holiday melancholia
※R-18。『猛獣の飼い方10の基本』設定。来神時代。途中で視点が切り替わるので読みづらかったらすみません。横たえられ、服を剥ぎ取られて、上に覆い被さられて、観察するように眺め回されて。
臨也は心底不愉快そうに眉を寄せた。
「ねぇ、楽しい?」
問いかけは無視され、肌の上を手が滑るように撫でていく。
ぴくりと微かに反応したのは伝わってしまったのだろう。
くっと低く喉の奥で笑われて、不愉快さが増す。
肌の感触を楽しむように全身をくまなく触られて出そうになる声を耐えるが、おそらくその姿さえ相手の愉しみにしかなりえない。
そのことに臍を噛み、臨也はとろりと濁り始めた意識を保とうとしきりに瞬きを繰り返した。
「臨也」
囁くような声音になんだと睨めば、意地の悪い笑み。
…なんか余裕そうでムカつく。
生憎、臨也は女性経験はあっても男とはほとんど――というかこの男としか――したことがない。
抱かれるという受身の性行為にいまだ馴染めずにいるのだ。
だからこそ、最近、休日前夜の臨也は憂鬱だった。
静雄のことは好きだ。だからこうされて口では文句を言いながらも大人しく身体を開いている。
だが、慣れない行為に身体は悲鳴を上げていたし、自分が抱かれた回数=経験の静雄はお世辞にもうまいとは言えない。
しかも臨也は自身の性欲が相当薄いことも自覚している。
だから、
「ねぇシズちゃん、今日はやめない?」
そう訊いてしまうのも仕方のないことだった。
「やめねぇ…っていうか、やめらんねぇ」
返ってきたのは分かりきっていた返答で、臨也は「そっか」と呟くだけにとどめる。
力では敵わないことは十二分に理解していた。
静雄の手が下肢に伸びるのをどこか冷めた目で見つめながら、溜息をつく。
力加減がうまく出来ないせいでぎこちない手の動きが、それでもなんとか臨也の熱を引き出そうとしていて。
仕方ないなぁ、と臨也は目を閉じ意識を切り替えた。
愛撫される感覚に集中し、快楽を拾おうと努める。
眉を寄せ、与えられる刺激だけをひたすら追っていけば、少しずつだが確実に兆しが見え始める。
「…ッ…ん」
「少しは気持ちいいか?」
「は、……んと、に…ッ…イヤに、なるね…」
耳元で囁かれた低音に、ぞくりと背筋が粟立った。
声に弱いということはないはずなんだけど、と臨也はようやく捕まえた快楽を逃がさないようにしながらも思う。
どちらかというと不感症気味の身体だ。静雄相手でなければこうはいかない。
「ホント、俺…シズちゃんに…っ…あ、弱過ぎ、だよねぇ…」
静雄の視線に晒されたそこは緩くだが勃ち上がっていた。
添えられた手が鈴口をくすぐって、とろりと透明な液体が先端から零れるのが見える。
「ん…なんて、いうか…卑猥?」
「…手前な」
呆れた声が溜息交じりに降ってきて、見上げれば静雄の渋面があった。
分かりやすく不満を見せる幼馴染にくすりと笑って、手を伸ばして。
臨也は小さくな声で先を促す。
「続き、してよ」
「…いいのかよ?」
「ッ…したいんでしょ?…やめられないって言ったくせに、遠慮、とか…シズちゃんらしくないよ」
「…だな。それに」
ちゅ、と唇にキスして静雄は下肢への愛撫を再開する。
小さく喘いだ臨也に愛しげに眼を細め、笑った。
「手前もやっとその気になったみてぇだしな」
そう言って、首から鎖骨にかけて唇を這わせてくる。
時折軽いとはいえない強さで噛み付かれて、その度に引き攣った声が漏れてしまう。
「何処がいいかちゃんと言えよ」
「ん…っ…そ、れ…なんの、罰ゲームさ」
「うるせぇ」
