濁世の咎人
※R-18。『カリ・ユガ』と同設定。途中で書くのストップしてたら何を書きたかったのか分からなくなってぐだぐだに…。

































「…シズちゃん、俺、何かした?」

部屋を訪れたものの一向に口を開かない静雄に焦れて、臨也は何度目かの呼びかけをする。
返事はない。

「…シズちゃん」

静雄が顔を自分に向けていないと分かっているから、眉を下げ情けない顔をして臨也は困ったように呟いた。
背を向けられて、なのに静雄の意識が自分に集中していることが分かるから困惑するしかない。
相手の行動の訳が分からないのはいつものことで、臨也は溜息をつく。
様子がおかしいとは来た時から思っていたが、まさか何も言わずにだんまりを決め込まれるとは思っていなかったのだ。

「シズちゃん…本当にどうしたのさ」

元々喋るほうではない。だが、こんな態度を取られたことは今までなく、どうすればいいのか分からなかった。
落ち着かない。あまりに返事がなくて、苛立ちが沸いてくる。

「意味わかんない。ムカつく」

盛大に溜息をつかれた。

「…手前、どんだけ鈍いんだ」
「…今馬鹿にしたよね。絶対」

ムッとして言えば、振り返って静雄が臨也を睨む。
そして、のそりと立ち上がり臨也の前に来た。

「うるせぇ、黙れ」
「シズ、ちゃん…?」

ピリピリと刺すような気配が伝わってくる。
静雄が溜息をついて、臨也を見る。
じっと見つめられて、臨也は戸惑いに視線を揺らした。

「手前は俺がなんで怒ってるのかわからねぇんだろうな」
「………」
「臨也、手前昨日何処にいた?」
「え、なに…?」
「昨日、手前が何処にいたかって訊いてんだよ」
「…っ…ひょっとして、」

ひくりと息を詰まらせた臨也に、静雄は頷く。
その目にはドロドロとした怒りが見て取れる。
そのまま近づいた唇が触れるほどの距離になっても、その視線に射すくめられたまま臨也は動くこともできなかった。

「タダで済むとは思ってねぇよなあ?臨也くんよぉ?」
「あ、れは…」

見られていたのか、と思った。


昨日、臨也はある情報提供者と直接会って取り引きをした。
滞りなく進んだ交渉が終わり、その別れ際だった。
ほんの一瞬、触れ合うだけのキス。
掠めるようにされたそれに臨也は目を瞬かせ、不思議そうな顔で相手を見た。
駄賃として貰ってもいいだろうと言われて、よく分からないが減るものでもないと頷いたのだ。


臨也の様子に、静雄は目を細めた。

「わざわざ池袋で浮気とはいい度胸だよなぁ?」
「や、あれは…別にそういう、のじゃ…」
「手前は隙がありすぎるんだよ」

後頭部に手が回され、唇がグッと押し付けられた。
反射で閉じた唇を端から端まで舌で辿られる。

「しずちゃ…んっ」
「黙れ」

開いた口から侵入する舌。
びくっと一瞬身を震わせ、それから臨也はゆるゆると力を抜いて見開いていた目を閉じて静雄を受け入れた。
今逆らえば相当酷い目に遭うことは確実だった。

「ん、う」

ぴちゃりと音を立てて、唇が開放される。
ぞくぞくと這い上がってくる悪寒に似た感覚に、慣らされた身体が勝手に反応し始めていた。

「…お仕置きだな、ノミ蟲」

躾け直してやると耳元で囁かれて、そのギラつく獰猛な瞳に見据えられて。
臨也にはただ頷く以外できることはなかった。










ベッドに投げ落とされて、臨也は痛みに呻いた。
そろりと視線を向ければ、ベッドに身を乗り上げてきた静雄がくつりと口角を吊り上げる。

「服を脱げ。脱がねぇと破る」
「わ、かった…」

こくりと頷いて、臨也はのろのろと服を脱ぎ床に落とす。
ここでのんきに畳んでいたら仕置きが酷くなることはとっくに学習していた。

「じゃ、まずは自分でしろ」
「え…」

思わず目を見開く。

「臨也、これ以上俺を怒らせる前にやらねえと折るぞ」

ぐっと投げ出されたままの足に手をかけられ、慌てて頷く。
静雄はやると言えば本当にやる。脅しではない。

「やれ」

声の響きは正しく支配者のそれで。
さわりと裸の背を撫でて促されて、諦めて下肢に手を伸ばした。

「よく見えるように足は開いとけよ」

命令されるまま足を開き、静雄の視線に全て曝け出す。
そして、臨也はまだ兆しを見せていない性器を掴み、唾液を絡ませた指で扱きはじめた。
触れればそこは生理的な反応として次第に熱を持ち始める。

「ッ」

ぐち、と滲み始めた粘液の音を立てて性器を弄る。
僅かに顔を上げると静雄と目があって。
見下ろす冷たい視線に、ぞくりと臨也の背筋が粟立った。
ああ、くそ。感じたくなんてないのに…。
そう思うのに身体は正直で、すぐにとろとろと透明な先走りが溢れ始める。
くちゅくちゅと音を立てながら幹を扱き上げ、いつもされているように鈴口を爪で掻く。

