※静雄+新羅。薔薇ジャム作ったよ記念(何)
















「ええと…なに?ソレ?」
差し出された小さな小瓶に、新羅は怪訝そうな顔で首を傾げた。
対する相手――静雄も何故か小さく首を傾げる。
つられたかのような仕草だが、たぶんそういうわけではないのだろう。
純粋に不思議そうに新羅を見る彼に、困惑が深まるのを感じて。
新羅はとりあえず、件の小瓶を受け取って、しげしげとそれを眺めた。

手のひらにちょこんと収まる大きさの透明の小瓶。
ラベルの貼られていないそれの中身は、
「ジャム、かな?」
ほのかに赤いゼリー状の物体。
浮かんでいるのは、花びらだろうか。

静雄が手土産を持ってくるということ自体が珍しいが。
さらにどう見ても手作りなところが新羅を驚かせていた。
この友人の作る食べ物といえばもっぱらカレーなのだから、当然その出所が気になるというものである。

「薔薇のジャムらしい」
「へぇ…」

顔を近づけてみれば、ほんのりと甘い花の香りがした。
蓋を開ければ香りはもっと強くなるのだろう。
飲めなくてもセルティが喜びそうだ。
そう思いながら、新羅は静雄に礼を述べる。
応じた相手は、「じゃあ、今日はそれだけだからよ」と口にして、そこで思い出したように小瓶を指差した。

「紅茶に入れて飲むと結構美味いぜ」
「ああ…そう言えばそんなこと言ってたっけ」

ずいぶん前にもう一人の友人がそんなことを言っていた気がして。
そこで、ふと、あれ?と思う。

「ねぇ、静雄くん」
「あ?何だ?」
「これ、もらったの?」
「あー…そうと言えばそうだけどよ」
「手作り、だよね?」
「ああ」
「まさか、恋人の手作りだったりする?」
「……………まあ、な」

新羅の視線から逃げるように逸らされる顔。
ほんのりと染まった頬は、静雄が照れていることを分かりやすく示していた。

うん、すごく、すごくだ。すごくアレな想像をしてしまった。

薔薇のジャムを作るような知り合いが静雄にどれだけいるかは新羅は知らない。
でも、自分にもお裾分けがくるということはたぶん知り合いで。
そして、新羅には薔薇ジャムなんて作る知り合いは――少なくとも知っているのは、一人しかいないのだ。
嫌だなぁ、当たってて欲しくないなぁ…と思いながら、それでも訊いてしまったのは好奇心。

「…これ、紅茶に入れると花がふわふわ揺れて面白いよね」
「…あ?ああ、手前もおんなじこと言うんだな」

なんの疑問もなくそう口にする静雄に、新羅は口の端を引き攣らせたまま乾いた笑いを零す。

あの友人が食用に栽培されたという真紅の薔薇を土産に寄越したのは数日前。
またジャムでも作ろうかなぁと呟く姿に、今度味見させてよと言ったのも数日前。
紅茶に入れると花が底の方でふわふわ揺れて面白いんだよねぇ、と珍しく邪気のない顔で笑ったのもしっかり覚えている。

……うん確定だ。

知りたくもなかった友人たちの関係を知ってしまったことに遠い目をして。
新羅は、だとすれば今までの反応とか台詞って無自覚ののろけだよね…と思う。
しかしいつの間にそんな関係になったのか。
お互いに執着しすぎていることは知っていたけれど、どちらもそんな素振りを見せたりはしていなかったというのに。

「まあ、いずれはそうなるかもと思ってたけどさぁ…」
「?…何がだ?」
「ああ、いいんだ。こっちの話」
「そうか…?」

首を傾げる静雄はばれたことに気付いていないに違いない。

「用は済んだんだよね?」
「おう」
「じゃ、早くその恋人のところに帰りなよ」
「…お、おう」

照れて頭を掻く相手に苦笑が零れた。
あの静雄がね、とか思わないでもないけれど。
でも、収まるところに収まったのなら良かったという気持ちが強い。

「じゃあ、またね」

そう言って、玄関をくぐる友人を送り出して。
それから、新羅はふいに思いついて、密かに口の端を吊り上げた。

「静雄くん」
「ん?」
「臨也にありがとうってお礼言っておいてね」
「っ!!!?」

何で知ってんだと言わんばかりの顔で慌てて振り返った静雄。
それににっこり笑ってみせて。
新羅は「早く帰ってあげなよ?」と言うだけ言って、さっさと扉を閉めたのだった。












※薔薇ジャムと静雄と新羅さんで推理ゲーム(難易度低)。