弱肉強食
※性的なことにとことん鈍い臨也。










「ねえシズちゃん」
「なんだノミ蟲」

状況が理解できない。そう臨也は混乱する頭の片隅で思った。
現在は夜。ここは友人の闇医者の住処であるマンションの一室で。臨也はつい先刻ここで点滴を受けながらまどろんでいたはずだった。
自分と静雄以外居ない室内は静まり返っている。
ここ数週間、多忙な毎日に忙殺されて静雄とは対面していない。
寝食を疎かにしがちな臨也が倒れるまで仕事を続けた結果が現在の状況だとしても、理解できない点がある。

「なんでシズちゃんがここに居るの?」

まず一つ目の疑問を口にする。
「手前が倒れたって新羅から連絡が来た」
その答えに、新羅あとで殺す!そう心の中で薄情な闇医者への殺意を固め、臨也は二つ目の…そして最大の疑問を口にした。

「じゃあ、なんで俺の上に乗ってるのかな?」

マウントポジションにしても顔の距離が近すぎる。
殴るにしてももう少し距離をとらなければ難しいだろう。
ああ、首を絞めるとか?そう思って、絞殺か新羅が怒りそうだなと小さく口にすると、怪訝な顔をされた。

「なに言ってやがる?」
「え、俺、これから首絞められるんじゃないの?」
「んなことしねぇよ」

呆れたようにため息をつかれて、臨也は首を傾げた。
じゃあなんだというのだ。この体勢の理由がわからず困惑して静雄を見上げる。
そこで臨也ははじめて色素の薄い目が真剣に自分を見つめていることに気が付いた。

「…えーっと、シズちゃん?」

気付いたが、困惑は広がるばかりだ。
何がしたいのか全然わからない相手に、臨也は殺さないならとりあえず退いてくれないかななどとのんきなことを思う。

「なあ臨也」
「なに、シズちゃん」

意図が読めない相手を訝るように見る臨也は自分が相当危険な状態にあることに全く気付いていなかった。

「世の中は弱肉強食だよな?」
「は?…え?……ええと?」

すっと大きな手のひらが頬を撫で、臨也は眉を下げる。
意味がわからないよ、と小さく呟く。

「世の中は弱肉強食だ。そうだよなァ?」

客室のベッドが二人分の体重に文句を言うかのようにギシリと軋む。
なんでそんなにギラギラした目で見てるんですか。さすがに何かはわからないが危険だと感じた臨也が擦り上がろうとする。
が、静雄の体重を全部ではないとはいえかけられている身体はびくともしなかった。

「し、シズちゃんッ、意味わかんないよっていうかなにしてんのさッ!?」

するりとシャツの裾から忍び込んだ手に脇腹を撫でられてくすぐったさに身を捩る。

「やっ、くすぐったいから止めてよッ。…ッ……なに?なんなのこの嫌がらせ」
「嫌がらせじゃねぇよ」
「じゃあ、なに…ッ…も、ホント、止めて、よ」

ヒッと息をつめくすぐったさに耐える臨也に、静雄は仕方ねぇなと耳元で呟いた。
鈍い鈍いと思っていたが、本当に恐ろしく鈍いらしいと一人ごちる。

「臨也、手前俺より力は弱いよなァ?」
「ッ!…当たり前だろ!っていうか化け物のシズちゃんと一緒にしないでよ!!俺は普通の人間なんだって!」
「なら、食わせろよ」

………。

臨也は目を見開いたまま固まった。
へ?なに?なんなの?どういうこと?食うってなに?俺ご飯じゃないよ?そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
臨也の情けないほどの混乱ぶりを楽しむように笑い、ちゃんと聞けよと低音が臨也の鼓膜を震わせる。
そして、静雄は殊更ゆっくり、言い聞かせるかのように最終通告を口にした。



「なあ臨也。俺は手前を抱きてぇって言ってんだよ」












※ビッチな臨也さんも好きですが、そういうことには疎い(興味がない)臨也さんも大好物です。