無人島に行くなら?
※小話強化月間1本目。『猛獣』設定。

















――もし無人島に行くとしたら、君は何を持っていく?



そんなことを訊かれて、臨也は小さく首を傾げた。
そもそも無人島になど間違っても行かない。という答えはたぶん望まれていないのだろう。
相手――新羅の表情からそれを察して、瞬く。

「新羅は、首なしだろ」
「うん、それは当然だろう?というかひとつだけならそれ以外の選択肢はないね」
「……」

予想通りの答えをありがとう。そう思いつつ、溜息をつく。
新羅ならそれ以外ありえないのは分かっていたことだ。

「で?君は?」

何でそんなに楽しそうなんだ?暇?暇人なのか?
と思ったところで、でも俺も今日はその暇人に付き合える程度に暇なんだよね、と苦笑する。
だけどいくら暇でもこの問いの答えを考えるのは無意味だった。

(困ったなぁ)

別に、何か持っていきたいものなどないのだ。
臨也はたぶん、どこででも生きていける。それこそ砂漠のど真ん中だって熱帯のジャングルだって極寒の雪原だって、自分を死なせない方法くらい知っている。行く気はまったく一切欠片もないけれど。
どう答えるかなぁとぼんやり考える臨也の中に、そういう状況に追いやられた時に必要なものなどなかった。考えたこともなかった。だから、しばし思案する。
そんな臨也に新羅は不思議そうな顔をして、そして、言う。

「…君は静雄くんとは言わないんだね」

唐突な言葉に、一瞬きょとんとして。
臨也はああ、と頷く。
だって、それは――
「ないよ。だって、シズちゃんは俺の唯一だからね」
出来ればそういう危険のある場所には連れて行きたくない。…まあ、もっともシズちゃんなら無人島行きになったら泳いででも帰れそうだけど。
「そうだなぁ…」
シズちゃんは連れて行かないけれど、と呟いて。
臨也はくくっと笑って言った。

「煙草を持っていこうかな」

俺の中では、あれが一番シズちゃんの匂いを連想させるからね。
そう言う彼は、たぶん結構本気だった。
それを察した新羅が大きく大きく、それは盛大な溜息を吐き出してやれやれと首を振る。

「惚気なら訊きたくないんだけど」
「惚気じゃないよー」

心底嫌そうな顔をする闇医者にくつくつ笑って。
臨也は、今度出張する時は煙草を持っていこうと思うのだった。



…のちに、この話をセルティ経由で聞いた静雄に散々説教されることになるのだが。
そんなことは、さすがの臨也でもまだ知る由もないのであった。












※一日一本小話強化月間。