カリ・ユガ  後編
※R-18。エロしかありません。そして無駄に長いです。暴力・流血表現注意。いろいろ病んでます、よ。

































「なあ、どうせ手前のことだ。三週間、自分でもろくにしてないんだろ?」
「…な、に…言って」
「三週間分とは言わねぇ。もっとたっぷり可愛がってやるよ」
「ッ!離せ!!遠慮するに決まって――ヒッ!?」

痛みに身を竦め、臨也は小さく呻いた。
噛み千切られた耳の端から血が滴る。
パタパタと床に赤黒い染みをつくる止まらないそれを静雄が指先で弄り、傷口を爪で抉る。

「いっ…たいッ…やめ」

抗議の声は悉く無視され、涙の溜まった目元を舌が這う。
反射的に閉じようとした瞼が舌に抉じ開けられ、眼球を直接舐められる感覚にさらに涙が溢れた。

「や、やだっ!やめて、シズちゃ」
「ダメだ。止めねぇ」

ビリッという音とともに一瞬でゴミと化していく服はすべて床に放られ、見る間に一糸纏わぬ肌を晒すことになって。
臨也はヒュウと今にも止まりそうな息を吐き出す。
怖い。怖いッ。
逃げ出したいと心の底から願うのに、ガタガタと震える身体は指先一本臨也の言うことを聞いてくれなかった。
今、静雄が臨也を性的な意味ではなく食べると言っても、臨也はやはりそうかと思うだけだろう。
それほど、今の静雄の行動は動物的で容赦のないものだった。
噛み付いて歯を突き立てて。
零れる血液を味わうように舐め取って。
それでも足りないとばかりに舌先で爪で傷口を抉られて。
苦痛に歪み零す涙を啜られて。
もはや獣に貪られているとしか思えなかった。
無傷な場所を探すほうが難しいほど痛々しい咬み痕に彩られた肌を、静雄の指先が丹念に辿る。

「怖ぇか?」

くすくすと笑う静雄の屈託のない表情が怖かった。

「諦めろよ臨也。手前がこれくらいじゃ壊れねぇことは分かってるんだからな」

やめる気はないと宣言する言葉に、臨也はビクリと身体を震わせて恐怖に染まった目で静雄を見上げる。
痛みに竦みそこかしこから血の滲む身体を撫でていく手は決して乱暴ではないが、それが逆に恐怖を煽った。

「…ッ…ふ、ぅ」

ボロボロと零れ落ちる涙。どこか壊れてしまったかのように止まらないそれを暫く観察し。
恐怖に慄く臨也を宥める手つきで撫でた静雄は、怯えて縮こまっている臨也の性器に触れた。
優しく包むように扱かれて、慣れた身体が勝手に拾う快感に臨也は戸惑う。
恐怖は少しも薄れていないのに、身体は快楽を選んだという事実に絶望する。

「やだ…ぅう……ひっ」

子供のようにしゃくり上げて首を振る痛々しい姿に静雄の欲が煽られているとは考えもしなかった。

「臨也」

低い声音が殊更優しく囁くのに涙で曇った視線を向ける。
無意識に許されることを期待していた臨也に、静雄は慈しむような表情のまま言った。

「咥えろ。あと、こっちは自分で擦ってイけよ」

その言葉に、ひく、と臨也は凍りつく。
思わず嫌だと首を振るが、取られた手首に歯が立てられるに到り、怯えた表情のまま頷くことになった。

「ならやれよ」

促されて起き上がり、臨也は静雄の膝の間に顔を寄せる。
今まで口で奉仕したことは一度もなかった。慣れない手つきでベルトを外しジッパーを下げる。
もたもたしているとどんな仕打ちを受けるか知れず、とにかく必死だった。
現れた静雄の性器はすでに半分立ち上がっていて、その大きさに一瞬縋る目で静雄を見た。
だが、にやにやと見下ろす表情を視界に捉え、諦めて視線を戻した。
恐る恐る舌をのばし、赤黒いそれに這わせる。濃い雄の匂いにえづきそうになるが震える指で性器を支え、ちろちろと舐めていく。
稚拙な動きだが臨也に奉仕させているという事実に、静雄は満足げに目を細めた。
涙を零しながら必死に手と舌を動かす臨也の柔らかい黒髪を撫でて、次の行為を促す。

