「無防備なのもお互い様」
※同居パラレル。静+臨で無意識シズ⇔イザ?















二人でつけっぱなしのテレビ――恋愛もののドラマだ――見るとはなしに見ていた時のこと。

「そういえばさー」
「なんだよ」
「シズちゃんってキスしたことあるの?」

一瞬動きを止めた静雄は、ぱちりと瞬く。
脳に言われた言葉が届くまで、数秒を要した。

「……手前には関係ないだろうが」
「確かにないね」

うん。と頷いて臨也はリモコンを操作してチャンネルを変える。
どうやら思ったことを口にしただけだったのだろう。
すでに興味はないのか、視線すら寄越さない。

「…そういう手前は、したことあるのかよ」
「あるよ。って言うか、シズちゃん見たことあるじゃん」
「……」

そう言えばそうだな、と思い出す。
高校時代、偶然臨也が女子とキスしているところを目撃してしまったことがあった。
うっとりと身を任せる女子よりも、面白くもなさそうに口付ける臨也にばかり視線が行ったことも思い出して。
そういえば何で俺は臨也ばっかり見てたんだろうな、と首を捻る。

「まあ、目を離すと何するかわかんねぇからか?」

と結論づける。
あの頃、静雄と臨也はすごく仲が悪かった。なにかと性質の悪い悪戯…というにはあまりにも酷かったが…を仕掛けてくる臨也に静雄は見かけたらとりあえず攻撃する癖が付いていたほどだ。

――…今は別の意味で目が離せないやつだけどな。

同居して知ったことだが、臨也は保身に長けている割にどこか無防備なのだ。だからしょっちゅう危ないことに首を突っ込んでケガをしている。昔は何とも思わなかったが、今は臨也を知れば知るほどその無防備さが心配で仕方なかった。

「…ねぇシズちゃん」
「なんだ」
「さっきからぶつぶつぶつぶつうるさいよ。俺そこまで馬鹿じゃないし、たまたまケガして帰った時にシズちゃんがいただけだよ」
「……」

欠片も信用できねぇ。
静雄がそう思ったのが伝わったのか、臨也はムッとした表情をする。

「ああもう!シズちゃんの心配性!そういう生意気な奴にはお仕置きしてやる!」

はい?と思った瞬間には遅かった。
あ、柔らかい。と、むにゅっと押しつけられた感触に思う。

「シズちゃんのファーストキスは臨也さんがいただきましたー。男が初めてとかかわいそうだねーシズちゃん?」
「………」

けらけら笑う臨也に、静雄は視線を目の前のテーブルにやる。
ビールの空き缶が、1、2、3…全部で7本。そう言えば、テレビが面白くないとか文句を言いながら飲み続けていたなと思い溜息をついた。
決して酒に弱くないのは知っているが、どうやら臨也は酔っているらしい。

「手前、これあとで覚えてても文句言うなよ…」

純然たる被害者である自分が文句を言われるのは割に合わない。しかも機嫌を損ねた挙げ句、またいつかのように晩飯抜きになどされたりしたら洒落にならなかった。

「ん?文句なんて言わないよー?池袋の自動喧嘩人形さまの貴重なファーストキスを頂いたんだもん」
「あのな…」

まあ、間違っていない。非常に悲しいが、さっきのあれが静雄のファーストキスだった。

「……うわ…」

思い出して、静雄は今更ながら赤面する。
柔らかな唇の感触とか、酒の匂いに微かに混じる臨也自身の匂いとか。
思い出したら、さすがに居た堪れなかった。
同居人の、男で、しかも臨也だ。何してんだ俺は。なんで何の違和感も感じなかったんだよ!?
あわあわと今更ながらに慌てる静雄は、臨也がこのことを覚えていませんようにと本気で思うのだった。












※もちろん覚えていない臨也さん。
うっかりちゅーしちゃった二人の話。でもシズイザじゃないし、自覚もしないんですこの二人は…。