「…ふ……ぅ…ッ」

情けなさと気持ちよさにに涙が滲む。
静雄に縋る視線を向けるが、意地の悪い笑みが返ってきた。
臨也を甚振ることに快楽を見出す目だ。だが、まだ怒りが消えていない。
望みを断ち切られ、はあと熱い息を吐き出して、指を動かす。

「ん…っく…あ、う」
「そっちだけじゃなくてこっちも弄れよ」

そう言って手を取られ、弄っている場所より更に奥へと導かれた。
濡れた指が後孔に触れる。

「や……だ、ん…ぁ…ッ」
「ほら、やれよ」
「あっ、う…ヒ、ぁあッ」

ぐいっと無理やり突っ込まれて、走った痛みに声が上がった。
何度となく抱かれて慣れた身体でもいきなりの挿入は辛い。
臨也は痛みに身体を強張らせ、苦しげに息を吐いた。
だが休むわけにはいなかない。離された手をそろそろと動かし後孔を解しながら刺激を与えていく。

「ん……ぁん…っはぁ…んんッ」

ほどなく強張っていた内壁が徐々に緩み、柔らかく指に絡みつき始めた。
静雄以外を知らない臨也はいつも彼がするように指を動かしていく。

「はは、エロいなあ、臨也くんよぉ?」
「…る、さ…ッ」

ぞくぞくとした快楽が身体を灼いて、正直苦しい。
浅く息を吐きながら静雄を見ると、欲望に焦げた瞳が臨也を射抜いた。
くっと笑われて、愉しそうに全身を隈なく眺め回される。
熱に火照った身体も、生理的な涙に濡れる顔も、くぐもった水音を響かせる秘部も。すべて。
視線の昏い熱に、それだけで身体が更に熱くなった。

「あ、あ…しず、ちゃ…」

とろりと潤んだ目で臨也は静雄の名を呼びに懇願する。
このままではイってしまいそうだ。

「ぅ、…は…ッ…シズちゃ、イかせて、イき、たい…」

大きな快楽の波がすぐそこまで迫っていて、必死に耐えながら赦しを乞う。

「臨也、イきたい時はどう言えばいいのか分かってるよな?」

目を覗き込まれて言われて、素直に頷いた。

「し、ずちゃん…ッ…も、イかせてッ…ぁ…くださいッ」

恥も外聞もプライドもない。今ここにいる折原臨也は平和島静雄の所有物であり、一切の権利を持たない存在なのだ。
主導権をすべて相手に委ねて、臨也はただ乞う。

「いいぜ、イけよ。尻の孔弄って派手に精液撒き散らしてイっちまえ、淫乱野郎」
「ッ」

耳元に息を吹きかけ、嘲る声で許可を与えられ、臨也の身体は激しく痙攣した。

「ぁッ…あ、――ッ!!」

噛み殺した喘ぎが漏れる。

「いっぱい出たな」

そう言ってとろみのある液体が頬に擦り付けられるが、臨也は緩く目を開いたまま荒い息を吐き出すだけで精一杯だった。
ぐったりと脱力した身体を髪を掴まれ引き起こされる。

「…ッ」

見上げた先の静雄の目に、笑った。
まるで飢えた獣の目だな。
そう臨也はぼんやりと思った。

「臨也」
「ん…挿れて、も…いいよ…」
「挿れて下さいだろうが」
「い、れて…ください」

はは、と臨也は力なく笑う。
そんな臨也をベッドの上に押し倒し圧し掛かって。
静雄はそのまま一気に、指で慣らされた後孔に己の欲を突き入れた。

「ヒッ…ぁ……ぁあ、ん!…ッ」

労わりのない乱暴な挿入に、一瞬息が止まる。
深く根元まで押し込められて、望んでもいない掠れた喘ぎが漏れた。

「ッ…キツイ、緩めろ」

無茶ばかり言うと思うが、臨也は自己防衛のために息を吐いてできる限り力を抜く。
すぐに静雄が動き出し内壁を抉るような抜き差しが繰り返されて、痛みに呻いた。
気遣うことのない静雄との性交は肉体的なダメージが大きい。
目を閉じて、じわりじわりと上ってくるような淡い快楽を追う。
慣れた身体はすぐに痛みに馴染み、それを快楽に変換してくれるのがせめてもの救いだった。

「あ…ぅ、んんっ……ぁ」

そろそろと手を伸ばして背に縋れば、涙の浮いた目尻に口付けが降りてくる。
行為そのものの乱暴さは変わらないが、臨也は最中の静雄のキスは嫌いではなかった。
優しく慈しむかのようなそれも、喰らい尽くすような流血を伴うそれも。
決して嫌いではない。

「…し…ず、ちゃ…ッ……」

ガツガツと激しく骨がぶつかるほどの注挿。
ブツリと噛み切られる喉もとの薄い皮膚。
相手の興奮に煽られて、臨也の性器も触れられてもいないのに昂ぶっていた。
わざと感じる場所を掠め決定打を与えない静雄に焦れて、足を絡めて自分からも腰を振る。