「奥まで咥えろ」

手はこっちだろうと、右手を取って臨也の性器に導けば、大げさにその背が震えた。
なんでと目で訴える臨也に笑ってやれと命じる男の目はどこまでも本気だった。

「ん…くっ」

僅かな間を空けて、臨也は諦めて目を閉じ奉仕に専念することにする。
膨張した性器を喉の奥まで迎え、えづきながら舌を絡ませ零れる唾液と先走りの液の混じり合ったものを啜る。同時に右手で自身の性器を擦っていく。
大きすぎるそれは臨也の喉から中まで入り込み呼吸を詰まらせたが、やめてはいけないという強迫観念に突き動かされ奉仕を続けた。
先端から溢れる液を吸い上げると、卑猥な水音がベッドルームに響く。

「…ッ」

静雄が息を詰めるのを聞きながら、懸命に舌と指を動かした。
幹の下の双球を指で柔らかく揉んで、唇で括れを包み舌で先端の孔を舐め、深く飲み込んで頬と喉の奥で性器を締め付けて。

「ぐっ…ぅッ!」

唐突に頭を固定され腰を動かされて、臨也は苦しさに呻いた。
顔を歪め上目遣いに見上げる先、熱を孕んだ茶色の瞳と目が合って、そのまま視線を外せなくなる。

「ん、ぅうッ」
「出すから全部飲めよ」
「ふ…、くぅっ」

一方的な宣告を受け、臨也が顔を離そうと抵抗する。
さすがに精液など飲みたくない。そう思っての必死の抵抗は静雄の力の前にはないに等しかった。
無理やり出入りする性器が幾度も喉を突き、散々に乱された呼吸はもはや呼吸とも呼べない。
そして、朦朧とし始めた臨也の喉の奥に迸りが打ち付けられる。
衝撃に、ビクリと大きく身体が震えた。

「――ッ」

喉に絡むそれに咽て臨也は首を振ろうとしたが、頭部は固定されたままで。
飲めと無言で命じる相手の目に、諦めたように目を閉じてこくり、こくりと嚥下する。
飲み込むたびに上下する白い喉元を静雄の指が慰撫するように撫でるが、臨也はもう反応しなかった――否、したくなかった。
痛い、苦しい。
体中が訴える苦痛に、抵抗心が削がれていく。
乱暴に抜き取られる性器。急激に肺を満たした酸素に咽て臨也は苦しげに咳き込んだ。
それを構うでもなく、静雄は何かを確かめるように臨也の下肢に手を伸ばす。
そして、

「ああ、ちゃんとイけたな」

下腹を撫でた指を目の前に突き出され、臨也は目を見開いた。
うそ。そう声にならない声で呟く。
目の前の静雄の手は白く濁った粘液で汚れていた。だが、静雄の精液は僅かに零れて顎を伝ったものを除けばすべて臨也が飲み下している。つまり、これは――。

「…うそだ」
「何が嘘だよ。結局最後の方は弄れてなかったくせに、咥えてるだけでもちゃんとイけたじゃねぇか」

自分の身体の反応が信じられなかった。
あんな扱いを受けて、あまつさえ触られることなく達するなど。

「…なんで」
「手前が淫乱だからだろ」
「ちが」
「違わねぇよ」
「違う、俺は――ッ」

ぐいっと髪を掴まれて無理やり屈んでいた体を起こされて、弱くなった涙腺から零れる涙。

「い、たい、って」
「なあ、臨也」

目と目を合わせるように抱き上げられて、恐る恐る視線を合わすと静雄が歪んだ笑みを浮かべた。

「知ってたか?手前の身体はとっくにそうなっちまってたんだよ。そうなるように、きっちり仕込んでやってたんだよ俺が」
「意味、わかんないこと、言わないで…よ」

本当は臨也ももう分かっている。
静雄の言葉通り、この身体は時間をかけて作り変えられてしまっていたのだ。当の本人である臨也に気付かれないように、巧妙に。
感じやすくなったと最中に言われたのはいつだったか。嬲る言葉に反応するようになったのはいつだったか。
覚えてはいないし意識もしていなかったが、その頃既に仕込みは最終段階であったのかもしれない。

「…卑猥な顔しやがって。いつ自覚させてやろうかずっと機会を窺ってたんだが、いいタイミングだったのかもしれねぇな」
頬を撫でる指が首筋に移動し、先程噛み切った傷口を爪で掻く。悲痛な表情を浮かべた臨也は、与えられる痛みに眉を寄せ耐える。
「どんな気分だ?見下してたヤツにいいようにされる気分は?」
「…さい…てい、だよ」

本当に最低だった。
だが何よりも最低なのは、この苦痛の中でまた勃ち上がりとろとろと体液を零している自身だ。そう臨也は自嘲する。
恐怖が快楽にすり替えられていく。
追い込まれた状況にどうしようもなく興奮した身体。被虐に悦びを見出す自身が何よりも最低だった。

