「いや、そこでそれはいろいろ反則」
※同居パラレル。










くあ、と静雄は大きく欠伸をした。
休日の静雄は基本的に暇だ。
余計な騒ぎを避けるために日長一日家に居ることもざらである。

「ちょっとシズちゃん、邪魔だから」

目を吊り上げた同居人――臨也が文句を言うが、聞く気はないので聞き流した。
先ほどからパタパタと動き回り部屋の片づけをしていたのは知っていたが、今は積み重ねられた本を片付けているらしい。
手伝わない静雄を気にした様子はないが、どうやら邪魔なようだった。
退けと指先で示されるが、面倒なので無視する。

「そう。君がそういうつもりなら、俺にだって考えがあるよ」

何をする気だと目をやれば、にっこり笑われた。あの笑みはヤバイ。それは今までの経験で既に知っている。
思わず身構える静雄に、臨也は手に持ったものを差し出した。

「…ッ!?」

いつから持ってたんだとか。なんで持ってるんだとか。
そんな言葉が頭の中を巡るが、声にはならなかった。
臨也の手の中には、18歳未満お断り!な雑誌が鎮座していて。
静雄はそれにものすごく見覚えのあった。

「見つかって欲しくないものはベタな場所に隠さないことだね。あと、君の部屋はもう少し掃除したほうがいいよ」
「なんで人の部屋まで掃除してんだ!?」
「君の目に余る愚行にいい加減家主として限界を感じたからだよ」

呆れた目で見下ろしてくる同居人兼家主様に、静雄は口をパクパクと動かすだけでそれ以上言葉が出てこない。
そういえばここのところ掃除をした覚えがない。
いつでもきれいな自室になんの疑問も持たなかったことを、静雄は今更ながらに悔やんだ。

「ああ、そういえばさ」
「………」
「煙草吸うのは構わないんだけど、毎日洗濯してるのにシーツが煙草臭いってのはどうかなと思うよ」
「…………」
「すっかり俺の中ではシズちゃんの匂いって煙草の匂いとイコールなんだけど…って、どうしたのさ?」

――ッ!!!

もう心の中でさえ言葉が出てこなかった。
静雄は今、自分が赤面している自覚がある。
きょとんと無防備な顔で見つめてくる臨也になんの意図もないことは分かっている。
だというのに、この反応は我ながら寒い。いや、もちろん紅潮した顔は熱かったが。

「シズちゃん?」

顔を反らしたが、今更過ぎだ。
照れの理由に相手が気付いていないことがせめてもの救いだった。
そう思ったのもつかの間。
静雄をじっと見ていた臨也が、ぽつりと呟く。

「…今の反応ってさ、どこに照れる要素があったか全然わかんないんだけど…。だって、俺シズちゃんの匂いが煙草と同じだって話をしただけで――」

あれ?と臨也は首を傾げた。

「ひょっとして、これか?」

いまいちよく分からないという顔をする臨也はたぶん言葉に一切の含みを持っていない。
だが、静雄はもう顔を上げられないほど真っ赤になっていた。
臨也はしばしその髪の合間から覗く赤く染まった首筋を眺め、あ、と声を上げた。
ぼっと音のしそうな勢いで臨也の顔が染まる。

「あ、いや…別にさ、これはそういう意味で言ったんじゃなくて…」
「わ、分かってる。だから気にすんな」
「う、うん」

後はふたりで真っ赤になって、しばらくお互いの顔が見れなかった。
…臨也のあの顔って反則だろ。…いや違うそうじゃない。あれは臨也じゃない俺は幻を見たんだそう思おう!
静雄はそう必死に自身にそう言い聞かせて、踏み外しかけた道に辛うじて留まることに成功したそうである。












※赤面するシズちゃんに赤面する臨也が書きたかっただけ。
同居パラレルは基本的に喧嘩しないふたりで静&臨です。シズイザじゃないのです。