望むことなど何もない
※シズ⇔イザ。

















「はぁ!?何馬鹿なこと言っちゃってるの!?俺はシズちゃんなんか願い下げだよ!!」



「…俺は、手前が好きらしい」
その言葉に、臨也は一瞬何を言われたのかすることが理解できず。
理解が追いついたあとに訪れた混乱のまま叫んだのが、先の言葉だ。
そして。そのまま新宿へ逃げ帰った彼は、今更、後悔していた。

「もう俺馬鹿だろ…なんであんなこと言っちゃってんの」

…あそこは『折原臨也』ならば、冷笑して散々にけなしてやるべき場面だ。
そう激しく後悔したところで後の祭り。
一度口にした言葉は戻りはしない。
「…シズちゃん気づいてないよな。シズちゃんだもん大丈夫なはず」
そう呟いて気を落ち着かせる臨也の動揺の原因は、自身にとっては明白だった。

”自分は平和島静雄が好き”ならしい。

そう、臨也が意識して自覚したのは、つい最近だ。
そして、いまだ納得のいかない、認めたいとは思えない感情は、臨也の言動に少なからず影響を与えていた。
ついさっきの発言はその顕著な例と言えなくもない。

「いくらなんでも動揺しすぎだろ…冷静になれよ折原臨也」

自分に自分でそう言って。
ゆっくり息を吐き出す。

「『折原臨也』は平和島静雄が嫌いだ。それでいいだろう?何か間違いがあるか?いまさら関係を変えようなどと思っていないんだろう?」

自問し、頭の中で答える。
そうやって気持ちに整理をつけて、もう一度、深く長く息を吐いて。
臨也はふるふると首を振った。
「俺は、平和島静雄の嫌いな理屈をこね回して人を陥れ、破滅いていく様を楽しむ、外道だ。そう。それでいい」
くっと喉を震わせて、そう言って、臨也は重く淀んだ窓越しの空を見上げた。
まるで今の自分の心の中みたいだ、と呟くもう一人の自分を見なかったふりで無視して、にやりと静雄の嫌う笑みを浮かべる。

「なにより、いまさら、実は俺もシズちゃんが好きでしたーなんて言えるわけがないだろう?」

それに、ひょっとしたら誰かの入れ知恵…静雄が冗談でもそんな台詞を許容するとは思えないが…かもしれないし、それこそたちの悪い冗談であるかもしれない。
そう考えれば、今更何か言うなどできるはずもなかった。
そもそも、
「俺は、別に…シズちゃんに何かを望んだりしない」
認めたくなくて逃げ続けて。結局捨てられなくて、諦めて受け入れて。
でも、それだけだ。
折原臨也は、決して平和島静雄に何かを望んだりしない。
この想いも、告げたりはしないのだ。

「あーあ、ホント、シズちゃんってば思い通りにならないなぁ」

そう呟いて、次に池袋に赴く時が憂鬱だと思った彼は。
まさかこの数分後に件の平和島静雄の来襲を受けることになるとは思いもしなかったのであった。












※ずっと片想いでいいと思ってる人のはなし。
ギャグを書こうと思って予想外にシリアスになりました…。