※毎度おなじみキス話。
















ほんの一瞬触れて、ちゅ、と音を立てて離れた唇に。
臨也はことりと首を傾けて、不思議そうな顔をした。
「シズちゃん?」
問うが、臨也を背後から抱き締める相手は答えない。
さらりと髪を撫でて、何度も口以外にもキスされて。
それに対してもう何も言わず、臨也は目を閉じて静雄のするがままに任せる。
と、くすりと笑われた。

「手前、本当にキスが好きだよな」

面白そうに言われるその言葉に、臨也は独特の色彩を持つ瞳を瞬かせた。
何を言いたいんだこいつは、と思ったのが伝わったのだろう。
静雄は笑みを深くして抱き込んだ臨也の身体をさらに密着させる。
「すっげぇ気持ちよさそうな顔するから、つい癖になる」
「…そんな顔した覚えないんだけど」
「してんだよ」
そんなことないと言って、キスしようとする相手から逃れようと顔を背ける。
だが、所詮は相手の腕の中に囲われている身だ。
あっさり奪われる唇に、臨也は反射で目を閉じて、結局遠慮なく侵入してくる舌を受け入れてしまう。
「ふ…ぅ…っ、ん」
たっぷり口内と苦味のある舌を嬲られて、くたりと体重を預ければ。
静雄は色素の薄い瞳を楽しげに眇めて、髪から覗く耳を軽く食んだ。

「ちょ、シズちゃん、それは」
「ん、嫌か?」
「い、や…じゃないけど…」

ちゅっと耳元で聞こえるリップ音がくすぐったさを呼び起こして、臨也は首を竦める。
抱き竦められたまま繰り返されるそれを嫌だとは思わない。
だが、何だかいいようにされている気がして、若干面白くなかった。

「シズちゃん、いい加減に――」
「嫌か?」

二度目の問いかけ。
それにムッとして不機嫌な顔で黙り込んだ臨也に。
静雄はふうと息を吐いて機嫌を取るようにこめかみにキスを贈る。
そのキスが機嫌を損ねている原因だとは考えていないらしい。

「…嫌じゃないよ」

キスは嫌じゃない。
繰り返されるそれが、静雄の思惑通り次第に気分を宥めていくのが複雑だったが、溜息一つで諦めて。
頭を彼の肩に預けて目を閉じた。

「シズちゃん」
「おう」
「もっとキスしてよ」

強請る声は出来るだけ素っ気無く。
不本意だと声音に示す一方で、甘えるように頭を摺り寄せて。
構われてやろうと言わんばかりの偉そうな態度を取ってみせる。
その姿を猫のようだと思われていることも承知の上だ。
唇を重ねて、ほんのり苦い味のするそれを食む。

「苦い」
「嫌か」

三度目の問いかけだ。いい加減聞き飽きた。
そう思うが律儀に首を振ってやって、臨也は口の端を吊り上げて笑って答える。
「もう慣れたよ。むしろ喫煙者でもないのに中毒になりそうなくらいだ」
「ふうん?」
くつくつと喉を鳴らして、静雄は臨也を抱く腕の力を強くした。
「なっちまえよ」
「…ん、んっ」
ぬるりと入り込む舌はさらに苦い。
臨也の反応を楽しむようなそれにムカついたので歯を立てるが、結果は分かりきっていた。
反撃とばかりに甘噛みされて、涙が滲む目で睨む。

「ん、は…っ…シズちゃん、こそ、キス好きだよね」
「まあな。手前とのキスは好きだ」

照れることすらなく言う相手に、逆に臨也の方が照れてしまいそうだ。

煙草臭いキスにはすっかり慣らされてしまった。甘やかされることも然り。
与えられる心地良さに溺れてしまいそうな日々は、どうにも慣れないのだけれど。

「お前も好きだろ?」

耳元で囁く声は、確信を持った人間のそれだ。
眉を寄せて首を振るが、キスの雨を降らされては虚勢を張り続けるのも難しい。
もうやだ、と脱力しきって。
臨也はクスクス笑いながら口付けてくる男を大人しく受け入れた。












※意地を張りたい(張りたかった)臨也さん。