「手間がかかるのはお互い様」
※同居パラレル。当サイトでは比較的少ない臨也の(無意識)嫉妬話。でもシズイザじゃなく静+臨。















見覚えのある金髪が視界に映り、あれ?と臨也は首を傾げた。
ここは新宿だ。
だが、臨也が本拠地にしているここは、今は金髪のバーテンダー(の服を着た借金取り)の住処でもある。
何処でどうなったわけか、臨也と静雄は現在同居中で。
同居人であり家主である臨也はほぼ毎日静雄と顔を合わせていた。
以前からは考えられないほど穏やかな関係に臨也も最初は戸惑ったが、すぐに見切りをつけた。
池袋で会えば当たり前に追われるので、どうやらこれは静雄なりの譲歩なのだろうと受け取ったからだ。
そして、何だかんだ言って今はそこそこうまくやっている。

――でも、あれ誰だろ?

臨也はもう一度首を傾げた。
何度も言うがここは新宿であり、もともと池袋の住人である静雄の知り合いは(たぶん)いないはずだ。
にもかかわらず、静雄はコンビニの前で若い女性と何か話していた。
ここにいるということは仕事帰りなのだと理解できるが、静雄が普通に一般人――知り合いは除外する――と話している光景はあまり見たことがない。
臨也は目を瞬かせ、思わず話し込む二人を凝視してしまった。
相手の女性は静雄の好みと必ずしも合致しているとはいえなかったが平均より上の容姿で、確実に年は上だろう。スタイルもいいし柔らかな物腰は品がよさそうだった。なんとはなしに観察を続け、臨也はどうやらこの二人はそれなりに親しいのかもしれないと思い至った。微かに聞こえる言葉や態度の端々からそれが窺える。
つらつらとそんなことを考えつつしばらく眺めていたが、見慣れた金がこちらに振り向くことはなく。
…まあ、いいか。
くるりと背を向けて自宅へと足を向ける。
何歩か歩くがよく分からないもやもやが胸につかえていて、臨也は無意識に眉間に皺を寄せた。
なんだろうな。気持ち悪い。
むっつりと不機嫌な顔を隠さず、臨也は自身の不快の原因を探る。
よく分からない。だが、不愉快だった。

「ああ、シズちゃんが普通っぽいから、とか?」

欺瞞だとしきりに訴える心に気付くことなく、臨也は自分が声にした答えに納得する。
化け物の癖に普通の人間みたいな態度とか、ムカつく。
あくまで不快の原因をそれだと断定する臨也は、眉間の皺を深くして振り返った。
そのままずんずんと静雄と女性に向かって歩き、そして。

「あれ、シズちゃん?」

何気なさを装って声をかけた。

「臨也?」

振り返った静雄の目が自分を映すのを確かめ、笑う。
きょとんと見つめてくる静雄は臨也がなんでここにいるのか分からないという顔をして僅かに首を傾げた。

「…お前、今日は家にいるんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけど出かけなきゃいけない用事ができてさ」

ちょっと出てたと答えると、何が不満だったのか静雄の眉が少し上がる。
じろじろと臨也の全身を眺め回し、そして、苛立ち交じりの溜息をついた。
話していた女性に手早く挨拶と断りを入れて、彼は臨也の腕を掴み歩き出す。

「ちょ、シズちゃん?いいの?話してたんじゃ…」
「構わねぇだろ。ただの世間話だったしな」
「…シズちゃんが世間話?」

なにそれ。と間抜けな声を出すと、ぎろりと睨まれた。
なんで俺が睨まれなきゃいけないのさ。
臨也は訳がわからないとばかりに睨み返す。
そんなことをしている間にマンションに辿りつき、二人は無言でエントランスを潜ってエレベーターに乗り込んだ。
動き出すエレベーターの中で、沈黙に耐え切れなくなった臨也がずっと気になっていた疑問を口にする。

「さっきの、誰?」
「………」

盛大に溜息を突かれた。
呆れきった眼差しが臨也に注がれ、さすがにたじろぐ。

「…なに?」
「手前は自分とこのマンションに住んでるヤツの顔も把握してねえのか」

情報屋の癖に。と馬鹿にした声。
だが、臨也はそれには反応せず、言われた言葉を脳内で繰り返していた。

「…同じマンションの、住人?」
「そうだ。俺だって手前に迷惑かけてる自覚はあんだよ。だから近所付き合いくらいは円満にする努力を――」

そんな言葉を口にする静雄を見ながら、臨也が思うのはただひとつ。それだけ?ということだ。
同時に胸のつかえが消えていく感じがして、首を傾げる。
だが、なんだったのだろうと深く考える前に、手首を思い切り握られて痛みに叫んだ。

「い、痛い痛い!!なにすんのシズちゃん!?」
「やっぱりケガしてんじゃねぇか…」

言われてようやく、あ、と思い出す。

「…ちょっと捻っただけだよ。大したことない」
「どうせ手前のことだ。どこかの馬鹿の恨みを買って追い回されたかなんかしたんだろ」
「………」

ほぼ図星だったので臨也は押し黙る。
妙に勘のいい天敵で同居人のこの男は、最近ますます勘が冴えてきている気がした。
うう、と言い訳できず唸る臨也に、静雄は小さく溜息をついて口の中で「まさか門田の気持ちが分かる日が来るなんてな…」と呟く。
何を言ったのか分からなかった臨也が見上げてくるのに苦笑し、もう一度、今度はわざとらしく大げさに溜息をついた。


「ホント、手前は目を離しとけねぇやつだな」












※これで付き合ってないですとか言われても…な二人。たぶん無意識シズ⇔イザなのだとは思う。