望むことはただひとつ
※小話強化月間4本目。シズ←イザ。一切エロくないけどすることしてるのでR-18。暴力表現注意?

















報われない恋をしている自覚はあった。



「ッ」
痛みに上がりそうになった声を唇を噛み締めることで必死で堪えて。
臨也は涙に霞む視界を腕で覆う。
ぐちゅりと音を立てて身体の奥深くまで潜り込む男の熱。
それが背筋が震えるほど気持ち悪くて、吐き気を覚える。
もはや体質のようなものなのだとは思う。が、いつまで経っても行為に慣れない身体は、ただ与えられる異物に嫌悪感を覚えるだけだった。
「力抜け」
無茶を言う男に、それでも息を吐いて必死に身体の強張りを解こうとする。
そうしなければ痛い思いをするのは自分だからだ。相手はいざとなれば臨也の抵抗などものともせず、力づくで蹂躙することも可能なのだから。
「っ…ぅ……んッ」
痛い、苦しい。
そう言えればどんなに楽だろうか。
「はッ、ひでぇ顔だなぁ臨也君よぉ」
ぐいと顔を覆っていた腕を持ち上げられて、視界に相手の顔が映った。
平和島静雄。臨也にとっての天敵。いなくなればいいと心の底から願って――そして、どこでどう間違ったか、恋などという愚か極まりない感情を抱いてしまった相手。
この気持ちを告げたことなどない。告げたところで今よりも酷い仕打ちが待っているだけだ。
最初に犯されたあの日から、臨也は彼に何かを期待することを止めた。
何故彼がこんならしくない復讐方法を思いついたのかはしらないが、そうされるだけのことをしてきた自覚もあった。捕まって路地裏で指一本動かせなくなるまで犯されて衰弱しきった臨也に、男は宣言した。

――『手前は今日から俺の玩具だ』

壊れるまでたっぷり遊んでやるから覚悟しとけ、と獰猛に笑った男に、そんなことをされてすらこの男への気持ちを捨てられない自分に、臨也はすべてを諦めた。
望み通り、壊れるまで。憎しみのままひたすら使い潰されるだけ。
そんな運命を自分に課した。
たぶん、そんな最初があったから、臨也の身体は――素質的な問題もあるだろうが――無意識に行為を拒絶しているのだろう。それが分かったところでどうなるわけでもないけれど、そう考えて痛みや吐き気から気を逸らす。思考を続けていないと、痛みに声を上げてしまいそうだった。
反応らしい反応を返さない臨也に機嫌を降下させたらしい静雄は、ふんと鼻を鳴らして乱暴に腰の動きを再開する。

「――ッ!!」

ブツリと、何かが切れる嫌な感触。
次いで激痛。
大きく見開いた目から涙が零れ落ちて頬を伝うがそんなことを気にする余裕はない。
イタイイタイイタイ――ッ
がたがたと痛みに震える臨也のその様子を愉しむように見下ろす男の視線。
わざと傷口を開こうとするかのように中を大きく抉られて。
それでも必死に声を殺す。
最初に犯された時に痛みに上げた悲鳴に「煩い」と殴られてからずっと。
臨也は最中に声を上げないように必死に耐えていた。
声を上げれば与えられる苦痛は倍加する。臨也の精神に刷り込むように執拗に繰り返された暴力は、もはや恐怖として根付いてしまっていた。
なんで、こんな男がまだ好きなんだろう。
アドレナリンの働きで鈍り始めた痛覚に少し余裕が戻って、真っ先に考えたのがそれだ。
分からない。と、答えはすぐに出る。
ただ、こんなふうにただの物として乱暴に扱われているのに、それでもまだ好きなのだ。だから、いまだに逃げずにこうされ続けている。

――ははっ、馬鹿だよねぇ…折原臨也。

どんなに思ったって、決して報われることなどないのに。
相手の瞳に宿る深い憎しみと殺意は本物で、臨也にとって救いとなるものは何一つない。
それが分かってもなお、離れられないから。だから。
臨也は声を殺し、本音までも封じてきた。
犯されるたびもう嫌だと悲鳴を上げる自分の心まで押し殺して、ただただひたすら嵐が過ぎ去るのを待つ。
そうする以外の道をもう思いつけなかったのだ。だから。
「ん…ぅッ」
ぐちゅりと音を立てて中を掻き回されて、痛みに耐えながら願うのはただひとつ。
早く、少しでも早く。何も感じられぬほどこの心が壊れてしまうことだけだった。