鈍すぎる人
※小話強化月間5本目。シズ⇔イザ。

















風邪を引いた。
久々にかなりの重症でろくに動けなくて、已む無しと新羅に電話したのが数時間前…のはずだった。
なのに。

「なんで、しずちゃん?」
「ああ?俺がいちゃ悪いのかよ?」

悪いというか、理解できない。
何でいるんだとか鍵はどうしたんだとか色々問いたいことはあったけれど、熱で回らない頭は今の状況を把握するには鈍すぎた。
「おれ、しんらのこと、よんだんだけど…」
「あ?ああ…新羅のやつ手が離せねぇとかでよ」
しかたねぇから来てやった。
と、横柄に言う男の言葉に僅かに違和感を感じた気がしたが、今の臨也の頭ではその原因を追究することは出来そうなかった。
だから素直に「そう」とだけ頷いて相手を見る。
「ただの風邪、だから、別に放っておいてくれてもいいのに」
「…そういうわけにもいかねぇだろ」
「だって、めいわく…」
「手前は、俺じゃ不満なのかよ」
そんなに新羅がいいのかよ、と問われて首を傾げる。
別にそういうわけじゃない、というか、その切り返しはなにか変じゃないか?
そう思うのに、普段とは比べ物にならないくらい鈍くなった頭はやはりその違和感の理由を掴めなかった。
それでも、何かとても重要なことのような気がして思考を巡らせようとして――
「っ!」
鈍い頭痛に呻く羽目になる。
「大丈夫か?」
「う、ん…何とか」
心配そうに顔を覗き込む静雄に何とか頷いてみせれば、溜息をつかれた。
くしゃりと髪を撫でられてまたまた違和感を感じる。
けれど、今度は考えるより先に静雄に制されてしまった。

「大人しく寝てろ」
「………うん」

今日のシズちゃんはやけに優しくて気味が悪いなぁ。
まさか片想いの相手に看病してもらう羽目になるとは、と思ったけれど。
眠さとだるさと頭痛に抗えず素直に目を閉じた臨也は、そのあとの静雄の呟きを聞くことはなかった。



「つか、いい加減気づけよ」
たかが看病でも嫉妬するくらい、好きなんだよ。

そんな静雄の想いに臨也が気づくのはまだ先のこと。
お互いの想いが通じ合うのは、さらに先のことだった。













※ハッピーエンドはまだ先。