悪夢
※淫夢(というより悪夢)を見てうろたえるシズちゃん。










「…!!」

声にならない声を上げて、静雄は飛び起きた。
心臓がバクバク音を立てている。息苦しさに大きく息を吐き出して、頭を振る。
脳天が鈍く痛むのに顔を顰めて、もそりと身動ぎした。

「…ありえねぇ」

なんて夢みてんだ俺は。そう呟き、頭を抱えて低く呻く。
ありえない。ありえなすぎた。
そう何度も頭の中で繰り返し夢の残滓を振り払おうとするが、無駄だった。
静雄は大きく重い息を吐き出して、項垂れる。
人間が羞恥で死ねるなら、今確実に自分は死んでいるだろう。それくらいに、酷い夢だった。
顔を上げて見た視界には見慣れた煙草の脂で汚れた天井。
まだ朝は遠く、窓から差し込む月明かりがほんのりと部屋を照らしている。

「本気でありえねぇ」

もう一度呟き、だが脳内から夢の映像を追い出すことは諦めて。
静雄は目を閉じ、いまだ興奮の抜け切らない身体を横たえた。

酷い夢だった。
自分が天敵である折原臨也を組み敷いて無理やり犯す夢など、悪夢以外の何物でもない。
臨也を力づくで黙らせて四つん這いの獣の姿勢で後ろから犯した。
最初は必死で抵抗していた身体が徐々に力を失い、最後には力の入らない手で縋りつくようにやめてくれと哀願されて。
泣き顔とその声に煽られて、手酷いやり方で何度も抱いた。
そこまででも充分最悪だが、その後が本当に最悪だった。
どこかで以前見たAVの記憶でも混ざったのか。
あの臨也が気持ちよさそうに喘いで、甘ったるい声で静雄の名を呼んで。
それに答えて自分はなんと囁いた?

「なに考えてんだよ、俺は」

欲求不満なのか?
そう思うが、だとしても折原臨也が相手というのが問題だった。
静雄と臨也はそんな甘い言葉を交わすような関係ではない。むしろ正反対の殺し合いをするような間柄なのだ。
だというのに、静雄は夢の中でありえないほど恥ずかしい台詞を吐いていた。

「…ありえねぇ」

実のことを言えば、臨也の顔だけは静雄の好みに合っている。
だからそんな夢を見たのかもしれないが、だとしても酷すぎるだろう。
涙で濡れた赤い瞳、しなる白い背。ゾクゾクくるほど色っぽい顔で喘ぐ臨也の姿がいまだ脳内でちらついて。

「くそっ」

ガンッと大きな音を立ててパイプベッドが少しへこんだ。
握った拳はそのまま、静雄は何度も呟き、湧き上がった感情を吐き出す。
とりあえず、今日は絶対ノミ蟲に会いたくねぇ。
そんなことを真剣に考えてしまう程度に、静雄の精神は打ちのめされてボロボロだった。












※もとは前に書いた強姦話のオチだったのですが、使わなかったので少し変えてリサイクル。