状態に歯噛みして、なんで、と問うた。
今まで来なかったものがいきなり来た原因は新羅の言うとおり確かに静雄との行為だろう。
だが、そもそも猫の雄の発情期は雌――あるいは処置を施した妊娠可能な状態の相手――がいないと起こらないはずだ。
理由がわからない。

「君の場合、もう一つの血の方が濃いからね。たぶん、その影響が出てるんだと思うよ」
「…さいあく、だ」

一切外見に現れない、ほぼないに等しい特質がこんなところで影響するなど。
最悪以外の何物でもなかった。

「ふっ…ぁ」
「しかも君はもう静雄に抱かれてるからね。発情期に相手を抱きたいんじゃなくて抱かれたくなるのもしかたないよ」
「俺は、おとこ、なんだけど」
「うーん…その辺のメカニズムはまだまだ研究が進んでないからね」

わからないね、と新羅が溜息をつく。
その間も臨也の熱は高まって、次第にすべてがそれに食い尽くされるような感じさえしてくる。

「とにかく静雄を呼ぶから、彼に何とかしてもらうのが一番手っとり早――」

がらり、と保健室の扉が開く。
入ってきたのは、新羅が今まさに呼ぼうとしていた人物だった。

「やあ静雄、あのね臨也が」
「発情期なんだろ」
「よくわかったね」
「匂いがプンプンしてやがったからな」

くん、と鼻を鳴らして。
静雄が臨也の側に寄ってくる。
途端に強く香る馴染んだ匂いに、臨也の体は素直な反応を示した。
ひくりと震えて、下肢に重い熱が溜まる。

「しずちゃん、」
「んな声出すなよ」
「だって…ッ」

欲しい。この男がたまらなく欲しかった。
頭の中を埋め尽くす衝動に抗う術などなく。
臨也はここがどこで誰がいるのかも忘れて乞う。

「しずちゃ、おねがい…」
「…新羅」

低く唸ってちらりと見る静雄に。
新羅は心得ているとばかりに頷いた。

「じゃあ静雄、あとはよろしく」

そう言って新羅が去ったことも。
去り際に外側から鍵をかけていったことも。
今の臨也にはどうでもよかった。
今はただ、目の前の相手が欲しくてしかたなくて。
臨也は望まれるまま、相手を誘うための言葉を紡いだ。












※はじめての発情期に翻弄される臨也さん。

拍手でネタ振りされて滾ったので書いてみました。
時系列的には2年生の冬くらい?