だからやっぱり君が好き
※美容師静雄×通常臨也。付き合ってしばらくした頃。美容師設定は生きてません。

















さわりと肌に触れる感触に、臨也は目を開けた。
くたりと力を抜いた身体を預けたまま、何度も髪に指をくぐらせる男に目を向けて、
「シズちゃん、もっと」
とねだる。
対する静雄は仕方ないなと言いたげに苦笑して、そっと優しく撫でてくれた。
本日は火曜日。
火曜を休みと定めている静雄――というより静雄の職場である美容院が休みなだけだが――と臨也の休みが合うことは実はそうないため、今日は久々の仕事の絡まない逢瀬であった。
それだけに思う存分甘えておこうと決めて、臨也は背を預けたまま触れる手に自分から顔を寄せる。


臨也は、静雄の手が好きだ。
大きな男らしい手は、そのくせ繊細に動いて。
触れられるだけでほわんと暖かな気持ちになって満たされてしまうものだから、普段の自分はどこにいったのだと自分自身笑いたくなるほど。
手懐けられてる気分だ。
そう思ったところでそれも悪くないと思い始めているのだから手に負えない。

「ねぇ、シズちゃん」
「なんだ」

呼ぶ声に応じる声音は穏やかで。
耳に心地よい低音にじわりと胸の何処かで何かが生まれた気がした。
恋人と呼べる関係になってみたものの、正直、臨也はそこから先を考えていたわけではない。ただちょっと気になる相手が手を延ばしてきたから応じてみただけ、だったのだけど。

「もう少しだけ、俺が寝ちゃうまで撫でててくれないかな」

いつのまにか、自分の方が彼を望むようになっていた。それすら不愉快でないのだから、恋は人を変えるって本当だったんだなぁと他人事のように思う。
ホント手前はよく寝るよな、と飽きて気味に苦笑した静雄がそれでも優しく髪を梳くのを感じながら。
臨也はそうでもないんだけどねと心の中で呟いた。

――シズちゃんの側って何か安心するんだよ。

口にしないのは別に照れ臭いからでも駆け引きでも何でもない。何となく機会を逸して、そのままになってしまっているだけだ。
ここまできてしまったらもう少しだけこの穏やかな接触を享受したいとか思う自分を別に卑怯だとは思わないけど。
ただ、そろそろ伝えてもいい頃合いだとは思っている。
そうでなければ、律儀に臨也が自分をちゃんと好きになってくれるまで待つとキス以上はしてこない男は、本当にいつまででも待っていそうだった。
いつ告げようか。
閉じそうになる瞼にもう少し待てと命じて、臨也は静雄を見る。

「寝ないのか?」
「ん、寝る、けど」
目を細めて満足そうな彼は、一見このままの状況でも問題なさそうに見える。けれど、実際はかなり我慢してくれていることも知っていたから、だから、そろそろ覚悟を決めようかと自分に言い聞かせた。
どうせとっくの昔に身も心も預けてしまってるのだからもういいだろう、と。

「何考えてんだか知らねぇけど、眠いんならとりあえず寝ちまえよ」
「…そうだね」

降ってきた言葉に臨也は素直に頷いて、それからそっと目を閉じた。

すべては起きてから。
自分の告げる言葉に静雄がどんな顔を見せてくれるのか楽しみに思いながら、臨也は彼が与えてくれる穏やかな眠りに身を委ねた。












※本当のところはただ臆病なだけの臨也さん。