※ぬるすぎるくらいにぬるくR18…?

















「…、…」
小さく息を吐いて、臨也は天井を見上げた。
覆いかぶさる男の背を撫でて、ぼんやりと思索に耽る。
「…臨也、やっぱダメか?」
気付いた男――静雄が、顔を上げて問うた。
それに少し思案する。嘘をつくのは容易い。
演技にも自信はある。
だが、結局。臨也は小さく頷いて、静雄の言葉を肯定した。
「そうか…」
「別に、シズちゃんは悪くないよ?」
がっくりと肩を落とす姿に少し哀れになって言うが、返るのは溜息。
仕方ないことなのに、と思って。臨也は静雄から目を外してまた天井を見上げる。
そっと、静雄がそんな臨也の髪を撫でた。
「やめるか…?」
気遣う声は、少し掠れている。
この声は好きなのになぁと思いながら、首を振って静雄の首に手を回した。
「続けていいよ…気持ちよくなってるシズちゃんの顔、見るの好きだから」
「………」
「悪い意味じゃないよ?見てると、身体は感じなくても気持ちいいんだよ。だから、して?」
引き寄せた相手の額にキスをひとつ。
悪ぃと呟いて、臨也の足を抱え上げた静雄を見つめて、臨也は別にいいのに、と苦笑した。


臨也が自分が不感症だと知ったのは、まだ中学の時のことだ。
別に困ったことはない。
感じなかろうが、それを不都合だと思ったことはない。
好奇心の強い臨也としては少しだけ残念に思ったが、それだけだった。
そう。静雄とこういう関係になるまでは。


「ッ」
ぶるりと静雄が身体を震わせるのを感じて、臨也は目を細めてその表情を見つめる。
精悍な顔が快楽に僅かに歪められて、眉根が寄せて、臨也の体内に熱を放つ。
その瞬間の表情が、臨也はわりと気に入っていた。
意識して後孔をきゅうっと引き絞ると、静雄が小さく呻く。
「て、めえ…そういうことしなくていいって」
「ん…まあ、いいじゃん」
気だるげな顔に見下ろされて、笑って応じると。
静雄は荒い呼吸を何度か深呼吸することで落ち着けて、それからずるりと自身を引き抜いた。
「…痛くねぇか?」
「シズちゃんがしつこいくらい慣らしたから、へいき」
「………」
大きく、溜息がつかれた。
また自己嫌悪に陥るわけだ。真面目だねぇシズちゃんは、と苦い笑みを浮かべて、臨也は静雄に手を伸ばす。
痛んで触り心地がいいとは言えない髪を梳いて、名前を呼ぶ。
「シズちゃん、そんな顔、されると俺も困るんだけど」
「…悪ぃ」
それは何に対する謝罪なんだろうね。
仕方ないな、と苦笑を深めた臨也は消耗した身体を無理矢理起こした。
そのまま、静雄の頭を抱えて抱きしめて囁く。
「シズちゃん、キスして」
「…?」
唐突な言葉に不思議そうな顔をする相手に。
秘密を打ち明けるように、密やかな声で告げた。

「俺ね、シズちゃんとするキス、好きなんだよ」

だからして?ともう一度ねだれば、唇に降りてくるキス。
触れるだけの優しいそれがくすぐったいけれど心地よくて、臨也は口の端を綻ばせる。
キスが好きなのは本当だ。
触れるだけのそれも、深く食べ尽くそうとするかのようなそれも。
快感は得られなくても好きだった。
ちゅっちゅ、と何度も、唇に、頬に、鼻先に、目元に、額に。落ちてくる優しいキス。
心地よさに力を抜いて体重を預ければ、抱きしめて支えてくれる腕。
喧嘩ばかりしていた頃は――いや、今だって昔と変わらない喧嘩をしてるけれど――知らなかったそれらに、すっかり甘やかされて、慣らされてしまっていることは自覚している。

「…もっと、努力する」

キスの雨の合間に零された言葉に、臨也はきょとんとして。
それから、くすくすと笑った。
本当に、普段はあれほど気が短いくせに面白いほど真面目な男だ。

「俺は別に、このままでもいいんだけどね」

そりゃ、シズちゃんと気持ちよくなれたらそれはそれで嬉しいけど。と応じて。
臨也は静雄の暖かい腕の中でゆっくりと目を閉じた。
原因のわからない不感症を治すのは、たぶん難しい。
静雄とこういう関係になって、比較的早い段階で新羅に相談したからこそ、そうわかっている。

――こうやっているだけでも幸せだと思っちゃうのが、治らない原因のひとつなのかもしれないなぁ。

そう考えつつ、でも今はこの暖かな体温にただ浸っていたくて。
臨也は満足そうな息を吐いて、いまだ降りやまないキスの雨に目を細めた。












※不感症な臨也さん。
途中から完全に方向性を見失った結果、変なところに不時着しました…