超能力ネタ
※タイトル通り。没ネタリサイクル。

















「心が読める?」

きょとりと静雄を見上げ、臨也はなに言ってんだこのバカは、と心中で呟いた。
一応言っておくが、静雄は嘘はついていない。よって、その心の声は丸聞こえである。

「…嘘じゃねぇよ」
「へぇ…じゃあなに?シズちゃんはついに怪力だけでなく超能力まで獲得したっていうわけ?あ、知ってる?心が読めるのはテレパシーって言うんだよ?今までだって充分化け物なのにますます化け物じみてきたねぇ。で、ホントなの?」
「うっぜぇ…本当だって言ってんだろうが」
「ふぅん。じゃ、読んでみてよ」

そう言って馬鹿にしたように笑う臨也に、静雄はムッとして頷いた。

(あーあ、シズちゃんってばついに頭まで変になっちゃったのかなぁ。新羅に見せた方がいいかな、ああいいや、むしろ解剖してもらうかなにかして脳みそ交換してもらったらいいんじゃないの?)

非常にムカつくことを考えている相手に、そのまま一言一句違えることなく伝えれば。
臨也は大きく目を見開いて一言。

「うっそマジ?」

と口にする。それに気を良くしかけた静雄だったが、一緒に聞こえた(シズちゃんがこんな長文を覚えられるなんていつの間にか進歩してたんだね)という心の声がすべて台無しにしてくれた。
読まれることを意識してなのか、それとも無意識だったのかはわからないが、とりあえず悪意だけは伝わった。

「死ぬか?」
「あ、読めた?」

けらけら笑う相手はやはり確信犯であったらしい。

「いやしかし君ってホント飽きないね。おもしろいよ、不愉快だけど」
「なにが言いてぇ…」
「君と俺はもともと相性最悪だけど、これでますます相性が悪くなったわけだ」
「…そうかもな」

というか、そうだろう。
いつも良からぬことを企む相手だが、こうまですべて筒抜けならばいくらでも対処のしようはある。

(なぁに考えてんのかしらないけど、甘いよシズちゃん)
「あ?」
(いやいやこっちの話。ねえシズちゃん?ちょっと確認も兼ねて、ゲームしようか?)
「ゲーム?」

唐突な提案に静雄は首を傾げる。
見つめた先の相手はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。

「うん。ゲームしようよ?君が俺の本心を読めたなら君の勝ち。読めなかったら負けだ」
「……何企んでやがる」
「それこそ、読めるんじゃないのかい?」

ニヤニヤ笑いは消えない。

(さあどうする?)

挑発に乗るのは馬鹿らしかったが、だからといって臨也相手に引くのは嫌だった。

「わかった。乗ってやる」
「了解。じゃあ、俺が勝ったら一つだけ俺のお願い聞いてよ」
「いいぜ。その代わり俺が勝った場合は手前が言うこと聞けよ」
「うん」

こうやって会話している間も臨也の思考は筒抜けで、具体的な『お願い』を考えていないことは読みとれた。不穏な感じも一切ないのでここは乗っておく。

「これは君がどこまで読めるかの確認も兼ねてるからね。俺は今からいろんなことを考える。その中に、俺がシズちゃんに絶対言わないような言葉を見つけられたら、君の勝ちだ」
「あ?意味わかんねぇこと言うな」
「もう頭悪いなぁ。ね、今俺が考えてることと言ってることは一緒?」
「ああそうだな。一緒だ」
「うん、だよね。つまり今君が読んでるのは俺の表層意識なわけ。これは予想通りなんだけど、俺が知りたいのはそこじゃないんだよね」
「分かりやすく言え。回りくどい」
「あはは、短気だねぇ。まあ、俺としては読んでほしくない部分があって、それが読めるか知りたいんだよ」
「ならゲームにする必要ねぇだろうが」
「それじゃ面白くない」
「…俺はどっちにしろ面白くねぇよ」

唸るように言うが、(うるさいなぁ、それくらい付き合ってよ)との心の声がして表面上は無視された。

「とりあえず今から俺はいろいろ考えるけど、途中で怒らないでよね?読んだことは、口に出してもいいけど、この紙にでも箇条書きにしてよ」
「おう」
言われるまま思考を読もうと意識を集中する。
ずらずらと並べ立てられる言葉。
まるで洪水みたいだなとすでに少し苛立ちながら、静雄はひとつも漏らさないように注意深く拾っていく。
だが、どれも臨也なら言いそうなことばかりで。
それを読みながらたぶん5分は経った頃、静雄は鬱陶しすぎるそれに舌打ちし、緩く首を振った。

「ちっ、もういい。手前のそのふざけた思考を覗いてると頭がおかしくなりそうだ」
(ははっ、ギブアップかい、シズちゃん?)
「うっせ、俺の負けでいいから、そのうぜぇの止めろ」
(了解。でもやっぱり表層は読めても深層意識までは読めないみたいで良かったよ)
「手前の表層意識とやらはうるさ過ぎだ」

ちょっとうぜぇとぼやくと、臨也は不満げな顔をする。
(酷いなぁシズちゃん)
「煩ぇ」
手を伸ばして手首を掴んで引き寄せて。
腕の中に囲えば、臨也は戸惑うように見上げてきた。
それが案外可愛くてついつい笑うと、ぴくりと身体を揺らす。

(うっわ、どうしよう)(その顔、好きだな)

聞こえてきたの心の声は、二つ。
「あ?」
「え、な、何?」
首を傾げる静雄に、相手も困惑したのか同じ仕草をした。
なんというか、やはり、案外可愛い。

「…手前もいつもそうならいいんだけどな」
「そうって何…?」
「そうやって可愛くしてりゃ、ムカつかねぇのにって意味だ」

(!!!!?)

臨也の目が丸くなる。
それから、視線を泳がせて、うううと唸って。
ごちゃごちゃと纏まらない思考が伝わってきたのはたぶんほんの数秒。
キッと静雄を睨んだ臨也は口に出さずに心の声で文句を言ってきた。

(ばっかじゃないの、死ね!)(どうしよう、好き、大好き)

…やっぱり、二重音声だ。
いつのまにか、聞こえる声が二つになっていた。
たぶん、というか当然、臨也は気づいていない。

「あー…」
「…なに?」
「いや、手前って、ホント素直じゃねぇよな」

好きなら好きって言えばいいのだ。まあ、素直なノミ蟲ってのも気持ち悪いかもしれねぇけどな。
そんなことを考えつつ、静雄は間近で見上げてくる相手の頬にキスを落とした。
「…しずちゃん…?」(え、えっと…な、なに?なんだろ?)
またごちゃごちゃと混乱しだす思考。
あわあわするそれがはっきりと分かってしまって、苦笑する。

「聞こえてんだよ全部」

それだけで、臨也は何が聞こえているのか察したらしい。
一瞬の後、顔が一気に真っ赤になる。

「うそ!?さっきは分からなかったじゃん!?」
「今は聞こえんだよ」
手前の好き好きって可愛い告白がな。
「………ッ」

あまり驚いたのか、心の声さえ一瞬止まった。
それがまた可愛くて、ちゅっちゅと口付けを繰り返す。
そんな静雄の行動を恨みがましい目で睨みつけてくる臨也の顔は赤いまま。
混乱でぐちゃぐちゃの感情は全て丸聞こえで。
静雄は、この能力悪くねぇかもなぁと密かに思うのだった。












※臨也さんが乙女になりすぎた感じ…
企画提出作品を書いている最中に出来たネタ…だった気がします。