天然確信犯

















シズちゃんは場所を考えたりしない。
まあそんな頭もあるはずい単細胞だから、当然かもしれないけど。
でも、正直、もう少し考えてくれないと、困る。

「シズちゃん」
「あ?」

振り返って首を僅かに傾けるシズちゃんは、周りの視線なんて感じていないんだろう。
でもね、でもだよ。
俺は、君と違って注目されるのに慣れてるわけじゃないんだよ。そもそも情報屋が目立ったっていいことないし。

「手、そろそろ離してくれないかな」
「何でだ?」

即座に返される問いは、純粋に疑問だけに満ちていた。
鈍感なのか、ピュアなのか。いや…両方か。
ああもうホント嫌になるね!と心の中だけで叫んで。
俺はシズちゃんのその――他意がないという意味で――純粋すぎる瞳をひたと見据えて、言った。

「真昼間の池袋の街中で、男二人…しかも俺とシズちゃんが、手を繋いで歩いてるとか、シュールすぎだろ。傍から見たら何があったんだって感じで気味が悪いよ?笑い話にもならないよ?」

そう、きっちり、シズちゃんにも分かるように言っってやったはずなのに、シズちゃんは不思議そうに何度か瞬いて。
それから、傾けた首をさらに少し傾がせる。

「?…恋人なんだから、別に問題ねぇだろ?」

………ねぇ、なんでさらっとそういうこと言えちゃうの。
一気に脱力して、俺はがっくりと項垂れた。
やってられない。それなに?天然?天然なの?

「ねぇ、シズちゃん。確かに君と俺は恋人になったかもしれないけど、男同士だってことちゃんと理解してる?」
「何か問題でもあるのか?」

きょとんとするシズちゃんは、本気で言っているようにしか見えない。
付き合い始めてまだ一週間も経っていないけど…まさかこういう男だったとは思わなかったよ。

「いや、あのさ…うん。とりあえず、みんなが注目してるから手を離そう?」

話はそれからだと真剣な顔をした俺に。
またしても目を瞬かせたシズちゃんは、だが手を離してはくれなかった。
視線で訴えてみるが、何か考えるような表情をして回りを見回す単細胞には通じない。
お願いだから早く、できれば今すぐ離して欲しいんだよ。
言いたくないから言わないけど、俺はただ手を繋ぐだけでも胸の動悸が激しくなるし、顔は意思と無関係に真っ赤になるし。いいことないんだよ。
しかも、しかもだ。
シズちゃんは場所を気にしないタチだから、ふとした拍子に抱きしめてくるし、油断すればキスだってしてくる。せめて誰もいないところでやれよと言ったところで、恋人だからの一言で片付けられてしまう。
いつくるか分からない不意打ちの連続に、いい意味でも悪い意味でも、俺の心臓はドキドキしっぱなしだ。…こいつ実は俺の心臓を止めるためにこんなことしてるんじゃないだろうかと邪推したくなる。
と、そんなことを考えていた俺にシズちゃんがくるりと身体を反転させて――、

「ちょ、シズちゃん!?」

何故かひょいと抱き上げられた。
何で!?と慌てる俺に、シズちゃんは溜息をつく。

「うるせぇ、黙っとけ。恥ずかしがりな臨也くんのために、仕方ねぇから場所を移動してやろうってんだからなぁ?」
「いやいやいや!仕方なくないよね!?っていうか俺が恥ずかしがりなわけじゃなくて!公共の場所で――っ!」

急にシズちゃんが動くものだから危うく舌を噛みそうになって、慌てて喋るのを止める。
どうやら俺が意図したところの一部だけは理解してもらえたらしいけど、担ぎ上げるのも十分恥ずかしいから!
離せ下ろせと喚いて想像力が足りない無神経野郎の背中をバシバシ叩いてみた。
が、まあ…さすがナイフが刺さらない男…まったく効いている気配がない。

「なぁノミ蟲」
「何、下ろしてくれる気になったの?」
「違ぇ」
「じゃあ何?」
「…手前は恥ずかしいって言うけどよ」
「言ってないからね!?俺はただ傍から見ると気持ち悪いって――」

反論する俺の言葉を聞いているのかいないのか。
シズちゃんは、大きな溜息をついて、それから、言った。


「手前が俺のだって、見せつけてぇんだから仕方ないだろうが」


………。

なに、それ。
不意打ちだ。不意打ち過ぎて、何か言葉を返すことさえ出来なくて。
もう、何と言うか…真っ赤になって俯くしかなかった。
天然なのか、確信犯なのか。
判断の難しいシズちゃんの言葉に、俺はうう…と唸ってから。
結局、シズちゃんの馬鹿、と小さく呟いて、担がれたまま肩の上で大人しくなるしかなかったのだった。












※天然静雄さんに振り回される臨也さん。