「あ…ッ…ぅ、ん」

臀部に這わされた指が遠慮も躊躇もなく後孔に突き入れられ、ぞくりと背筋が震えた。
臨也の精液で濡れそぼった指はさした抵抗もなく根元まで押し込まれる。

「ッ!…んっ…くっ」

慣らすように抜き差しされる指はすぐに二本に増え、広げてこね回す動きに変わる。
わざと一番感じる場所を外すその動きに、臨也は無意識に腰を振って強請っていた。
観察するような静雄の視線を感じながら腰をくねらせる。

「あぁ…あ、あッ」
「そんなにいいのかよ、変態が」
「ん、…ちが、うッ」
「嘘つけよ。さっきから触ってねぇのにドロドロだぜ」
「ッ…あ、やだッ」

ぎゅうと根元を握られて、塞き止められる苦痛に涙が零れた。
ああもう泣きすぎて干からびそうだ。濁った頭でそう笑って、臨也は後孔を弄る静雄の指に腰を擦り付けて乞う。

「し、ずちゃん…も、挿れて」

三本に増えている指はぐちゅぐちゅと音を立てて内側をかき回しているが、それでは物足りなかった。
もっと太くて、内臓を押し潰すように中から圧迫してくるものが欲しかった。
被虐を悦ぶ自分を最低だと思いながら、それでも臨也はそれが与えてくれる強烈な快感に酔ってしまいたかった。

「自分で挿れられるな?」

滑らかな内腿をするりと撫で上げて、静雄が優しい声で囁く。
それにこくりと頷いて、震える足で腰を浮かせて性器を飲み込むために体勢を合わせる。
そのまま、ゆっくりと腰を下ろした。

「…ッ…は、」

酷い圧迫感に呼吸が止まる。
途中で止まったまま動けないでいると、静雄は「仕方ねぇな」と呟いて。

「ひ、やぁあッ!!」

一気に突き入れられる衝撃に、臨也は耐え切れず悲鳴を上げた。
静雄の手で戒められていなければ、今の衝撃でおそらく射精していただろう。
熱い肉を体内に無理やり食まされ、その感覚に臨也はきつく目を瞑る。
ビクビクと震えて締め付ける内壁に、静雄は息を吐いて落ち着くのを待っているらしい。
そのくせ宥めるのではない動きで背を撫でられて臨也は快感の波に翻弄されて慄く。

「や、まだっ」
「わかってるから喚くな、うるせぇ」

綺麗に染まった眦に口付けて、静雄は満足げな表情を浮かべている。
畜生、余裕ぶりやがって。
翻弄されるしかない臨也はその表情に殺意を覚えるが、息を詰めた拍子に中のものを締め付けてしまい呻くことになった。
とにかく今はこの熱をどうにかしてしまいたかった。
たとえその後またあの恐怖に晒されるのだとしても、快楽に蕩けた頭はそれよりもと目先の欲を満たしたがって疼いている。
潤んだ目に懇願の色を浮かべて、臨也は静雄を見つめた。

「ちっ、俺以外の野郎にそんな顔しやがったら殺すからな」
「ひッ…ああっ!…くぅッ…ッ」

低い囁きとともに体内の熱が激しく動き出し、臨也は素直に目を閉じてその苦痛と紙一重の快感を追い始めた。










ベッドの軋み、ぐちゅりと静かな室内に響く水音。
何度目か分からないそれに、臨也は荒い息を吐き出しながらぼんやりとした目で投げ出した自分の腕を見ていた。
下肢だけを高く上げた獣の格好で臨也は静雄に犯されている。
体力の限界はとうに超えていたが、いまだに開放される気配はない。
何処から見つけてきたのか細い紐で括られた性器が痛いほどに勃起していたが、射精は結局一度しか許されなかった。
もう気持ちいいのか苦しいのかも定かではなく、臨也はただ与えられる感覚を受け入れるだけだった。

