相互不理解
※若干の流血表現注意。










低い体温が更に下がっていく感覚に、息を吐き出した。
それと一緒に零れる苦い味に、眉根を寄せる。
痛みよりも寒気。恐怖よりも眠気。そんなものに支配されて、臨也は笑った。

「これは、ちょっと…やばい、かな…」

意識が、感覚が、酷く鈍くなっていた。
銃創はきっちり3箇所。右足に2、脇腹に1。弾はたぶん貫通している。
そんな今更どうでもいいことを考えて、ため息を零した。
放っておけば朝には冷たくなった折原臨也の死体の出来上がりだ。
覚悟がなかったわけではないし、まともな死に方はできないだろうとも思っていた。
だからただ、今の自分を無様だと思うだけだ。

かつんと、耳慣れた足音が聞こえた。

「やあ、シズちゃん」
「何してやがんだノミ蟲」
「さあ、ね」

こつこつと近づいてくる足音に首をめぐらせたつもりだったが、もう身体を動かす力はなかったらしい。

「手前、死ぬのか」

ぽつりと真上から降る声に感情の色はない。
それにどこかほっとして、臨也はそうだねと答えた。

「死ぬと思うよ…よかったねぇ…これで、きみは…だいっきらいな俺をもう、みなくて、すむんだ…」

返事はない。別になくても良かった。
これは臨也なりの最期の嫌がらせで、それ以上の意味なんてないはずなのだから。
静雄があれほど嫌った臨也の声を相手の耳に残す。今際の際の言葉だ。そう簡単には記憶から消えないだろう。

「銃創、だから…シズちゃんが疑われ、ることは、ないだろうし……ッ…は、…俺としては…ちょ、と残念、だけど、ね」
「最期までうぜぇな、手前は」

ぐいっと胸倉をつかまれ引き摺り起こされて、腹から大量の血が零れ落ちる。

「ひっ、どい…なぁ…、と、どめ…刺したいなら、それでもいいけど、ッ…さ」

霞む暗い視界はもう相手の姿を映してはいなかった。
相手の顔が見えないのが少し残念で、臨也はせめてと気力を振り絞って口の端を吊り上げる。
自分らしい顔を相手に見せつけて決して忘れるなと、祈りに似た気持ちで思う。

「もう、用は、ないだろ…さっさと行きな、よ…」

声を出すのも辛くなってきた。そろそろ本当に限界そうで。
臨也は苦しげに目を閉じた。

「ッ!?、うァッ」

傷口に強い痛み。圧迫される苦痛に、臨也はほとんど音にならない悲鳴を上げて意識を失った。





「誰が簡単に死なせてなんかやるかよ、せいぜい足掻いてもがいて苦しみやがれ」
それが似合いだと、吐き捨てるように言った静雄は、圧迫した傷口が血を零すことを止めたのを確認してから青白い死人同然の顔色をした臨也を見た。
か細い呼吸音を聞きながら適当に破いたシャツ…もちろん臨也のものだ…で傷口をきつく縛っていく。
途中、力の入れすぎでどこかの骨が嫌な音を立てたが、どうせここまでボロボロで死にかけならば問題ない。そう判断した。
すべては嫌っている人間に助けられるという最悪な気分を味あわせるためだ。そう自分に言い訳して応急処置を施して。
静雄は臨也を抱き上げる。

「手前が俺を嫌いなように、俺も手前なんざ大嫌いだよ」

己に言い聞かせるために苦手な嘘を口にして、静雄は舌打ちする。
心底嫌われてるからこそ、嫌いな振りをし続ける限り臨也は自分を殺すことに全力を注ぐ。
それが続く限り、この関係は切れない。
不毛な関係を断ち切れない自分に苛立ちを覚えながら、静雄は夜の街中を駆け闇医者の住むマンションへと急いだ。








彼らは知らない。
相手が自分に抱いていると信じている嫌悪の、その真意を。
さかしまの答えを口にし続ける意味を。
口にすれば失われると頑なに心を閉ざすが故に、お互い、決して理解したがらないのだ。












※好きだと口にしたら終わりだと信じている二人。意味不明ですみません…
とりあえず、現在絶賛脳内臨也さんを苛めよう企画中。うん、そういう気分なんだ。