「臨也、前は触るなよ」

耳朶に噛み付きながら、後ろだけでイけと命じられて、その囁きにぶるりと身体が震えた。
見開いた臨也の目から涙が零れ落ちるのを愉しげに眺め、静雄は口元に酷薄な笑みを浮かべる。

「ッッ!」

がんっと衝撃が臨也を襲った。
快楽と痛みの比率で言うならば明らかに後者が勝る衝撃に息が詰まる。
だがそれさえ一瞬のことで。
前立腺を集中的に攻める動きに変わったことで、痛みはあっさり圧倒的な快感に流された。

「ひ……んっ…や、ぁ…っ」

ぐりぐりと内壁を擦られて、その度に漏れる粘着質な水音。
動きに合わせて腰を揺らめかせ、臨也は静雄から与えられる暴力じみた強烈な感覚に酔う。

「あ、あ…ッ…も、…っや、だ……、イかせ、て」

割り開かれた中を我が物顔で蹂躙する熱い肉の感触。
内側から壊されていくようなそれに、臨也は悲鳴にすら聞こえる声で開放を乞う。
息も絶え絶えな臨也の様子に、静雄はしばし思案し「仕方ねえな」という呟きを零す。

「イけよ」

許しを与える言葉と共にぐっと深く抉られて。
臨也は唇を噛み締めて声を殺し、くぐもった悲鳴を零しながら白濁を放った。
ビクビクと射精の余韻で痙攣する内壁が絡みつくのを感じながら、息を詰め腰を強く掴んで静雄も達する。
吐き出される熱に、臨也は低く呻いて耐えた。
嫌だ。気持ち悪い。
大量の精液を注がれる感触はいつになっても慣れない。終わった後、体内から抜き出されてドロリと零れる感触は言わずもがなだ。
乱暴な性交と二度の射精で疲れ切った身体は睡眠を欲していて。
薄れる意識に任せ、臨也はうっすらと開いていた目を閉じようとした。が。

「あっ…んくっ…ぁあッ…シズ、ちゃん、やだっ」

放ったにもかかわらず硬度を保ったまま埋め込まれたそれが再び動き出し、臨也は慌てて目を開け抗議する。
注挿のたびにぐぷりと卑猥な音を立てて溢れた白濁が肌を伝って零れ落ちていく。
それを気持ち悪いと思うのに、意思とは関係なしに静雄を締め付け収縮する後孔に、臨也は唇を噛む。
そんな臨也の表情の変化を見下ろしていた男が、その頬に手を伸ばして殊更優しく撫で上げる。

「これで終わるわけねぇだろ。お仕置きだって言ってんだろうが」

中を掻き回しながら言われて、ひくりと喉から引きつった音が出た。
怯えの表情を見せ始めた臨也に低く笑って、静雄は暴君の表情でとどめの言葉を吐き出した。


「もっと泣き喚けよ、臨也」










とろとろとした眠気に臨也はまどろんでいた。
とてもではないが身体を起こせるような状態ではない。
あの後も散々貪られ酷使され続けた身体は鉛のように重く、指先一本思い通りにならなかった。
身体は静雄自身の手で清められているが、そんなもので今の鬱々とした気分が晴れるわけもない。
臨也は小さく溜息をつき、ぼんやりと自身を腕に囲い横たわる相手を見た。

「…君が俺のことすっごく愛してるのはよく分かったよ…」
「そいつは何よりだな。次浮気しやがったら」
「しない。もう触らせない」
「そうやっていつも聞き分けよくしてろ」
「………」

とりあえず、臨也は静雄に疑われる行為は避けようと心に誓う。
静雄が臨也に向ける愛は、臨也が人間に向ける愛同様にいびつに歪んでいる。
臨也のすべてを欲しがるこの怪物は、いつかその欲望のまま臨也を壊そうとするだろう。
ほとんど確信のように、臨也はそう思っていた。
次はたぶんこの程度では済まされない。そうやって段々エスカレートする行為が行き着くその先が、怖かった。
逃げる気はないが、全てが手遅れになる前にこの男を殺さなければと、臨也は鈍い思考の中でその難題さに溜息をつく。

「ねえ」
「あ?」
「早く死んでよシズちゃん」
「はっ、その前に手前を壊すって言ってるだろうが」

じゃあ早く壊せばいいのにね。そう思ったが、臨也は口には出さなかった。
その思考が、既に崩壊の兆しを見せ始めているが故のものだとすら気付かず。
ただ、最後の一線でいまだ人間のままの男を鼻で笑う。
堕ちるとこまで堕ちればいいのだ。こんな男。
そう思いながらまたまどろみ始めた臨也は知らない。

「さっさと壊れちまえ」

静雄が小さく聞こえぬよう囁いたことも。
その視線が、そうと知らぬうちにゆっくり罠に嵌っていく臨也を愉しげに愛おしげに眺めていたことも。
静雄が臨也に殺されるか、臨也が静雄に壊されるまで。
永遠に知ることはないのだった。












※ゆっくり確実に静雄さんの臨也陥落計画は進行中です。病んでますすみません。