例えば、こんな話。
※前提としてシズイザだけど静雄女体化。










「いや、ありえないって…」
臨也はその光景を見て一言、そう呟いた。








基本的に、折原臨也という人間は酷く現実主義者である。
別段そうあろうと思っているわけではなく、ただ事実としてそうなのだ。
しかし、周囲にそう思われているかというと微妙である。
むしろどこか普通からはずれた変人であるというのが一般的な感想であるはずだ。
だが、敢えて繰り返す。
基本的に、折原臨也という人間は酷く現実主義者である。






頭痛がする。
そう、臨也は本気で思った。
もちろん錯覚だが、精神的なダメージはそれ程大きかったという事だ。
この状況で現実逃避という手段を取れなかった自分を本気で呪いたいとまで思う。
だが結局、彼の無駄に頑強な精神はありとあらゆる逃避の手段を許さず、
「シズちゃんって常々化け物だとは思ってたけど、ついに変身までできるようになったんだねぇ」
と、呟くだけに止まった。いや、実際は逃避していたからこその言葉だったのかもしれないが。
女体化なんてマンガの中の出来事だと思ってたんだけど。そう考え、いやでも妖精がいるんだしそういうのもあるのかなと思考を続ける。
どちらにせよ、目の前で起こった事態だ。認めざるを得ないだろう。
そう結論づけて、臨也は静雄に視線を向けた。


とりあえず、現在の状況を報告するならば一言。『シズちゃんが女になっちゃいました』だけで済む。
常識や整合性やその他諸々は一切合財無視した上での言葉だが、これが事実であり現状である限り、これ以上の説明は無意味だった。


「………」

放心したまま微動だにしない静雄にどうしたものかと考える。
「まあ、妥当なところで新羅に連絡、かな」
それ以外に良い方法も解決策もあるとは思えない…解決するかどうかは別として。

「おーいシズちゃん。とりあえず新羅に連絡して来てもらうから服着てよ」
「………」
「シズちゃん。いつまでも呆けてたって状況は多分変わらないし、とりあえず色々アレだから服着て服」
「………」

これはダメそうだと、臨也は静雄に反応を期待することを諦めて手近の床に放られたままだったシャツを手早く羽織らせた。
意外と胸大きいなとかでもたぶん俺より背は高いんだろうなとか考えながら、他に異常がないか目線だけで確認し。
もとより細身ではあるがいつもよりさらに細い肩を撫でて宥める口調で告げる。

「シズちゃん。俺はさっきとりあえず君に殴られて起こされたからこれが現実だって痛いほど…っていうか本気で痛かったんだけどね…理解してる。だから君も呆けてないで状況把握に努めてよ?」

その言葉にようやくのろのろと視線が合わせられ、静雄は未だ正気に戻りきらない表情で頷いた。
そのことにとりあえず一歩前進したと考え、臨也は自身も床に落ちた服を拾い身に着けていく。
それを見るとはなしに見る静雄の視線がいつになく縋るようなそれで、臨也は正直背筋が寒い思いをする。
鳥肌立ちそう。口にはしなかったがそう思いながら、服を着終わった臨也は改めて問うために口を開いた。

「シズちゃん、昨日変なもの食べたり飲んだりしなかった?」
「いや、いつもと同じだ」
「じゃあ除外でいいかな。でもファーストフードばかり食べるのは身体に良くないよ、俺は心配はしないけど」
「…俺の勝手だろうが」
「まあね。じゃ、昨日いつもと違うことはなかった?誰かに会ったとかでも」
「いや……あ、」
「何?」
「変なヤツにぶつかった。そいつから妙な匂いがしてて…そのあとすぐ手前を見つけて」
「ふうん。変なヤツね」

その妙な匂いが原因かは分からないが、とりあえず早急に調べてみる必要はあるだろう。
臨也は携帯を片手に部屋を出ようとし、ふと思い出して静雄を振り返った。

「シズちゃん、とりあえず新羅呼ぶからちゃんと服着てよ。それ、いくら新羅が運び屋にしか興味がないって言っても男ならちょっとムラッと来るかも」
まあシズちゃんだって分かってるから問題はないだろうけどさ。

そう言って手を振って出て行く臨也に、静雄は漸く自身の状態に目がいった。

「ッッ!!」

息を呑んだ次の瞬間には、がつんと扉に目覚まし時計がめり込む音。女になっても怪力は健在らしい。
反射的に投げた当の静雄は、もはや悲惨な末路を辿った時計と扉には目もくれず急いで服をかき集めている。
それらの音を扉越しに聞きながら、

―部屋が破壊され尽くす前に元に戻って欲しいなぁ。

頼みの綱の闇医者の到着を待ちながら、臨也はため息をつくしかなかった。












※序。なんとなく女体化。
女体化する意味がなかった気がしつつ、話が進まないままとりあえず終了。続くかどうかは気分次第。