身勝手な男
※小話強化月間2本目。

















急に指を取られて、臨也は不思議そうに首を傾げた。
目の前には天敵兼恋人という奇妙な関係の相手――平和島静雄の姿。
仕事中に突如として現れた相手は、いつもの如くドアを破壊したことをまったく何とも思っていない態度でソファに居座っていたはずだったのに。
いつの間に目の前に立ったんだとか、何で勝手に断りもなく手をとってやがるんだ、とか。
言ってやりたいことは他にも山ほどあったけれど、それらは音になる前に飲み込まれた。
代わりに飛び出したのは、
「ちょ、なにしてんの…っ」
という焦りの声。
臨也の手を口元に運んだ男が、ちゅっと音を立ててその指に口付けたからだ。
だが抗議の声に静雄は何も返さない。
そうしてそのまま何度も口付けられているうちに、何だか次第にどうでもよくなってきて溜息が出る。
「…とりあえず離してくれないかな」
言ってみるが無視された。
首を振って眉を寄せた臨也だったが、ふと不穏な気配を感じた気がしてピクリと反応する。

あ、やばい。

そう思った時にはもう遅く。
「ッ…!」
プツリという何ともいえない感触とともに痛みが走って
皮膚が破られたのだと気づいてうんざりしつつ睨めば、相手がくっと空気を震わせて笑う。
口の端だけを吊り上げるその仕草が妙にさまになっていて、酷く神経を逆撫でした。
柳眉をしかめ唸る臨也に静雄はやはり楽しそうに目を細める。
裂かれた皮膚から零れた赤を見せつけるようにゆっくりとした動きで舐め上げて。
「なんて顔してんだよ?」
そう、囁くような声でからかってきた。

ああクソ、楽しそうな顔しやがって。
臨也はチッと舌打ちして顔を逸らす。
だが、そうしたのは不機嫌ばかりが理由ではなかった。
じっと臨也の目を覗き込んでくる平均より色素の薄い瞳に宿る熱。
じっくり、臨也の反応の一つ一つを楽しむように、注がれ続ける視線。
その熱のこもった雄の目に、堪えかねたのだ。
その間もざらりとした舌がまた指を舐め上げられる。

「ッ」

執拗に、傷口をわざと抉るように蠢く舌先に、ざわりと心が騒いだ。
撥ね退けろという声と、そのまま流されてしまえという声と。
二つの心の声が臨也の中で巡っていて。
結局、諦めた。
どうせもうこうなってしまえは臨也には決定権はないだろう。
力では勝てず、また抗うほどの抵抗感も感じない。
いいや、今回は流されておいてやろう。そう考えて、はふと息を吐き出す。
そんな臨也の感情の変化に気づいたのだろう。
にやりと笑った静雄が身を屈めてきた。
「…ん、ぅ」
触れる唇の温もり。
潜り込んでくる舌は、微かに血の味がして。
臨也はチリチリと痛む指先を思い出す。
…ホント扱いにくい男だ。早く死んでくれればいいのに。
そう苛立ちまぎれに胸中で呟きながら、それでも臨也は舌を絡めてくる男に意識を集中すべく、大人しく目を閉じた。