やさしい午睡
※『猛獣の飼い方10の基本』の幼馴染設定。










コトリと何かがテーブルに置かれた音に。
静雄はゆっくりと意識が浮上するのを感じた。
ソファーの横のテーブル。先程音のしたと思われる場所から、嗅ぎなれたコーヒーの匂いが漂ってくる。
半ば眠りに浸かったままの意識で、静雄は辺りの気配を探る。
今日は自分は休日で、臨也は片付けなければならない仕事があると言って新宿の事務所に行っているはずだった。
それにもかかわらず、コーヒー以上に慣れた気配が側にある。
ぼんやりとした思考はそのまま再び眠りに引きずり込まれそうになるが、なんとかそれを振り切って静雄は目を開いた。

「あれ?起きたの?」

声の主がさらりと髪を手櫛で梳き優しく撫でてくる。
暖かくて心地よくて、せっかく振り払った眠気が戻ってきてしまう。それを耐え、静雄は相手の顔を見上げた。
どうしたの?寝てていいよ。と口にする幼馴染はずいぶん穏やかな顔をしていて、仕事終わったのか?とゆっくりした口調で問えば頷かれた。

「今日はもうお終い。せっかくシズちゃんがお休みなんだしね」

柔らかな声で言われて、そうかと返事して。
静雄は起きたほうが良いかと問う。
返ってきた答えは否定で、

「気にしないで寝てていいよ。俺はシズちゃんの寝顔を堪能するから」

そう言われて、また優しく寝かしつけるように撫でられた。
どうやら今日は甘やかしたい気分らしい。そう結論付けて、静雄は素直に頷く。

「いざや、膝貸せ」
「俺の膝柔らかくないよ?」
「いい」

はいはいと応じた相手が少しずれたスペースに座るのを確認して、静雄はその膝に頭を乗せた。
決して柔らかくはないが、悪くない。
そう思い、満足してゆっくり目を閉じる。

「子守唄でも歌おうか?」

笑うような声に、だがからかう色はなく。
純粋に甘やかしたいらしい相手に静雄は別にいらねぇよと応じた。
それは残念とため息を吐かれ、代わりにもっと撫でろと催促する。
まるで我侭な猫みたいだねと呟かれる呆れ半分の臨也の声は無視した。内心では猫は手前だろうがと思ったが、もう口に出すのも億劫なほど眠かったのだ。

「おやすみ、シズちゃん」

幼馴染の優しい声音に答えたかどうか。
それさえわからぬまま、静雄は穏やかな眠りに戻っていった。












※お昼寝シズちゃんと甘やかしたい臨也さん。