「ん、あッ」

急に放置され続けていた性器を弄られて、びくりと大げさに身体が震えた。
敏感になりすぎたそこはほんの僅かくすぐるような動きでさえキツかった。

「シズ、ちゃ…あ、あ!」
「イきたいか?」
「ん、ん」

執拗に先端ばかりを弄り回され必死になって頷く。
くすりと笑われて、振り返ろうとした頭を押さえられて。
項に唇が落とされる。

「…今死なれても困るからな、終わりにしてやるよ」

その言葉と同時に動きが激しさを増す。
自身の快楽だけを追うその乱暴な動きに、だが臨也は快楽を感じていた。
頭の中が真っ白に染まって他の一切が欠落していく。

「……ッ」
「あ、あ……ッ、い、ぁああ!!」

注ぎ込まれる熱い飛沫を感じると同時。縛られていた欲が開放されて大きく仰け反る。
塞き止められ続けた放精は長く、痙攣するような締め付けで静雄を愉しませた。

「く……ッ…ふっ」

最後の一滴まで注ぎ込んで、静雄はずるりと性器を引き抜く。
途端にどろりと溢れ出した白濁が足を伝い、臨也は背を震わせその気持ち悪さに耐える。

「は、もう…さいあく」

ずるずると力なく倒れこんで、臨也は荒い息を吐きながら目を閉じた。
訳がわからない。いつから自分はこの男の策略に嵌っていたのだろうか。
初めて抱かれた時からだろうか。それとも、高校時代に戯れでキスした時からだろうか。
まさか出会った時からじゃないだろうな。一抹の不安に臨也はだるい身体に鞭打ち、静雄の方へ顔を向けた。

「ねぇシズちゃん」
「あ?なんだ?」

多少の疲れの色を見せているが静雄はまだ余裕がありそうだった。
それにはムカつくが、恐怖を感じるあの飢えの気配が消えていて臨也はこっそり息を吐く。

「君、いつから俺にこんなことしようと思ってたのさ」

横たわったままじっと答えを待って見つめていると、静雄はくしゃりと頭を撫でてきた。
なんなんだ、一体。
眉間に皺を寄せる臨也に、静雄はくつりと笑う。

「ずっとだって言っただろうが。最初っからだ」
「最初って…」
「手前と初めて目が合った時からだ」
「うわー…」

それってたぶん新羅に紹介されるよりも前だ。
臨也は自分の予想よりもさらに上を行く答えに脱力した。
そんな時から自分をこんな風にするつもりだったとは。

「狂ってるね…」

はは、と臨也は乾いた声で笑う。
その様子を座って眺めていた静雄も、普段の臨也に負けず劣らずのたちの悪い笑みで応じた。

「そうかもなぁ」
でもよ。
「手前もだろうが」

さらりと言われて、虚を突かれた臨也は目を瞬かせる。
そして。

「は、ハハハ、ハハハハハ」

笑い出した。
声が響いて傷だらけの身体が痛むが、それでも笑いが止まらなかった。

「…臨也?」

首を傾げる静雄を見て、思う。
そうかよ。そういうことか。馬鹿みたいに翻弄された自分に呆れるしかない。
同じ穴の狢か。表面的な性質は完全に正反対なのに底の底の根底の歪みは一緒か。だからここまで興味を引かれて、ここまで反発し合うというのか。

――馬鹿馬鹿しい。

臨也は胸中で吐き捨てた。
歪んだ愛情のベクトルが、人間すべてに向くか、たった一人に向くか、ただそれだけ。
愛するものが壊れていく様を愉しめる最低な人種。自分と静雄が同類であったことは意外だったが、その対象が自分であるということがさらに意外だった。
くっと笑って、臨也はのそりと起き上がる。そのまま、静雄の茶色の瞳と目を合わせ宣戦布告すべく口を開いた。

「いいよ、シズちゃん」
「?」
「君のものになってやるって言ってるんだよ」

とうの昔に狂った関係だ。いまさら何が変わるわけじゃない。

「でも、油断しないことだね。俺はいつか必ず君を殺す。それまでこの身体の所有権を預けておくだけだ」
「はっ、上等だ。そうなる前にそんなこと言えねぇようにしてやるよ」

嵌められて確かに身体は堕ちたが、心はまだ自分だけのものだ。
静雄が臨也を壊すのが先か、臨也が静雄を殺すのが先か。
命がけの勝負はそれなりに楽しめそうだ。
そこまで考えて、臨也はひとまず疲れた身体を休めようと再びベッドに転がった。
スプリングの軋む音とともに覆いかぶさり喉元の傷口にキスされて、静雄を押しやり今日は大人しく寝ろと指図する。
不満げな声をあげる男のことも、壊されたドアノブのことも、とりあえず全て外に押しやって。
臨也は急激に意識を覆い始めた眠気に身を任せた。





この世は侭ならないから面白い。
だからこそ、この手のひらの上で躍らせたいと心から思うし、安全圏から眺めるのが愉しかった。
満たされぬ飢えを抱えた、堕落し汚濁と悪徳と暴力に塗れた世界。
そんな世界でひとりぼっちの怪物と踊るのも悪くないか、と臨也は薄く笑って呟いた。












※鬼畜を目指して挫折しました☆な話。8割がたずっとヤっててすみませんな感じです…。