静雄が自分も気持ちよくしてくれようとしていることは知っている。
だが、臨也は快感だけに溺れられるほど慣れていないのだ。
首に回されていた手を取って、静雄が臨也の指の間に舌を這わせる。
「ッ…やっ…」
快楽に潤み始めた瞳はまだ冷静さを残しているが、徐々に馴染んできた感覚に戸惑うかのように揺れている。
「あ…っ…しず、ちゃ」
ポロリと零れた涙の跡を舌で辿られて。
「…っ……やっ…」
押さえこんでも漏れるその声からは、余裕の響きはなくなり始めていた。
前より感じやすくなってるな、と耳元で告げられて、そうだろうかと首を捻る。
我を忘れるような快楽というものを臨也は知らない。
常に頭の中はどこか冷静で、感じている感覚自体が遠い気がしてしまう。
「ふ…ぅ……ッ」
静雄の指がそっと後孔に触れて、馴染ませるように指の腹で撫でられた。
とろりとした感触がして、ローションが使われたことを知る。
「んう…ぁ」
人肌に温められた滑りとともに指先が侵入して、内臓を直接触られる気持ち悪さに震えた。
は、と息を吐いて出来る限り力を抜いて、静雄が指を動かしやすいようにして。
内部を探られてそこから漏れるくちゅくちゅという水音のせいで俄かに湧き上がる羞恥心に堪える。
「ッ…そ、こ」
「ここか?」
「ん…た、ぶん…ぁ…っ…く」
二本に増やされた指で感じる場所を重点的に攻められて、臨也の脳に、じわり、と蕩けるような感覚が滲み出る。
鋭敏とは言いがたい身体がそれでも拾い上げる感覚が快感であることは明白で。
臨也は小さく甘い息を吐き出してそれを追うことに集中した。
「っ…う……」
「大丈夫か?」
深く繋がったまま、静雄はは臨也の背をあやすようにさする。
なるべく負担をかけないように出来る限り慎重に挿入したつもりだが、いまだ行為に慣れない身体にはきつかったらしい。
「ん…へいき…」
上がる息を抑え切れず、臨也は静雄の肩に頭を預けて呼吸を整えている。
すぐにでも動きたい衝動を堪えて、抱き寄せて優しくさする背は小刻みに震えていた。
もう片方の手で髪を梳き、耳元にひとつ口づけを落とす。
ずっと求めていたものが腕の中にある充足は、何度経験しても胸が震えるような感動があった。
心を満たす喜びが若い性欲に辛うじて歯止めをかけ、なんとか暴走せずにいられる。
「臨也」
「ん…、だいじょ、ぶだと…思う、よ」
「無理すんな。もう少しなら我慢できる…と、思う」
自信はないが。
内心でそう付け足したのが分かったのか、臨也が苦しげな吐息の中でくつくつと小さく笑う。
「いいよ、うごいて」
「…ああ」
ぐっと腰を揺らすと、ぎゅっと眼を瞑ってしがみついてきて。
その様子に、静雄は満足げに笑んだ。
「…しず、ちゃ…ッ…んっ」
「声、殺すなよ」
「やだ、よ…恥ずかしい、だろ」
「俺は聞きたい」
「…ッ…みみ、もとはッ…反則ッ」
ビクビクと慄く身体に、にやりとして柔らかい耳朶を食む。
途端、臨也の身体が大きく揺れ、内壁がぎゅうっと引き絞られる。
「耳、感じんのかよ」
「う、る…さいっ」
真っ赤になった顔で睨まれても可愛いだけだ。
つ、と指先で唇を撫でてキスしようと顔を近づけ――
「ッ!……手前な…」
反撃とばかりに指に食いついた臨也に溜息をつく。
「シズちゃんの、ばか…遊ぶな」
「…別に遊んでねぇよ」
機嫌を損ねたらしい幼馴染が、荒い息もそのままに憤然とした表情で睨んでいる。
余裕がないなりに気を遣ってやっているというのにこの仕打ちはどういうことか。
そう思いつつ、静雄は律動を再開した。
「っ…く…ん」
漏れ聞こえる声と身体の反応から、臨也のいいところを探していく。
臨也が快楽に溺れられない性質なのは理解している。
