もういっそのこと素直に言っちゃえばいいんじゃないかな…っていうかもう帰ってよ頼むから(タイトル)
※静雄に襲って欲しい臨也と臨也を襲いたいけど我慢する静雄。










ねえ君たち、僕は思うんだ。
何でそんなに素直になれないのとか。何でそんなに頑なに相手は自分を嫌いだと信じているのとか。
正直相談されるのいい加減鬱陶しいよ。
だから、そろそろちゃんと向き合って思ってること全部話したほうがいいんじゃないかな。









「そうは言うけどさ新羅、シズちゃんは俺が嫌いなんだよ?どうにもならないよ」

ふるふると緩く首を振る臨也は本気でそうだと信じている声で言った。
そのことに頭が痛い思いをするのはいつものことだ。
新羅は手元のマグカップを弄りつつ臨也に視線を向けて、お馴染みとなった科白を口にする。

「僕はそうは思わないけど」
「新羅にはわからないんだよ」
「そうかな。私は君たちのこと第三者の視点から冷静に見てるわけで、君たち自身より詳しいと思うけど?」

そう言うと、臨也はムッとした顔で新羅を軽く睨んだ。

「ない。新羅のがシズちゃんを知ってるとかありえない」
「…そういう話じゃないよ」

きっぱり言い切る口調には独占欲が溢れている。
ああもうホント。それ静雄の前で全開にすれば万事解決だと思うよ。そう思っても、無駄だとわかっているから新羅は余計なことは口にしない。万倍で返されるのは割りに合わなすぎるのだ。

「そういう話だろ?俺は俺がシズちゃんに嫌われてるって誰よりも良く知ってるんだから」

なおもそう言う臨也は本気だ。あれほど他者の感情に敏いくせに何故静雄の感情だけわからないんだ。
ああ馬鹿馬鹿しい、と新羅は内心呆れ返って外面のみ沈黙を保つ。
その間にも臨也の愚痴に似た独白は続く。そう、これは独白なのだ。臨也のこれは相談ではなく、ただ事実を再確認して内で処理してしまうための作業の一環に過ぎない。だったら一人でやれと突き放せない程度の友情を持っているらしい自分に、新羅は同情のため息をついた。

「でもシズちゃん童貞だしさー、うまく誘導したら襲ってくれないかなーとか思うんだよね…。まあしないけど」
「いっそすればいいと思う」

呟くような調子の声に、新羅は真顔で言った。
本当にいっそしてしまえばいい。そうすれば多少揉めても何とかなるはずだ。
だというのに。

「できないよ。そんなことして相手にもされなかったら惨めじゃないか」

しょげ返った迷子の子猫か君は。そう言いたくなるほどへこんだ様子を見せる臨也。他では見せないがここでは決して珍しくない臨也のその姿に、新羅は首を振った。

「……俺は静雄に同情するね」
「…っていうかさ。君一人称統一したらどうなの」
「余計なお世話だよ」

自分に関わることすら満足に理解できない奴に言われたくないね。心の底からそう思う。
いまだ愚痴り続ける臨也を尻目に、新羅は今は居ない最愛の妖精へと思考をシフトした。









「そうは言うけどな新羅、臨也は本気で俺を嫌ってるんだよ」

真面目な顔で…そのくせ眉を下げた情けなくもある顔で…そう零した静雄に、新羅はぐったりとソファーの背に身を預けた。ああ馬鹿らしい。

「…君たちって変なところで気があってるんだからわからないよね」
「?」

新羅の言葉に首を傾げる静雄は、やはり臨也同様、相手の自分への感情は負の方向のみだと信じて疑っていないのだ。
なんでそうなの君たち。ホントありえない。周りが見えなくなるのが恋だって言うけどさ。もうちょっとお互いくらいしっかり見ようよ。
ぐるぐる渦巻く文句は、だが言葉にならなかった。周りがいくら言っても無駄なのは静雄も臨也も同じなのだ。
だから、別なことを聞く。

「ねぇ静雄。君は結局、臨也をどうしたいの?」

動くとしたら静雄からだ。新羅はそう思っていた。臨也は頭がいい分どうしても理屈っぽくそれによって雁字搦めになってしまう。だから、動くとしたら静雄からしかない。
そう思っての質問は、だが、あまりにも直截な言葉で無意味に終わった。

「……抱きてぇ」
「あー…うん。そういう肉体的な話じゃないんだけど」

一足飛びにそこに行くのかと頭が痛くなる。いや、結局人間も動物なのだから恋の根底にあるものなどそんなものなのだろうが、だからと言っても直截に過ぎた。
ああ、でも静雄だからありなのかなぁ。遠い目でそんなことを考える新羅を気にした様子もなく、静雄は言葉を続ける。

「あいつを見てると堪らなくなんだよ。こう、仕草一つとっても誘ってるみてぇで抱き締めたくなる」
「もういっそそのまま襲っちゃえばいいんじゃないかな」
「んなことできるかよ…。今でも顔合わすたび殺す殺すっつーほど嫌われてるってのに…」

ため息をつく静雄に、新羅こそため息をつきたい気分だ。そこまで思いつめてるなら襲ってしまえばいいのだ。それで万事解決する。

「…ああクソッ抱きてぇ」

低く叫ぶように呻く相手に、今度こそ心底脱力して。
新羅は埃ひとつない天井を見上げた。

「…ホント、二人とも馬鹿だよねぇ」

呟きを聞くものはなく、新羅の呟きは空しく壁に吸い込まれるだけだった。












※うだうだ悩むシズ⇔イザ。カウンセラーでもないのに新羅さんご苦労様です。
臨也さんの相談相手はドタチンでも良かったんですが、シズちゃんが相談するなら新羅かセルティだろうと消去法。
しかし…想像以上に乙女なうざやさんになった。