※バカップルの相手は面倒だという話。統合前サイト掲載SS。










「聞いてよ新羅!」

玄関のドアをものすごい勢いで開けて駆け込んできた友人を、新羅はうんざりした表情で迎えた。
正直、聞きたくないというのが本音だ。愚痴なのか惚気なのかわからない話を延々聞かされる身にもなってほしい。

「五月蝿いよ。僕とセルティの愛の語らいを邪魔したんだからそれなりの話なんだろうね?」

無駄だとわかりつつ嫌味のひとつも言いたくなるというものだ。

「シズちゃんが酷いんだよ!俺が鈍いとかありえないよね!?というかシズちゃんの方が絶対鈍い!」
「アアソウカモネ」

どっちにも取れる返答を棒読みで返す。
やっぱりろくでもない話だった。

『静雄がどうしたんだ臨也?』
「ああ、セルティ。君は聞かなくていいよ。こんな話聞くだけ無駄だから」

むしろ耳が腐る。
そう言い切った新羅に臨也がムッとした表情をする。

「聞いてよ運び屋。シズちゃんが俺のこと鈍いって言うんだよ。自分の方がよっぽど鈍いくせにさ」
『どんなことを言われたんだ?』
「俺が取引相手と話してたらいきなり来て手前は馬鹿かっていきなり怒鳴るし、ちょっと握手しただけなのに勝手に触らせるなって煩いし、その挙句が手前は鈍いんだよッて怒鳴るんだよ?ああムカつく!」
『………』
「………」

鈍いよ充分。
二人はそう思ったが、口にはしなかった。
この男は普段は勘もいいし他人の感情の機微にも敏いのだが、どうにも自分に向けられる特定の感情には鈍いのだ。わざとではない。彼は本気で自分にそういう種類の…邪なものを含めた…好意を抱く人間が居るとは思っていないのだ。性的なことへの興味の薄さが一因ではあるだろうが、それにしても心配になるほど鈍い。これでは静雄に同情したくもなる。
男であるがゆえに男に狙われる可能性を考えない。こんな男がどうして情報屋などやっていられるのか。
二人は大きくため息をついた。

『とにかく落ち着け。静雄はお前の心配をしてるだけなんだから、な?』

PDAに書き込まれた文字に臨也は少し大人しくなる。

『お前も仕事が仕事なんだからもう少し周囲に気をつけろ。静雄の気持ちも考えてやってくれ』
「…俺はいつでもシズちゃんのこと考えてるよ」

むっつり言った臨也にセルティは文字を打とうとした手をピタリと止めた。
新羅を見る。

『なあ新羅、私は今ひょっとして惚気られたのか?』
「君の気持ちは良くわかるよ。だから聞くだけ無駄だって言ったんだ」

なおも文句を続ける情報屋を見ながら、二人はやれやれと首を振った。












※古キョン(@ハルヒ)でも似たようなネタを書いたことに今更ながら気付いたのですが、まあいいか…。