だからこそ少しでも、と思っているのにそれを余裕と取られるのは静雄としても些か納得がいかない。
「…ぜってぇ感じやすい身体にしてやるからな」
自分自身に誓うように妙な決意を固めて宣言すると、臨也の目が一瞬だけ見開かれた。
戸惑うように瞬き、次の瞬間、ぱっと視線が逸らされる。
「な、にそれ…なんの宣言…っていうか、…ッ…ありえない…」
掬い上げるように顔を上げさせれば、またしても真っ赤になって睨まれた。
「うるせぇ…するったらするんだよ」
「いみ、わかんない…し…、っ…そんなん…無理ッ」
「無理じゃねぇよ。時間だけはたっぷりあるからなぁ?」
「は…ばっか、じゃ…ぁ…ない、のッ」
もう黙れ、と可愛くないことばかり言う口に噛み付くようなキスをして、ぐっと奥まで欲を押し込む。
「ッ…あ……やぁっ…」
「くっ…きつ…」
「や、…そ、れ…ッ……あ、あ」
「ここだな」
ごりごりと押し潰すように感じる場所を抉れば、悲鳴じみた嬌声。
最初はこれもほとんど感じなかったのだから、やはり少しずつ感度が上がっていると確信する。
「っ…いざや」
「…はっ……ぁ…も…だめっ…」
「んっ…わかっ…た……」
早くも音を上げ「イかせて」と懇願する相手に、静雄は頷いた。
本当はもっと吸い付くような内側の感触を味わっていたいというのが本音だが、静雄自身まだ力加減が掴めていないのが現状で。
だから臨也に合わせて終わらせようと決めていた。
「…ちっとキツイかもしんねぇけど、我慢しろよ」
こくこくと頷いくのを確認して、自身を追い上げるために激しく動き始める。
がつがつと遠慮なく腰を穿ちながら、とろとろと白濁交じりの体液を零す臨也のそれを手のひらで扱いて、爪の先で先端を抉って射精を促してやって。
断続的に痙攣する内壁を擦り上げて最奥まで突き込んだ。
「…ふ、ぅ…ッ…や、あぁっ」
「ッ」
射精によるきつい締め付けを味わいながら、息を詰め壊さない程度に強く抱きこんで熱を開放する。
最後の一滴まで臨也の中に出し尽くし、最奥に注がれる熱に震える細身に静雄は満足げに吐息を零した。
「体痛い。だるい。動けない」
ベッドの上で毛布に包まったまま文句を言う臨也に。
静雄はうろうろと視線を泳がせる。
「聞いてるのシズちゃん。俺さすがに週末毎にこれだといい加減嫌なんだけど?」
「あー…だけど、な」
「せめて挿れるのは二週間に一回とかにしてくれると嬉しいんだけど?」
「…………」
それは何の拷問だ。
一緒にいる時間が長いというのに、おあずけにされるなど冗談ではない。
そう思ったのが顔に出ていたのか、臨也は大げさに溜息をついて冷たい視線を向けてきた。
「シズちゃんと俺の体力差、分かってる?」
「…………」
分かっていないわけではない。
ただヤりたい盛りの高校生にそれは酷なのではないか、と思っただけだ。
そう反論してもいいが、そんなことをしようものなら倍以上の文句が返ってくるのは必然で。
結局、静雄は眉間に皺を寄せただけでひたすら沈黙を貫くことにした。
それをしばらく睨んでいた臨也だったが、どうやら譲る気がないことは伝わったらしい。
はあ、とそれは盛大な溜息をついて視線を中空に移し。
「…まあ、俺だってシズちゃんに触られるのは好きだけど…」
ポツリと小さく呟く。
それを聞いた静雄が、ならもっと好きにしてやればいいんだなと見当違いの方向に思考を走らせたのだが。
もそりと毛布を引き上げて二度寝の体勢に入った臨也がそれに気付くことはなかった。
臨也の憂鬱な日々はまだ当分続きそうだった。
※まだまだ全然お互いの妥協点が見出せていない頃の話。