薔薇を頂きました
※小話強化月間3本目。シズイザでもイザシズでもお好きな方で。

















「よぉ…」
そんな言葉が聞こえて振り返った臨也は、その場で硬直した。
目の前の『それ』に、息を呑んでただ見つめる。

「おい?ノミ蟲?」

声は、よく知った天敵のものだ。
だが、目の前に見えるのは、とにかく大量の薔薇。
真紅のそれは束ねられることもなくその腕一杯に抱えられていて、臨也の位置からは静雄の顔がほとんど見えないほど。
「…どうしたの、それ」
ようやく口にした言葉がそんな捻りも何もないものだったのは、臨也の思考がいまだほとんど停止している証拠だろう。
対する相手はずれて落ちそうになる薔薇に四苦八苦しながら答える。
「貰った」
端的な答えは臨也の望んだものとは少し違う。

「誰に…?」
「あ?あー…なんか、知らねぇやつ」
「…知らない人に付いてったり物貰ったりしちゃダメって教わらなかったの君は」
「うっせ、手前には関係ないだろうが」
関係ないとは酷くないか?仮にも恋人だろうに――と思って、臨也は首を振った。問題はそこではないのだ。
「それ、半分かして」
「ん?」
「いいから今すぐ」
「お、おう」

僅かに屈んだ静雄から薔薇を半分ほど受け取って。
落ちかけた薔薇も何とか地面につく前に回収した臨也は、ふむと首を傾げる。
薔薇の種類に詳しくはないからそこから辿れるかは分からないが、これだけの数だ。
すぐに送り主の情報は手に入れられるだろう。
一体どういう目的でこんなものを大量に遣したりしたのか知らないが、俺のシズちゃんに手を出したことを後悔させてやると。
薄く笑って目を細めた臨也は、その笑みを対恋人用の柔らかなものに変えて言う。

「これ、どこに持ってくの?」
「あー…手前んところに持ってこうかと思ったんだよ」
俺の家に置いといてもすぐ枯らすだろうし、仕事場に置いといてもあんまり結果は変わんなそうだしなぁ。と小さな声で呟くよう言った彼は、半分に減ってよく見えるようになったその顔に困ったような色をのせてダメか?と問うてきた。

「まさか。他の人から貰ったものだってのが気に入らないけど、花に罪はないしね」

静雄を安心させるようにふんわり笑って見せる臨也。
と、何故か静雄が視線を逸らす。
注意深く見ればその耳が赤いことが見て取れて、首を傾げる。
今のどこかに照れるような要素あった?と思うあたり、臨也はどちらかといえば鈍いほうだった。

「しずちゃん…?」
問うように名を呼べば、少し視線を彷徨わせたあと、
「あー…なんつーか、花、似合うな手前」
と言われる。
「うっわ、嬉しくない」
「ああ?似合わねぇより似合うほうがいいじゃねぇか」
「臨也さんはそうは思いません」
「……まあ、手前がどう思うかはどうでもいいけどよ」

なら言うな。と思って睨んだ矢先。
静雄がほんのり頬を染めたまま、手前のが綺麗だし、とそう口にしたものだから。
臨也は、一瞬のあとボッと真っ赤になって今度は自分が目を逸らす羽目になったのだった。