最悪な最愛
※『猛獣の飼い方10の基本』の幼馴染設定。










食後の片づけを終わらせた静雄がリビングに戻ってくると、臨也が大人しく本を読んでいた。
自分で淹れたコーヒーを啜りつつ、ぱらりとページをめくっている。
黙っていれば秀麗なその横顔は見惚れずにはいられない。静雄も時折聞かされる他人のその評価には素直に頷ける。
だが、それはあくまで黙っていればであって、実際は口を開けば毒ばかり吐く生き物だ。
静雄はやれやれとため息をつきながら、その傍らに腰掛ける。
そんな静雄を気にした様子もなく、臨也は文字を目でゆっくりと追っている。
静寂で満たされた空間に、ぱらりとまた、紙の捲られる音。
静雄は男にしては細い指先をしばし見つめ、それからまた横顔を見た。
本当に、黙ってさえいればムカつくほど綺麗な男だ。これで性格に難さえなければ極上品だというのに全く世界は侭ならない。
静かにため息を吐いて、静雄は自分の横で本を読み耽る男を眺め続ける。飽きそうにない自分が正直気持ち悪かった。

――性格最悪で人の心を平気で弄ぶ悪魔みたいな野郎だっていうのに、なんでこんな奴がいいのか自分でもわからねぇ…。

静雄の知る限り、臨也は人間観察を趣味とし好んで他者の人生を引っ掻き回す悪趣味極まりない最悪の外道だ。
そこまでわかっているのに、それでも静雄は彼が大事で愛しくてしかたない。ともすれば、その存在を独占するために殺してしまいたいと思うほどに。
それもこれも、幼い頃の約束を守り続ける馬鹿みたいに一途な側面を知っているからだ。臨也の自分に対する愛情が本物だと知っているからこそ、静雄は臨也の手を離すことなど決して考えられない。
ああクソッと、自分にか相手にかわからない呟きを零して、静雄は本から目を逸らさない薄情者のこめかみにキスを送る。
ちゅっと音を立て離れた唇に、臨也が小さく笑った。

「ん…シズちゃんって俺の顔好きだよね」
「あ?」
「しょっちゅう見てる」

くすくす笑って本を閉じて、そのまま膝へ乗り上げてくる。
膝から落ちないように薄い背中を支えて、静雄はもう一度今度は唇にキスを落とした。

「手前のいいところなんて顔ぐらいだからな」
「あーもう、そういうこと言うんだ」

事実だろうがと口にすれば、まあそうかもねと返される。
ついでにお返しだと額にキスされて、目を細めた。
悪くない。殴り合いの喧嘩はしょっちゅうだし殺したいほどムカつくのも日常茶飯事ではあるが、こういう穏やかな時間は好きだった。
甘えたい気分の時の臨也は普段の煩さが嘘のように静かになる。企みも罠もない無防備な姿を晒すのが自分だけだと知っているから、静雄はこの時間をとても大切に思っていた。

「俺もシズちゃんの顔大好きだよ」
「そうかよ」

静雄も自分の容姿が悪いとは思わないが、生憎もてた覚えはないので…静雄は自身への好意には疎い…自信があるわけではない。だから、そうなのかと素直に納得しただけだった。臨也が気に入っているのならそれでいいと満足までして、その細腰に回した手の力を若干強くする。

「しーずちゃん、ちょっと痛いよ」
「煩ぇ、大人しく抱かれとけ」
「…かわいくないなぁ」
「かわいくなくていいんだよ」
「やっぱりかわいい」
「…どっちなんだ」

意味のないじゃれ合いのような会話を続けて、時折互いにキスして。
静雄は最悪で最愛の存在を腕に抱き締めて、幸せそうな微笑を浮かべた。












※いちゃいちゃするバカップル。
シズちゃんへの愛情が人類愛を凌駕してるだけで『猛獣』設定でも臨也さんは基本外道です。