おにのかくらん
※シズイザシズ。好きなほうで読んで下さい。










「…えー」
困った。大変困った。
「しずちゃーん…」
「…うるせぇ」
「放してよシズちゃん」
「うるせぇ…」
ああどうしよう。困った。
「とりあえず新羅のとこ行こうよ、シズちゃん」
あっついよ、君。
化け物なのに、熱で倒れるとかどういう料簡なの。そんなの俺認めないよ。
「うー…」
「ああもう。タクシー呼ぶからそれまで倒れないでよ」
馬鹿みたいに熱い身体に圧し掛かられて俺はため息をついてそう言ったけど、たぶんシズちゃんは朦朧としていて聞いてなかったと思う。








「風邪だね」
「まあそうだと思ってたよ」
新羅の言葉に頷く。
とりあえず俺の役目は終わったね。もともと仕事で池袋に来ただけでシズちゃんに会う予定なんてなかったし。

「じゃ、俺もう新宿に帰」
「だめだよ」

ぴしゃりと遮られて言いかけた言葉が止まった。ちょっとムカつく。

「なんでだよ」
「僕今日はこれから用事があって手が離せないんだよ。だから」
「やだよ」

その続きは言われずともわかったので、今度はこちらから遮る。
だというのに、新羅は口を閉じなかった。

「だから静雄の」
「やだって言ってるだろ」
「面倒を」
「どうあっても続ける気かよ」
「看てて欲しいんだよ。君ヒマでしょ?」

どれだけ遮っても無駄だった。言い直すんじゃなくそのまま続けるってどんだけなのさ。
馬鹿にされてるとしか思えない。

「いやヒマじゃないし」
そう反論してみるけど、今日の新羅は手強い。
「じゃ、よろしく」
そう言ってさっさと何か支度を始めてしまった。

「シズちゃんが寝込むような風邪が感染したら俺死ぬ気がするんだけど」
「馬鹿なこと言ってないで、はいこれ薬。起きたら飲ませてね」
「…マジで俺が看病するのかよ」
「僕は今日は忙しいの。わかったらさっさと行って」
「………」

軽くあしらわれてムッとしたが、相手にされないのがわかっている以上もう何も言う気になれなかった。





で、結局。俺はベッドサイドの椅子に腰掛けて、眠るシズちゃんを眺めている。
熱は相当高いらしく先ほどからずっと魘されている。いい気味だ。

「あーあ、シズちゃんのばーか」
「…うー」

いつもなら殺意を込めて俺を睨む目は今はきつく瞑った瞼に閉ざされていて。
眉間に寄った皺はこのまま跡が残りそうなほどだ。
吐き出される息もずいぶん荒く、見ているこっちまで苦しくなる。

「苦しそうだね。この陽気で風邪引くなんて馬鹿だねシズちゃん。このまま死んじゃえばいいよ」
「…い、ざや」
「…なに人の名前呼んでんだよ」
「ころす」
「ああそうですか。俺も君を殺したいよ」

この男は熱で魘されてる時までそれを言うのか。ああ嫌だね。俺の夢とか見てるなんて気持ち悪い。殺してやりたい。
っていうか、何で俺今こいつのこと殺しちゃわないんだろうね。今なら抵抗なんてできないだろうし、ここは新羅のマンションだから探せば毒薬くらい見つかりそうなのに。
そこまで考えて、馬鹿馬鹿しくなって思考を放棄した。
言い返すはずの相手がなにも言わないって結構つまらないものだ。


「はあ…さっさと良くなってよシズちゃん」


そしていつもみたいに殺し合おうよ。












※いつもの君がいいんです。そういう話。